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「アイム・ユア・ウーマン」の感想(ネタバレあり)
シネマクティフ東京支部さんでやっているPodcastの「Diggin' Amazon Prime Video」というコーナーに参加させて頂いていて、そちらのお題になった作品。
ちなみにこちら↓では、ネタバレ無しでお話しさせてもらっていますので、よろしくお願い致します。
子連れハラハラ映画
監督も知らなかったし、どういう作品かもよく分からず観始めたけど、めちゃくちゃ上質で面白い映画でビックリした。
このPodcastに参加させてもらわなかったら出会えない作品だったので、ronpeさんとけんすさんには感謝しかない。
犯罪を、なりわいにしている家族がトラブルで逃げる話自体は、そんなに珍しくはないと思うのだけど、主人公は旦那が悪い事をしているのは知りつつも、どこまでヤバい仕事をしているのか全く分からないので、観ているこちらも彼女と同じ様に次から次に起こる事態に翻弄されっぱなし。
しかもそれだけでも大変なのに生後間もない赤ちゃんを連れて逃げないといけないというのが更に緊張感を増していて観ていて常にハラハラしてしまう。
夫の言うがまま育てる事になった子供を逃亡中の為に文字通りに誰の助けも得られず一人で育てる事になるのだけど、彼女が育児ノイローゼ気味になっていく前半の描写が観ていて辛い。
だからこそ、そこで助っ人的に現れるおばさんに対して警戒はしつつもどうしても心を許してしまうのも分かるし、後の展開とか考えるとかなり切ない。
彼女の視線に寄り添って話が進むので最後までギャング映画的な男達の派閥争いの全容は分からないのだけど、最後の最後に彼女が全てのケリをつける様な一発がとてもカタルシスがあった。
レイチェル・ブロズナハン
主演がレイチェル・ブロズナハンという俳優さんなのだけど、今作に関しては共同で製作と脚本も兼ねているらしい。僕はこの脚本がとても素晴らしいと思った。
冒頭に彼女の状況をナレーションで自ら説明するんですけど、そこ以降は自然な会話の流れのとか出てくるアイテムとかで映画的に心情を語って、後半は伏線を回収していく。
例えば彼女は料理が上手くなくて、繰り返し目玉焼きを作ろうとして卵が上手く割れないシーンが出てくるのだけど、夫の反応とか彼女が苛立って壁にぶつける所とかは、「卵」というのが何を象徴して彼女が何に一番コンプレックスを持っているのか?というのが分かる様になっていてこの辺とか上手いと思う。
あと中盤で彼女の護衛役のカルという男性との会話シーンで母親をやっていく自信がないと弱音を吐く所があるのだけど、そこで彼が言う「赤ちゃんが笑っていたら大丈夫」ってアドバイスがラストの隠れ家の床を開けた瞬間の赤ちゃんの笑顔と繋がっていて、そこもとても感動した。
途中、迷い込んだコインランドリーでこれまで避け続けた普通の人の目線に身じろぐのだけど、隣のおばあさんが言う「大丈夫?」という言葉に思わず泣き出す所もとても良かった。
駆け寄ってタオルをかける女性とかを引きで撮る構図も凄く上品で泣いた。
あと終盤でエディの死の報告に対して、全然関係ないカフェの店員さんのコーヒーを入れながら「雨がやんだね」と言う間とかめちゃくちゃ良くて、ここから彼女を縛っていたものが無くなり、クライマックスに向かっていく流れが凄く好き。
演技自体も素晴らしくて、ずっと受け身で状況に翻弄されるだけだった彼女が少しずつ行動を起こしていく顔つきの変化の出し方が素晴らしい。
自分がこれまでいかに何も知らずに生きてきたのか?という事を理解し、その中でだんだんだ覚悟を決めていく感じが凄くカッコ良い。
漂うコミカルさ
演出はどのシーンも静かで常に引いた目線で、緊張感は漂いつつも主人公ジーンの冗談が通じなさそうな堅物さもあり、それ故のコミカルさもある。「この豆美味しい」の間とか笑う。
車で寝てて警察に尋問される所とかもハラハラするシーンなのに、切り抜けた後の「私嘘つくの上手くない?」って自慢げに言う所とか思わずクスッとしてしまう。
この緊張感&クスッとする笑いの割合がなかなか独特で唯一無二な映画になっていると思う。
冒頭のタグを切るモノを見つけられないシーンもそうだし、彼女が怒りを爆発させる様に卵を投げる所とかも切実でありながらも、やっぱちょっと可笑しさもある感じ。
そんな感じで、前情報なしで観たけどとても良い映画だった。一見地味でなかなか人に魅力を伝えにくい作品ではあるけど、僕はとても好き。
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