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ノースマン 導かれし復讐者の感想(ネタバレあり)

神話をそのまま映画にしている感じの手触りで、普通の作品とは違う登場人物達の情動の変化とかがヘンテコにも思えるのだけど、映画としての画作りのセンスや圧倒的なロケーションの力や役者達の名演も凄まじいので、本作独特の味としてグイグイ引き込まれた。

漫画作品の「ヴィンランド・サガ」を読んでいた効果で、ヴァイキングのド外道っぷりとか、奴隷の人々の境遇とかが飲み込みやすくて、やっぱり幸村先生は偉大だなぁと思いながら観ていた。
というかどちらかというと、そういう今ある北欧の物語の源流になるのが今作の原作になると思うので当然といえば当然かもしれない。

映画的な見せ場の数々

描いている事は寓話的なのに、戦場にいる様な緊張感たっぷりのワンカット撮影や、血生臭すぎるリアルな暴力描写、俳優たちのムキムキな肉体美など、ギョッとする様な生々しい実在感が画面から浮き出てくる映画的な面白さが凄い。

奴隷になって敵地に潜り込むシーンは、舐めてた相手が殺人マシーンだった映画ジャンル的な面白さと同時に、敵側からすれば身の回りの人が次々と猟奇的な死に方をしていく感じで同監督の「ウィッチ」とかにも通じる気持ち悪い描写なのだけど、今回は主人公の方が仕掛ける側なのが面白くて、だんだんノイローゼ気味になっていく敵側が気の毒になってくる様なバランス。
中盤の死体の並べ方とか残酷過ぎて笑ってしまう。

そのほかにモンド映画的な野蛮な儀式シーンが全部最悪で最高。
序盤の主人公が王になる為の通過儀礼の儀式からしてよく分からないけどドラッグ描写みたいなテンションの高さで観ていて楽しい。
それ以降もよく分からないヴァイキングの踊りやら、事あるごとに人を当たり前に生け贄にする風習やら(葬式で人殺すシーンが酷い)、あと儀式じゃ無いけど中盤に燃やして殺す為に人を家に押し込めるシーンとか、悪趣味な見せ場としてめちゃくちゃ面白い。

アムレート

あくまで彼の目線から観た英雄譚で、傍から見ると歪な物語にも見えるのだけど彼の中ではハッピーエンドになっているバランス感が面白かった。

後半で自分と父親の命を奪おうとした首謀者が実は母親だと判明し、打ちのめされて一旦恋人と逃げる事を選ぶのだけど、子供がいる事を感じ取る事で叔父の手から守る為に殺しに戻る。

それを良い話として描くバランスではなく、そんな大した力も無さそうな叔父と家族全員を皆殺しにするのは観ていてとても痛ましい。
あくまで彼の中では自分の信じたものを貫いてハッピーエンドになっている様なバランスに見えた。

演じたアレクサンダー・スカルスガルドはこれ以上なく神話的な美しい筋肉を体現していて、彼の身体もこの映画の大事なポイントだと思う。
そしてスカルガルド親子は父親も弟もこういう恨めしく人を見上げる目つきがみんなヤバくて最高だなぁ。

フィヨルニル

フィヨルニル目線で考えるとクーデターを起こした後、あっさり国を追われ更に厳しい土地で貧しい暮らしをしていて、そこに追い打ちをかける様によく分からないスーパーパワーに導かれたアムレートがやってくる。
アムレート側からすれば英雄譚なのだけど、彼からするとその神話的な力が立ちはだかる呪いでしかなくてめちゃくちゃ気の毒。
神話を映画にする面白さと、一方で神の力なんてロクなもんじゃないという目線の両方が入る感じとかは「エクソダス神と王」等のリドリー・スコット作品とかとも近い雰囲気を感じた。
ラストに家族全員殺された後、ヤケクソ気味に素裸で斬り合うシーンが異常なテンションで最高だった。

ただ気の毒と言えば気の毒なのだけど、奴隷への扱いの酷さとか見るとその時代の人間としてはまともかも知れないが、観ているこちらとしては全く善人には見えないので、酷い目にあってもそこまで可哀想にも思えないバランス感にもなっているのが絶妙だと思う。

オルガ

今回も「ウィッチ」から引き続き魔女っぽいアニャ・テイラー=ジョイは華があって素晴らしい。
よく考えれば彼女の生い立ちとかほぼ説明されないし、後半の助けに戻って温泉見つけて主人公を癒やす展開とか、どういうこと?って感じなのだけど、狂った世界で何としても生き残ろうとするガッツみたいなものが見てて気持ち良い。この辺は次のマッドマックスのスピンオフとも通じる雰囲気があるんじゃないかと予想している。
夜伽役としてフィヨルニルが彼女を選ぶシーンはとても感じが悪いのだけど、その切り抜け方とかもすごい勢いでカッコいい。
しかしフィヨルニルは改めて絶望的に女性を見る目がないな、、、。

あと信じた父親も確かに王の貫禄みたいなモノが登場から漂ってはいるのだけど、出だしから無理矢理引き連れている奴隷達の顔がしっかり印象付けられる。
この時点で良き王というのが引っかかるので、後半の妻からの告白の説得力が強い。
そういう貫禄と胡散臭さというのがイーサン・ホークという俳優にピッタリでこのキャスティングも素晴らしい。

あと母親役のニコール・キッドマンも冒頭から絶対に腹に一物ある感じなのだけど、後半の告白シーンでの迫力などさすが名優だなぁという印象。
そこですら本心がどうなのか分からない様に見える様な凄みと、アムレートの殺される最後の言葉も味わい深かった。

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