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「この子は邪悪」の感想(ネタバレあり)

コロコロ印象の変わる展開

サイコサスペンス的なジャンルの映画なのかと思って観ていたら、どんどん予想と違う味わいに変わっていくのが面白かった。

「いや、そうはならんやろ、、、」としか思えない、催眠療法のその先の人間の魂を入れ替える荒技とか馬鹿馬鹿しくて笑ってしまうのだけど、その真相が判明してからフランケン・シュタインみたいな切ないホラーになっていき、最終的に指をクルクルする赤ちゃんのカットの後、タイトルのこの子は邪悪!という文字が出て、まさかのオーメンみたいな余韻で終わっていく。

もう日本の現実で起きている話とは思えないバランスになっているけど、作り手のやりたい事が前に出過ぎな感じがとても無邪気で嫌いになれないバランスの作品だった。

本来の主人公である南沙良のキャラクターが、実は物語の中心にいる訳ではないのも何とも変わっている。
家の外から家族を監視している純が一番客観的な目線を持っているし、どちらかというと彼の方が主人公っぽい。
でもそこから更に不思議なのが、真相が明らかになってからはどちらかというと父親である玉木宏の目線に変わっていくのもまた面白くて、とんでも催眠療法を使い、倫理観を越えても愛する人を再生したかった悲しくも狂った男の物語として終わっていく。

ホラー的なセンスの良さ

撮影とかはしっかり怖さを引き立たせる不穏な暗さで良い雰囲気だったし、舞台になっているどこの町にもありそうな少し周りから浮いた洋館的な家のロケーションも不気味で良かったし、ホラー映画として画作りのセンスも素晴らしかったと思う。

登場人物達の何となく現実とズレた佇まいは黒沢清的なホラー味も感じたし、正常だった人が奇人へと変容してしまう描写とか、人間を兎に変えるというブラックジョーク的なアイデアとかはジョーダン・ピールの映画とかも思い出したし、色んな要素の組み合わせ方も良い。

片岡翔監督作品は今回初めて観たけど、次作以降も楽しみになったし、変な映画いっぱい撮って欲しい。

登場人物

キャスト的には「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の時からどんどん美しさが増してきている南沙良の儚げなホラーヒロインな雰囲気も良かったし、十年くらい前なら市川実和子がやってそうな大きい目がホラー映えしまくりな母親役の桜井ユキもとても良かった。目ん玉ギョロギョロの所は今後翠ジンソーダのCMとか大丈夫かな?と思う位気持ち悪くてめちゃくちゃ笑ってしまった。

あと何と言ってもこれまでもサイコパス的な役はたまにやっていたけど今回の狂った父親役の玉木宏がとても印象に残る。
催眠療法を極めるとドクターストレンジレベルの魂を入れ替える魔法が出来るという口あんぐりなぶっ飛びアイデアも最早面白いし、よりによってウサギと入れ替えというのがあまりにブラックジョーク過ぎて爆笑してしまった。(だとしたら虫食っているのとかウサギとしておかしいのだけど、二ノ宮隆太郎がやり過ぎててここも笑っちゃう。)

虐待をした親をウサギにして、子供達を救うという事をしてきた彼が、いざ自分の娘が亡くなりそうになったら他の子どもと入れ替えて殺す事に躊躇ないのが一人よがりの偽善という感じがして観ながら結構ゾッとしたし、その後家族が再び揃った時に心の底から喜んで涙を流しているのが振り返ると改めてヤバい。あとその状況で姿が変わった奥さん性欲剥き出しなのも凄い。ここまでのぶっ飛びサイコパスを演じた事はなさそうだし、本人も演じてるのがとっても楽しそう。

純役の大西流星も頼りないながらも真相を調べていく佇まいも良かった。
結局玉木宏にされるがままでミイラ狩りがミイラというかウサギにされてしまうのだけど、さりげなくラストの母親ウサギからちょっと追い払われている様な描写がサラッと入るのが救いがなくて好きだった。

ただ気になった所も多くて正直ラストの方の物語の真相が明らかになる語り口がめちゃくちゃ説明的でもう少し上手く出来なかったのかな、とは思った。

それとあのウサギと入れ替わった人たちが当たり前の様に今もアパート暮らしとかをしているのが謎だった。というか食事も出来ないだろうし、どうして生きられているのかよく分からない。寓話的な世界観なので野暮かもしれないけどネグレクトの実際の社会問題とかを入れるのであればもう少し現実と地続きと感じれるリアルさも必要だった気がする。

ラストでタイトルの意味が分かるみたいな作りにはなっているのだけど、正直「邪悪」という言葉があんまりピンとこないし、映画全体のイメージに合わせたタイトルがもっとあったんじゃないかなという気もした。

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