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「13人の命」の感想(ネタバレあり)

シネマクティフ東京支部さんでやっているPodcastの「Diggin' Amazon Prime Video」というコーナーにゲストで参加させて頂いていて、今月のお題になっているのでよろしければこちらもお願い致します。
↓こちらのPodcastではネタバレなしでお話しさせてもらっています。


ロン・ハワード監督

ロン・ハワード監督の作品は近作しか観れていないけど、請け負った題材をしっかり映画的な魅力あふれる作品に出来る職人監督の名匠という印象がある。

特に「ハン・ソロ」は世間的には評判が悪かった印象だけど、僕は大好きで正直「フォースの覚醒」から始まった新三部作より全然面白かった。
クリストファー・ミラーとフィル・ロードが監督降板し、かなりゴタゴタしてた思うのだけど、西部劇的な魅力でしっかりまとめ上げられていたし、騙し合いの末に無邪気なままで大人になったハン・ソロというキャラクターの前日譚として良く出来ていたと思う。

今作も記憶に新しい実在の奇跡の様な救出劇を映画化するにあたり少年たちは救出されたが、実際に亡くなっている人もいたりする訳で、ただただ良い話の感動作として描くには不謹慎な気がするし時期も早いだけに結構バランスが難しい気もするのだけど、見事に職人監督として満点の仕事をしていたと思う。

そしてこの映画のメインの登場人物達自体がとても職人的で、必要以上にそれぞれの事情にフォーカスもしないし、決してウェットにもしない、淡々とした語り口がカッコいい。

あくまでその時その人がどんな佇まいで、どういう行動を取り、どんな表情をしているのかを見せる事で登場人物の人となりを、こちらに想像させようとする、つまりとても映画的な語り口の作品になっている。

実際の偉業を語る上で

それと単純にニュース映像などで何回も見て知ってる気になってたけど、改めて今作の再現を観ると、いかに凄い事をしてたのかがよく分かってその点も面白かった。

序盤に増水したせいで動けなくなった作業員を数十メートル運ぶだけで血まみれなっている救助シーン入れる事で、いかに生きた人間を運ぶ事が大変なのかを示していて語り口も上手いし、その後彼等がしないといけない子供達の救出の困難さをこの時点で予感させてくる。

更に最初から最後まで何度も洞窟内の地図を出し、そこまで行くのに何時間かかるのかを示す描写が分かりやすく入ってくるので、潜水経験のない人間を連れて帰る事のほぼ不可能さを突きつけてくる。

だからこそ制限時間がある中で実際に行った作戦の偉業と、いかに無謀だったのか事件のほぼ全容を見れた感じがして、再現映画としても満足度が高い。

それともう一つの救出作戦である洞窟に入る穴をふさいで雨水がこれ以上入らない様に頑張る人達のエピソードも、僕は全然ニュースとかで語られてた記憶がなかったし、その水の流れを変える為に自分たちの田畑を犠牲にした人々が居た事も今回の映画で知れて凄く良かった思う。
実際どれ程の効果があったか分かりづらいし、どうしても救出チーム側にスポットが当たりがちになると思うのだけど、確実にこうやって何かを犠牲にした人々が居た事を掬い上げようと、この映画を作られた意義にも感動した。

救出チームの人々の描き方

救出チームの人々を決して単純に英雄として描かない様に撮っているのも、とても上品だと思う。

特に探索に向かったリックとジョンが少年達を発見するのだけど、明らかに困った顔を隠せない感じがとても生々しい。
要はほぼ亡くなっていると思って死体を見つけて運ぶ仕事のつもりが、生きていたせいで不可能に近い救出作戦に変わる事の戸惑いというか、ほとんど絶望みたいな部分を全く隠さないで映しているのがなかなか凄い。一応モデルになった人もいると思うのだけど大丈夫なのかという気持ちになった。
それでも明らかに戸惑った様子のリックに対し、子供がいるジョンは彼らがロクに飲まず食わずで何日も過ごしていた事を称える言葉をかける所とかで、それぞれの人柄に厚みを持たすのは演出として抜かりがない。

その後の麻酔で眠らせて運ぶ作戦がかなり無茶で、運んでる途中で死ぬ可能性もかなり高いし、登場人物もみんな一か八かという感覚で挑戦してる感じとかは、観てるこちらは成功すると分かっていてもめちゃくちゃ怖い。
当然だけど死んだら責任取る人がいたんだ、、、と思うだけで観ながら胃がキリキリする感覚だった。

あと個人的には、救出後みんながお互いを讃えあう中、ジョエル・エドガートンの父親が亡くなっていた事が分かるシーンの語り過ぎない切ない雰囲気が凄く好きだった。
やはりここでもニュース映像では語られない犠牲を掬い取っているのが良かった。

タイ映画でいうとこないだ「女神の継承」を観たばかりだったので、女神を起こすとバチが当たるみたいな話にかなり説得力を感じてしまった。
この映画でも事件が起きる時に女神の像をなめ回す様に撮るので、不吉さがより増して見える。まるで女神を目覚めさせてしまった罰と人間に手に負えない自然の脅威を重ねる様な演出になっている気がした。
だからこそ決して勝てないし、数えきれない人の代償を伴いながら、子供達を救い出した偉業を全く湿っぽくなく称える様な作りにとても感動した。

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