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宮本から君への感想(ネタバレあり)

映画版だけじゃなく前日譚であるドラマ版に関してもネタバレしております

イオンシネマ京都桂川で鑑賞。 結構混んでた。

この映画を観る前にドラマ版をAmazonプライム・ビデオで鑑賞した。
原作で言うと前半部をドラマ版でやってクライマックス周辺を映画でやっているのだと思う。

ドラマ版のざっくりした感想

ドラマ版前半は華村あすか演じる甲田美沙子との恋模様がメインで描かれる。
まあしかし、ここの華村あすかさんの可愛いさが凄まじくてそりゃあ好きになってしまう。
甲田さん自体はずるい所もあるキャラクターなのだけど、華村あすかさんがとっても透明感があるのでそこまで嫌な感じがしなくて、それ故に哀しい。

他、合間に入るエピソードも良くて宮本に想いを寄せる三浦透子演じる茂垣さんとのやりとりも切なくて大好き。

ここの宮本は、学生時代のキラキラした思い出を引きずり仕事にも身が入らず、そのくせ色んな事にこだわりまくって空回りしてるのだけど、今思い返すと本当に愛おしい。

甲田さんとの恋は彼女が前の男に復縁を申し込まれたせいで、宮本はあっさり捨てられてしまう。
振られて傷つきまくっているのに男としてこうするべきだ!と自ら自分の想いを押し殺して一人相撲してる感じが可笑しくも切ない。

結局未練タラタラで彼女の職場に営業で来たふりをして会いに行く所の池松壮亮の素晴らしい泣き顔に笑いながら泣いた。彼女に最初に声をかけた「僕の名前は宮本浩です!!!」が繰り返される瞬間に胸が締め付けられる。宮本にとって最初の大きな敗北シーン。

ドラマ版後半は松山ケンイチ演じる超仕事出来る先輩の神保さんとの仕事がんばるぜ!パート。大きな契約をライバル会社の営業と取り合う話がメインになっていく。

とにかくこの新保さんが松山ケンイチ史上でもトップクラスの名キャラクターで本当に頼りがいがあってカッコイイ。

そして彼が仕事を辞めるので引継ぎを宮本が任されるのだけど観ながら誰もが「いや!宮本には無理じゃない!?」という気がしてきて、あげく観てるこちらの仕事の事とか思い出し嫌な気持ちになる事必至。

あと名キャラクターで言うと浅香航大演じるライバル会社の営業マン益戸。初登場の時点で「こいつ、絶対悪い奴!」と一発で分かるキャラの立ち具合。神保とバチバチやり合うシーンが最高で松山ケンイチと浅香航大の演技合戦がとても見応えがある。

ここでマルキタという宮本が働いている会社の面々との絆が深まっていく様子が本当に熱い。宮本の熱に当てられ段々と周りの人間が協力していく様子が丁寧で、中盤で部長の攻撃から課長や新保が庇うシーンはめちゃくちゃ泣いた。記号的な逆境展開を並べて糞つまらない熱血お仕事ドラマを量産しているTBSの日曜劇場とかは見習った方がいいと思う。

結局最後はライバル会社に仕事を取られてしまうのだけど、やることを全てやって全力で燃え尽きたのも分かるので爽やかにも感じる。しかしまた負けられない勝負で敗北してしまう宮本。

ドラマのラストは再び甲田さんと再会し酒を飲んでるシーンでしんみり終わっていくのかと、思いきや甲田さんが再び男に捨てられたのが発覚し宮本にすり寄ってくる鬼展開。ただでさえ仕事で精神状態ボロボロなのに彼女の為に「ふざけんな!くそったれ女!」と叫び嫌われ様とするシーンの胸が痛い事、結局彼女の方には思いは(たぶん)伝わらず「見損なった」と罵られ、泣きながら去っていく宮本の背中でドラマが終わっていく、、、ハード過ぎる、、、

