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ごく普通の言語聴覚士がセラピスト開業の道を選んだ理由

こんにちは。
言語聴覚士(げんごちょうかくし)のななさんと申します。
この記事は、「セラピスト開業マガジン」と題したマガジンのひとつの記事です。

各記事300円の単品購入をすることもできますが、3000円で一括購入いただくと、マガジンに含まれている記事を全て読むことができます。買い切り式のマガジン(=月額制マガジンではない)なので、新たに記事が追加されると、一度買った人はその記事もすべて読めます。

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言語相談室を開業しました

この記事を書いているななさんは、言語聴覚士として自分のお店(ことばの相談室)を開業しました。名前を「ことばの相談室ことり」と言います。

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また、「コトリドリル」という教材ブランドを立ち上げました。こちらは現在、ネット上のみでの販売です。

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私の仕事は言語聴覚士といって、医療系国家資格のひとつです。専門学校で資格を取り、病院や施設などでの勤務を経て、その経験をもとに独立しました。開業するまでは、留学経験や起業経験といった特別なバックグラウンドなどもなく、生まれがすごいとか、そうしたことは特別無く、ごくごく普通の会社員でした。

今回は、そんなわたしがなぜ開業したのかをお話します。
これまでの経歴や前職退職時の年収・いま現在の事務所家賃なども書いてあります。

開業の経緯を書く目的

開業やフリーランスを目指すにあたり、すでに多くの立派な先生方がいます。わたしの経験はいちサンプルに過ぎません。
繰り返しますが、わたしの経歴はたいしたことありません。もしかすると、たいしたことないからこそ役に立つということはあるかもしれません。また、フレッシュな記憶を頼りに、飾ることなく事実を公開しているという点で、お役に立つかもしれません。

前回の記事でも同じことを書きましたが、どちらかというと、ライバルは少ないほうがよく(?)、自分にとっては知られないほうが有利なのか!?とも思います。ただ、やはり業界全体が賑やかな感じになってくれたほうが、メリットが大きいのだと思います。

また、このままでは10〜20年後に、言語聴覚療法自体の貴重な財産を活かす場自体が消滅してしまうのではという危機感もあります。

摂食嚥下療法や人工内耳など、医療的介入ベースで残しやすい技術は言語聴覚士の手により、あるいは、そのほかの担い手により今後も存続するでしょう。

しかし、ことば/発音/吃音の支援法・指導法は、小児・成人ともに、ロストテクノロジーになってしまうかもしれません。それはない、と言い切れる人はどれほど居るでしょうか。

個人的には、いつでも現実になる可能性があると思っています。そして、それは一人ひとりの言語聴覚士の"腕のよさ・まずさ"を理由にしてではなく、我々の状況を取り巻く、もうすこし広く間接的な理由から起こると思います。

医療の財源・人的資源が有限であること、一般利用者の診察控えが起こると医療機関の経営が悪化することが、コロナ禍のもとで明るみになってきました(本当は、もうずっと前から医療費はやばかったのですが)。言語聴覚士側、サービスの受け手側ともに、自費でやれる道を切り開いておくことに社会的な意義があると思います。

次の世代へのバトンとして

ところで、わたしも若年層のカテゴリーにギリギリ入ると思いますが、自分より若い人に対し、優秀だな〜〜とびっくりすることが増えました。世の中には、嫉妬するには次元が違うほどにスマートで行動力を兼ね備えた才気ある若い人が大勢います。かつてとは、勉強方法もさま変わりしています。情報をうまく取り入れて短期間で賢くなる方法が洗練され、昔とはまったく変わっているのだろうと思います。

きっと数年後には、ひとつ下の世代(いま20代前半〜の世代)から、わたしよりもずっと上手いやり方・思いもよらない方法で、この業界を牽引してくれるリーダーが現れてくれるのでは?とおおいに期待をふくらませています。そして、このマガジンが、その方々にバトンをつなぐ一助となればいいなと思っています。わたしが紆余曲折経て導き出したルートを、セーブポイントとして使っていただき、もっとずっと先の世界を見せてほしいのです。

なぜキャリアの早期に開業しようと思ったか

もともと、療法士のキャリアアップには、以下の3つがあると考えていました。

① 叩き上げ出世ルート=施設の管理職になる
② アカデミックルート=研究職、大学や養成校の教員・講師、執筆
③ 開業or起業(はぐれルート)

言語聴覚士を志望した段階〜1年目のあたりで、ぼんやりとこの3択を見据えていました。しかし、実際には、いずれも自分にとってはとてつもなく高いハードルに思えました。

言語聴覚士がリハビリ科のトップになるの、超難しいのでは?

