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「ザッハトルテ」の感想(ネタバレあり)

Amazonプライム・ビデオオリジナルの配信作品。

ラブコメ映画としてのクオリティが普通に高い。

冒頭の彼にとって「運命的な出逢い」と思ってしまう意中の彼女との時間の描き方が素晴らしいし、同時に主人公が会社をサボって朝から女性を口説いているという「社会人としてダメだろ」という冷静な目線も入っている。
そのしっぺ返しの様に上司からの電話によって彼女との繋がりを断たれてしまう流れとか、自業自得にも見えて味わい深い。

この彼の子供っぽさみたいな部分が憎めない描き方になっていて、周りの人達も結構好意的に受け取っているバランスで、悪い人が1人も出てこない作品になっていた。
とはいえ、その中で本当に大切な人に気づいていく彼の精神的な成長過程を楽しくそれでいてしっかり描ききれていてラブコメ映画のお手本みたいな快作だったと思う。

運命の相手ミミと出逢い楽しい時間を過ごした後、惜しくも繋がれる機会をドタバタで逃し続けるシーンとか、彼女をウィーンで待つ間に気になっていくミリアムのチャーミングさに段々惹かれていく過程と、魅力的な女性2人のどちらを自分は好きなのか?揺れ動いていく感じとか、ラブコメとしてベタベタな展開だけど演出とかが堅実で最後まで本当に楽しく観れた。

主人公がビフォアサンライズを引用してくるのだけど、ビフォアサンライズだけに憧れていて、どんどん苦味が増してくる続編2作の話が出ない。
これがそのまま彼が「運命的な出逢い」というものにだけ憧れている気がして、実は相手が生身の人間であることを見れていないのだけど、運命の相手を待っているその時間に出逢った人達との交流で彼が大人になっていく流れが魅力的だった。

兄がマッチングアプリで出会った彼女と仲良く暮らしているのに対して、割と冷たい反応をしているのだけど、どう見てもこの2人がとても素晴らしいカップルで兄が冒頭に言う通り「大事な人なら出逢い方は関係ない」と言うセリフが全てでそこに彼が気づくまでの話とも言える気がする。

誰も傷つけないラストも良かった。
こういう話だと誰かしら傷ついて終わる事が多い気がするのだけど、全ての登場人物に気遣いが行き渡っている感じで、誰も傷つかず誰も死なないで、ハッピーエンドに終わっていくのが優しい。

主人公以外の登場人物もみんな良くてまず彼が恋をするニニが振り返った瞬間にもう華があって、主人公が入れ込んでいくのも分からなくもない説得力があったし、それに対してウィーンで出会うヒロインになっていくミリアムの地味な印象の時と、めちゃくちゃ可愛いく見える時の振り幅が大きい雰囲気とかもとても素敵だった。

車いすに乗っている主人公の兄も良い存在感。
感動のネタになりそうな彼とのエピソードをそこまで語り過ぎない感じが個人的には上品な印象で好き。

あとカールがルームシェアしているルームメイトの面々も個性的でそれぞれ愉快で観ている間ずっと楽しい。

主人公がやっているのは明らかに非効率的な方法だし、めちゃくちゃで周りの人から止められたりするのだけど、それに対して誰かが言う「世界にはロマンチックな人が必要」ってセリフが凄く良くて、ラブコメど真ん中のこの映画そのものを象徴している様にも感じた。

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