「岸辺露伴ルーヴルへ行く」の感想(ネタバレあり)
ドラマ版の感想
NHKで毎年年末にドラマをやっていた「岸辺露伴は動かない」の映画版。
原作は荒木飛呂彦の大人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の人気キャラ岸辺露伴のスピンオフシリーズになる訳だけど、ドラマからこの岸辺露伴というキャラクター一本でジョジョの世界を実写化するという狙いが素晴らしいと思いながら見ていた。
それまで三池監督版の四部の実写映画化があった。
個人的に役者陣の名演や見せ場の作り方とかも良いし決して出来は悪くなかったと思うけど、長編漫画を実写映画にする事の難しさを感じたし、「ジョジョの奇妙な冒険」という物語がそもそも長く続いていく事自体が面白さに繋がっている作品なので、それを日本が舞台とはいえ途中の四部からスタートして実写映画シリーズにしようとするのはやはり無理があったと思う。
それに対して一話完結の短編の岸辺露伴のシリーズを「スタンド能力」等の説明等を上手く省いて、少し大人な怪奇ドラマテイストにして年に3話くらいのちょうど良いペースでドラマシリーズ化した狙いが本当に素晴らしい。
そんなドラマ版からジョジョの世界であるという説得力があるロケーション選びのセンスは素晴らしいと思っていたけど、今回はついに海外ロケでしかもルーヴル美術館で撮影という規模のスケールアップ感が、TVドラマの映画化という点で正しい。
原作からのブラッシュアップ
これもドラマから引き続きなのだけど、原作通りの展開なのに、そこを違和感なく実写にしていく手腕が今回の映画版も凄い。
血筋による自分の呪われた運命を受け入れ乗り越えるという物語自体がスピンオフでありながらしっかり「ジョジョの奇妙な冒険」というシリーズを象徴していて、原作は読んでいたけど改めてジョジョ濃度が高い一編だったんだなぁと思った。
原作はルーヴル美術館の地下で酷い目に遭う人達は、何の罪も無いのにみんなブラックジョーク的なスプラッターな死に方をしていく感じで本当気の毒なのだけど、今回は殺される人間達を悪役に設定し、罪のない女性職員は助かるというチューニングをしていて、この辺はなかなか良いアレンジだったと思う。
原作だとそれ程じゃなくても実写にすると脳みそが飛び出る死に方等R15位の映画になりそうだし、お話し的にも岸辺露伴に巻き込まれる形でみんな死んでしまう展開でかなり後味が悪くなってしまいそうだし、ジョジョファン的にはこの理不尽がよくある展開なので読み慣れているけど、初めての人にも見やすいバランス感覚がかなり優れている。
あと原作ではルーヴルの地下の部屋のドアを開けた瞬間から視界に絵が飛び込んできて阿鼻叫喚の地獄展開になるのだけど、今作でしっかり間を入れて段階的に恐怖を演出していくような描き方が映画として上手い気がした。
特に泉やエマを避難させる冷静さがありつつも、命を落とす事になるのが分かっていながら「どうしても見る事をやめる事が出来ない」というのが、好奇心に憑りつかれた岸辺露伴というキャラクターを原作からより強調出来ていると思うし、「観る事をやめる事が出来ない」僕らの視点とも重なって映画的なホラー演出としても素晴らしかったと思う。
そして満を持して登場する黒い絵から浮かび上がる木村文乃の表情とかも思わずゾクッとなる怖さがしっかりあって、めちゃくちゃ良かった。
キャラクター
もう他の人ではイメージ出来ない高橋一生の岸辺露伴のシンクロっぷりはドラマシリーズから引き続き素晴らしい。
かなり癖のあるしゃべり方とか岸辺露伴を実写化する上でヘンテコになり過ぎない様めちゃくちゃバランスを考えている感じがする。
今回は露伴にプラスで仁左右衛門も高橋一生が演じていて、仁左右衛門自体は露伴と血の繋がりはない設定の筈なので、同じ顔というのは違和感があったのだけど、心が似ているからこそ仁左右衛門の画の本質に近づける人間として露伴しかいなかったという理解で納得した。
あと原作では本来あまり登場しない泉くんを演じた飯豊まりえも暗い世界観の中での清涼剤的な役割を演じきれていた。
あれだけ怖い「黒い絵」をもってしても効果なしで、全く後ろめたいモノを持たない女として、ジョジョのテーマの「人間賛歌」を実は一番表現出来ている気もする。黄金の精神を持つ女。
そして何と行っても今回一番印象に残ったのは木村文乃だった。
冒頭のこの世の者と思えない様な妖艶な色気が凄い。あの宿舎でのくだりはほぼ原作通りなのだけど、隣に座る様に手をトントンとやるジェスチャーとか、実写で観ても思わずドキッとする素晴らしい映画的な演出になっていたし、その後の電気を消した闇の中で「黒い絵」を語りだす所もしっかり原作超えをしている怖さと美しさを感じる素晴らしい名演だったと思う。
という感じでドラマ版から引き続き面白い作品になっていた。岸辺露伴のエピソードはまだあるし、ドラマシリーズは年に一話とかでも良いので続けていって欲しいなあ。
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