まず、①の叩き上げ出世ルートです。リハビリテーション科という大所帯の組織(病院などでは100名規模、老健など福祉施設でも10〜20名規模)にて役職に就くというのは、どう考えても自分には向かないとわかりました。なぜなら、リハビリの業界は超がつくほど体育会系の世界だからです。

さらに、仮に体育会系的な環境に順応できたとして、管理職を目指すためには年数が必要です。医療業界では、営業や販売、開発職のように、実力で売り上げや貢献度が変わるわけでなく、誰が施術をしても一律で同じ診療報酬を請求します。役職は、そのとき在職している顔ぶれのなかから、ほぼ年功序列によって決まります。つまり、上に経験年数が長い職員が居れば、自分に管理職が回ってくるまでに何年もかかります。

加えて、「言語聴覚士がリハビリテーション科のトップには立たない」という慣行が存在します。たいてい、トップ(部長や室長)は理学療法士か作業療法士です。そんなことない、例外もあるよ、とおっしゃる方も多いですが、全体からするといったい何割の話になるのでしょうか。そうしたひとつひとつの要素(向き不向き・年功序列・他職種に比べての不利)を掛け合わせていくと・・・管理職としてわたしがキャリアを積んでいく道にはかなり無理があるなと気づきました。

研究したい人ほど安い給料・・・なぜなのか

次に、②アカデミックルートです。臨床研究を希望するならば、大学病院あるいはそれに類する急性期病院への就職を、と薦められました。
お勉強がそこそこできたので、養成校からしてみれば、急性期回復期維持期の3択で急性期いっとけば〜ということだったのでしょう。

しかし、その気になり、どれどれと大学病院の求人を見たところ・・・

やばい、年収低すぎ・・・??

待遇の悪さと求められるスキルの高さとのギャップに唖然としました。

基本給18万円、土日祝交代勤務、週5〜6日、初年度は契約雇用(※非正規職員)、ボーナスの記載なしetc、etc...。

え・・・待って、・・・やばくない???

大学病院は高度で専門的な医療を提供する病院です。積極的な自己研鑽を求められ、なかには、英会話能力まで要件にある求人もありました(そういえば、最近ニュースになった某大学病院でした)。

大学病院に勤める人に話を聞くと、夜の9時や10時まで「勉強している」という名目でのサービス残業が当たり前。むしろ、研究に携われていてキャリアになるのだからありがたく思うべき、ということでした。

いやいや、ちょっと待てと(3回目)。

かつて新人のころは、キチョーナケイケンを積める素晴らしい病院に勤めると、あとから素晴らしいボーナスタイムがやってくるのかなー!?なーんて素朴に思っていました。けれど、特にそんなことはないようです。むしろキツくてキャリアを中断するリスクすらあるかも。病院のパワハラってすさまじいですよね。

医療業界七不思議。なぜ優秀な人ほど安い給与に甘んじるのか

なにより不信に思ったのが、それでも大学病院に勤めたいと希望する人が後を立たないこと。それも、優秀な方々ばかり。社会的に意義のある仕事だと甘言を囁かれます。いっときは、それで心を慰めることはできます。たとえば大学病院ではケーシーではなく白衣を着て、よそおい上ドクターと対等な扱いを受けることもあります(年収はまったくの全然に違いますが)。

余談ですが、医師の場合、大学病院自体の給与は400〜700万円程度ですが、高額の当直アルバイトをすることで、合計1000万円〜程となり、キャリアと年収を両立させることができます(それでも老健などの勤務医や開業医などと比べて年収や労働時間に対する報酬給は低いです)。

そのほかのコ・メディカル/パラ・メディカルは医師のような高額アルバイトは存在しませんから、大学病院での、あの給与水準(初年度200万円代)で生活することはほぼ不可能です。しかし、プロとして同水準の質のはたらきを求められます。それはとても理不尽だなと感じます。

研究者の道・・・は挫折

大学病院以外にも、きちんと大学院に行って研究者になる道も考えました。

しかし、かなりの年数を投資する必要があること。にもかかわらず、リターンが確実でないことに不安を感じました。それと、研究計画書を書こうとして普通にまったく書けませんでした。それで、才能無いなと思ったのでいったんやめました。挫折です。

個人の見解ですが、研究者として大成するには、体力・知力・才能に加え、何より必要なのが、


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