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「子供はわかってあげない」の感想(ネタバレあり)

沖田修一監督最新作

他者から何かを教わるそれが教えられた人の中に生きていく事、気持ちが伝わる事で子供から大人に成長していくことの素晴らしさと、抗えずどうしても親に似てしまう血筋によって形成される本人象の愛しさ。
最近の家族映画は血筋に縛られてしまう事をある意味呪いとして描く作品がなんとなく多い気がする。
でも今作は主人公が今の家族、実の父親、誰かに何かを教わること、教えること、自分を形成する全てを愛でる事で大人になっていく様な青春映画になっていて全編沖田監督らしい優しさに満ちていてとても好きな作品になった。

本来の公開時期は去年の同監督作の「おらおらでひとりいぐも」と同年に二作公開になる予定で、あちらは年老いた人の目線から、例え今は孤独でも出会ったものは自分の中で生きて背中を押してくれる、それを称える事のすばらしさを描いた傑作だったけど、今作と二つで人生を讃歌する様なテーマがより浮き出てくる感じがした。

大マンモス展のチラシとかあったし同一世界観。

教える事、教わる事

「な!」の先生とかも、最初はキャラの濃さもあり笑って観てたけど最後に新しく部長になった子が「な」を繰り返した所で、あの先生ももしかしたら誰かから「な」を引き継いで言ってたかも知れないと思えてきた。ここにも引き継がれていく事の愛おしさがある。

美波と父親との絆を深めていくきっかけも教える事と教わる事だ。

結局美波に自分の能力は伝えられなかったけど、ラストにトヨエツが死体の様に浮かんで終わるのが、教祖として誰かに教えを説く事ではなく、彼の中で彼女から教わった事が生き続けている、それが救いになっているみたいで湿っぽくないけど、とても感動的。

美波

よく考えたらお話とかめちゃくちゃヘンテコだし冗長に感じでもおかしくないのだけど、キャスト同士のやりとりがいちいち魅力的で、全く退屈する事なく最後まで観れた。
長回しが多いのだけどキャストが醸し出す自然な空気感を信じきって演出しているのが観ていて伝わってくる。

その中でも上白石萌歌演じる美波は一際存在感を放っていた。

彼女は真剣な場でどうしても笑ってしまう癖がある。沖田監督の演出がコミカルなので最初の内は観ていて笑ってしまうのだけど同時に自分の本当の心の痛みから逃げる防衛本能にも見える。

そんな彼女が自分のルーツである父親と向き合い、今の家族に隠していた想いを母親にぶつけ、痛みを越えて成長しようとしている様子がとても心に響く。

だからラストの告白シーンは泣けてしょうがなかった。
彼女の言葉を待つ門司の優しさ、美波の言葉の選び方、単に恋が成就したとかを越えて彼女がむき出しの心で必要としている人に、真剣で正直な言葉を発しているのが伝わってくる。彼女の成長をしっかり描いて映画が終わっていく。

冒頭の父と子の関係性を示唆する様なアニメのシーンの使い方も上手くて、真剣になると笑ってしまう彼女がここでは涙を流している。
フィクションを通してなら自分と境遇の近いモノに涙を流せるし、全てが変わる門司との出会いもこのアニメがきっかけだし、物語がある事の肯定してるみたいでさりげないけどグッとくる。

耳に溜まった水で彼女の引っかかっている想いとかを表現してるのも演出として巧み。

演じるトヨエツが過去最高に可愛い。
浜辺を2人で歩くシーンは沖田監督の演出が冴えまくっているし演者2人の熱演もあって何故か分からないけどとても涙腺を刺激された。

娘に対する愛情表現の仕方が何とも不器用で可笑しい。
彼の能力に関しては本物かどうかは実際よく分からないし(ハンバーグ作る所のかすり具合が絶妙な胡散臭さ)、彼女に伝える事も出来なかったけど、隠居した彼が自分の能力の事や教祖としての立場を忘れて過ごせた彼女との時間は救いになっている様子が観ていて愛おしい。

門司

書道家の家系という事で、まあ堅い価値観の家族なのだろうなぁとは兄との関係性とかで、さりげなく示唆されていくのだけど、彼が自分の受け継いだモノを子供達に教えている様子を見ているとマイナスな面だけないんだなぁと思えてくる。
家族から受け継いできたものの良い面と悪い面の両方が見えてくるバランス感がとても好きだ。

そんな彼が自分の好きなアニメキャラを、絵の具やノートに落書きするのじゃなく墨汁と筆で書いているのは歪だけど、彼にしか出来ない好きなモノへの愛情表現なのだと思うと切実に感じる。絵自体はあんまり上手くないのだけど、美波が喜んでくれた彼の世界が広がっていく感じが笑いながらも泣けた。

彼の書いた龍が飛び出て天井を破った話がその後の展開に繋がる感じも素敵。お互いの名前を書き合う所で2人が繋がり、小さな奇跡の様な時間が生まれていく所は胸がいっぱいになる。


他のキャストもみんな良くて、美波の同級生もみんな魅力的だし、事あるごとに泣いてる千葉雄大も何か分からないけど涙腺を刺激する瞬間を観てるこちらと共感してるみたいで凄く良い。
あと何と言っても斉藤由貴のお母さんの飄々としてるけど優しい存在感。今年度ベストおかん賞だと思う。

子ども演出

子どもの演出が本当上手い。
指示された事をやっている様には見えない位みんな自然体で周りにいる大人のキャストもそれが当たり前にそれを受け入れている感じが凄い。
冒頭の弟君のいつまでブリーフ一丁なんだよ!って感じとかこの家庭の日常なんだろうなというのが説明なしでも自然に伝わってくる。

習字教室のくだりも先生をしている細田佳央太と大勢の子供たちの関係性も違和感なしで信頼関係があってとても素敵なシーン。

そしてなんといっても後半の父と美波の家に自然にいる仁子ちゃん役の中島琴音ちゃんの素晴らしさ。トヨエツに段々足を絡めて最終的に肩車の形になっていくくだりとか、まじでどういう風に演出してるのか、それともしていないのかは分からないけど、ああいう奇跡みたいな瞬間を毎回切り取れる沖田監督の手腕はやっぱ凄い。
彼女が美波に最後お礼の絵を渡す所の子供故の照れ隠しの様なドライな去り方も逆に涙腺を刺激されて本当良い。

そんな感じ沖田監督らしいユーモアに溢れつつも、映画としての演出、撮影、演者等のクオリティがめちゃくちゃ高くて、とても上質な傑作だった。
ちょっと前まで緩いコメディ映画監督って印象だったけど近作はどれも素晴らしくて、いよいよ大物監督としての風格が漂ってきたと思うわ、

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