映画版の感想

という感じでドラマ版を観てから映画版を観るのと、映画版だけを観るとでは、結構印象が違うと思う。
まあ見事にまとめているので映画だけでも素晴らしいのだけど、ドラマ版を観ていると、これまで彼がいかに敗北感を味わってサラリーマン生活を送ってきたのかが分かるので、冒頭から星野英利が優しくしてたり、松山ケンイチがアドバイスしてくれる所とかでチビチビ泣いてしまうし、第1話で「作り笑いも上手く出来ない、、、」と話していた時期を思い返すと、人前で心の底から笑顔になっている彼を観ているだけで感動しっぱなし。
あと恋愛に関しても前の男を忘れられないという理由でドラマ版では甲田さんに振られた訳だし、前の恋人に未練がある靖子に対してかける言葉が「今度は絶対離さない!」という意思が痛い程伝わってきて、前半でもうすでに顔がびちょびちょになる。

映画にしてもドラマにしてもこの作品の一番の魅力は主人公宮本のキャラクターなので長い時間一緒に付き合う方が絶対良いと思うし僕はやっぱりドラマ観てから映画に行くのをオススメしたい。

そして最後、これまで恋でも仕事でも絶対に負けられない勝負で負け続けてきた彼がついにささやかな勝利を掴む所では更に号泣してしまう。
靖子の言う通り喧嘩で勝つのも自己満足なのだけど、心象ナレーションで暗い事をぼやきながらずっと悩んでいた彼が声に出して「俺の人生はバラ色だから!」と自分を肯定するシーンで胸がいっぱいになる。

この映画のパート自体は結構重いエピソードの所だとは思うのだけど、時系列的に今回メインである喧嘩が終わったシーンから始まり、ヒロインである靖子と恋愛関係に発展した数か月前のエピソードが交互に入ってくる形にした事で、この後もこの二人の関係が続いていると分かるので、一本道で語るより映画全体が重々しい印象がしなくなってていい構成だと思った。

原作の新井英樹の漫画でよく見られる、とても緊迫してるのに傍から見るとなんか笑える場面の空気感もしっかり再現出来ていて良かった。

例えば靖子が強姦された後に宮本が彼女を抱きしめるシーン、役者二人の熱演もありあまりの熱さに圧倒されるし緊迫感もあるのだけど、宮本が勃起してるという情報が入ってそれも含め喧嘩がヒートアップしていく感じとかどういう気持ちになればいいんだ、、、となる凄い新井英樹漫画っぽい描写だなぁと思った。

吉田恵輔監督が「愛しのアイリーン」を実写化した時も結構重要な要素だったしここを見事に再現出来るかで、新井英樹漫画の良し悪しが決まる気がする。要はユーモアもありつつも、馬鹿っぽく見せず、役者の演技の熱量も引き出せる腕のある監督じゃないと新井英樹漫画の実写化は務まらない。それで言うと吉田監督も真利子監督も原作への愛も含め申し分ない人選だった。

特に真利子監督に関しては「ディストラクションベイビーズ」でもそうだったけど暴力の怖さや痛さの表現が抜群に上手いので、今回の真淵拓馬の暴力描写は本当に恐ろしい。ラストの非常階段での喧嘩は思わず声出しちゃうくらいビックリ映像になっていた。

あと映像のルックがテレビドラマの映画版という感じじゃなくちゃんと映画になっているのも安心した。ドラマ版では出来なかった濃密なラブシーンや暴力描写も手加減なく描かれていてちゃんと映画としての完成度を追いかけているのが伝わってくる。

キャスト陣の素晴らしさは言うまでもない。
当たり前に池松壮亮は最高。原作の宮本をここまで違和感なく生身の人間として体現できているのはまず凄い。だって電柱柱で逆立ち腕立て伏せしてても「宮本だしやるよね」と現実の事として普通に思えるもん(僕は思えた)。

池松壮亮が本気で前歯を抜いて撮影に挑もうとして、周りの人から止められるというエピソードがあったらしいけど、それも納得する位スクリーンから本人の気合がビシビシ伝わってきた。スタローンをロッキーと同一視してしまうのと同じレベルで池松壮亮と宮本を重ねて見てしまう。それくらい一体化していた。間違いなく池松壮亮史上ベストアクトだと思う。

