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「映画大好きポンポさん」の感想(ネタバレあり)

MOVIX京都で鑑賞。
一席開けた状態だったけど多分満席でかなり前の席で見上げながら観た。
早めにネット予約したつもりだったのにどの回も凄く多くて危なく観れない所だった。

映画讃歌映画

前半は世界観や登場人物の説明、監督や女優の大抜擢、撮影までの流れの語り口の手際が良くてめちゃくちゃ上手い。
ただあまりに良い人しか出ないし、撮影に入っても大したトラブルもないし、登場人物の葛藤もなく、正直観ながら「ぬるくない?」と思い始めていた辺りで、後半の編集シーンから登場人物が映画を作る事に対する切実さがドーンと増してくる構成にやられる。

「映画作り」を描いた作品はこれまで何度も観た事があるけど、大体「撮影」が一番の盛り上がりに持ってくる事が多かった気がする。
撮影中のトラブル、俳優やスタッフが言う事聞かない、機材や備品がない、等等これまでの定番的な映画作り映画の試練ではなく、今作は「編集」を一番の盛り上がりに持ってきているのが新しいし、リアルだと思った。

撮影が終わった素材を映画として繋ぎあわせる為に、切り落とし、作品のテーマを明確にしていく。
それは順調に思えた撮影の労力が無かった事になってしまう様にも思えてくるし、これはここまで彼等の撮影を追いかけてきた観ているこちらとしても、なかなか辛い展開。
あれ程、チームで作っていった仕事の素晴らしさを描いていたのに、「僕にとってこの映画とは?」と、脚本に書かれた物語を越えて一人の人間が孤独と向き合う事で映画を突き詰めていくのが重い。

だからこそ彼の中の「正解」を信じる為に、再撮影に掛かる労力や予算がどれ程のものなのかしっかり説明した後、もう一度チームが集まり協力していく展開が感動的だった。
ここで銀行なども交えシビアにお金の問題とかも入れるあたりも巧み。

「みんなで作る事の素晴らしさ」から「一人の人間が自分と向き合う孤独」、そして「その孤独をみんなで共有して作る事の素晴らしさ」、そこからそれを観た誰かが救われていく「映画」がある事そのものを肯定していく様な後半の流れに涙が止まらなかった。
自分が映画を観ている理由そのものを肯定してもらえている様な気持ちになった。

物語と作り手のシンクロ描写

後半の編集シーンのもう一つ素晴らしい点が、劇中で作られていく「MEISTER」とジーンの心情がだんだんシンクロしていく語り口の上手さ。ジーンと指揮者の男、全く境遇も違うはずなのにジーンが「これは僕の話だ」と、深く繋がっていくのを示すカットバックの使い方が本当に巧みでめちゃくちゃ高揚感があった。

ポンポさんがヒロインのナタリーをイメージしたあて書きした脚本と言っていたけど、編集になって「MEISTER」の主人公が監督であるジーンを投影したモノになっていくのが分かる所はとても映画的なエモーションがあった。

そしてその作り手の物語が、また誰かにとっての物語になっていく事の素晴らしさ。

ミスミソウの2人

演じてる声優さんはみんな素晴らしかったのだけど、清水尋也と大谷凛香が出てると個人的に大好きなミスミソウを思い出してしまった。
清水尋也はミスミソウのラストシーンのカメラで撮影してる所のヤバさが結構今回の映画撮影シーンと重なる様な気も。というか普通に声優として演技がめちゃくちゃ上手いのにもビックリ。

後、大谷凛香の声が凄い独特なのにこの役にはこの声しかない唯一無二な感じで凄かった。上手いとかとも違うのだけど常に不安気なナタリーのイメージにピッタリで不思議なマジックが起きていたと思う。

気になった所

まあでも正直、人間性が欠けている人間にこそ素晴らしいものが作れる!という考え方に寄りすぎなのはちょっと危ういな、とも思った。
もちろんポンポさんやジーン君の考え方はそうなのだから今回の作品がそれで良いんだけど、色んな人間の色んなスタイルの作品作りがある、という示唆があってもいい気がした。

ラストの病院抜け出して編集続ける所は熱いといえば熱いけど、やっぱあそこまで無理して作り続けて、鬱になったり、身体壊れちゃったりするんだろうなぁ、と現実と繋げて考えてしまう。

という感じで、気になる所もありつつ「映画作り映画」の最前線作品として、新たな傑作になっていると思う。

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