蒼井優もこの人しかいないレベルで靖子役を好演していた。池松壮亮とのコンビは「斬」から引き続き相変わらず息ぴったりで、2人ともめちゃくちゃエキセントリックなキャラクターなのに、とても自然に幸せなカップルに見える。それ故に降りかかる悲劇が悲しい。

そして最大の悪役を演じた真淵拓馬役の一ノ瀬ワタルも素晴らしくて、池松壮亮に全く引きを取らない嫌な貫禄を見せていた。映画の為に30kg増量して「しんどかったけど、この映画の為に死んでも良いと思った」と笑顔で話すインタビュー映像がヤバい。

ドラマから引き続き宮本浩次の楽曲もピッタリハマってた。ドラマ版の「easy go」は宮本の若さを象徴する様な曲だったけど、今回の「Do you remember?」は映画版で、やっと居場所を見つけた宮本の心情と重なるし、エンドロールの佐内正史の爽やか写真と合わさってじんわり沁みる。

という感じでドラマ版から好きになり過ぎて、1本の映画として最早判断しにくいのだけど、宮本というキャラクターの人生が一区切りした事に凄まじく感動したのでとても大好きな1本になった。
真利子監督、前作のディストラクション・ベイビーズも面白かったけど、今回は更にエネルギーに溢れた大傑作だと思う。今後の活躍も楽しみ。


2019年10月26日 追記分

観てからしばらく経つのだけど、宮本の事が頭から離れなくて、仕事とかでしんどい事があった時に「宮本ならどうするかなぁ」とふと考えたりしてしまう。
それくらい観る前と観た後でとは世界の見方が変わってしまう程のパワーがある作品だと思う。

タイトルの通り「君へ」という部分こそが重要な意味がある映画だと今はひしひし感じてて、自分の感想を読み返しながら「こんなもんじゃ自分がこの作品を好きである証明になっていないのではないか?」とか考えてしまい、往生際悪く追記してしまった。

宮本が目の前の誰かの為や自分の為に放つ言葉が、スクリーンを越えてこちらに突き刺さる。僕は精神的にちょうど少し弱ってた時期にこの作品を観てラストの「怖くねぇぞ、生きてるヤツはみんな強えんだ!」という宮本の言葉に後追いで凄く救われている。
映画内の文脈とかもはや関係なく、彼が発する強い言葉の数々を思い出す度「頑張らないとなぁ」と単純に励まされる。
本当に「君へ」という言葉の通りの力を持った大傑作だと思う。

あと今更原作を読んだのだけど、改めて映画版の切り取り方がとても見事な事に気づいた。

原作の映画パート部分は当然だけどドラマ版パートのエピソードからかなり地続き。例えばドラマ最終回の土下座事件で険悪になった島貫部長との仲直りのきっかけとしてピエール瀧が演じてたマムシや佐藤二朗演じる大野が出てきたりするし、ドラマ版では苦しく終わったエピソードにもかなり救いがある。

あと原作は絵柄もそうだし、キャラクターの見た目もそうなのだけどギャグマンガ的なシーンが多め。最後の琢磨との対決のエピソードの所も合間に入るキャラクターが宮本の想いとは関係なく軽いトーンで入ってきたりするのでそこまでキツ過ぎない。

ドラマや映画両方に入らないエピソードも沢山あるのだけど、群像劇的な要素をドラマや映画はあえて抜いている感じがした。

何をポイントに今回の実写版は製作されているかというとやはり池松壮亮演じる宮本の主観から見ている世界、という部分だと思う。映画版は時間もタイトな事もあり、そこをさらに強調している。宮本1人の人生によりフォーカスする事でタイトルの「宮本から」の部分の純度が増している。

当然だけど生身の人間が演じる事でより実在感が増すので同じ世界にいる人の話であるという意味合いも強いのだけど、あんまり上手くない役者が演じたら冷めるだけだしここのハードルを越えてるのが凄い。
池松壮亮の武器の自然な話し方の上手さとエキセントリックさが活かされ「今そこにいる宮本」像が見事に作り出されている。
だから何というか、より「俺もこいつと同じ位は無理でもしっかり頑張らないとな」という気持ちになる。馬鹿みたいな言い方だけど「元気がもらえる映画」だ。

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