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すばらしき世界の感想(ネタバレあり)
イオンシネマ京都桂川で鑑賞。
上映開始から1か月以上経ち1日1回しかやってなかったけど、かなり混んでた。
個人的には西川美和監督作品では今作が一番好き。
役者さんをその世界で生きているとしか思えない生々しさで撮るのが本当に上手い監督だとは思っていたけど、今回主演の役所広司の存在感の凄みと明らかに化学変化を起こしていたと思う。
映画としてのレベルの高さ
どの要素を取っても映画として、とにかく全部の要素がハイレベルだった。
パンフに脚本が付いていたけどこれだけで既に、ずっと読んでいられる位面白いし、一流の演者と監督の演出力の高さで、登場人物がそこで生きているとしか思えない実在感を醸し出している。
もちろんこの映画が作られる社会的な意義の要素もある。出所したばかりの人がまず生活保護を受ける描写とか自動車免許失効になってしまうのとか、生々しい。
今のシステムで立場が弱い人が働いていく事の世知辛さ、それでも周りに良い人はいたりする下町人情感は、ちょっとケン・ローチっぽい気もした。ラストの後味も「私はダニエル・ブレイク」にちょっと似てた。
それでいてコミカルなシーンも結構あって、この辺も相変わらず西川監督はバランスが良い。
アパートで下の階の住人と喧嘩する所とか、役所広司の階段が踏み外しかたから面白くてずっと笑って観てた。
音楽も良くて、個人的には予告で流れていた出所して今度こそ堅気で生きると決意する皮肉っぽく流れるテーマ曲と、それに対してラストの空に出るタイトルの後、流れる優しいテーマ曲が印象に残る。彼の優しさと理解出来なさを感傷的にならないバランスで表現していた。
人間臭い演出の上手さ
最初に彼を送り出す刑務所の刑務官、貧乏ゆすりしまくってる女医、運転免許の更新を説明する女性警官、アパート下に住む外国人労働者と元やくざのゴリライモ(パンフの脚本読んだら役名もゴリライモだった)、三上の運転に思わず笑いをこらえる運転免許所の教官と後部座席の覇気のない若者、半年後に子供を迎えに行く風俗の女性、等等、少ししか出ない人にもちゃんとこの世界で生きていてそれぞれの人生があり、記号的なキャラクターとして流して観れない魅力がある。
今回一番嫌な感じを出していた終盤の介護ヘルパーの若者ですら、いじめるきっかけになったのは介護をせずゲームをしていた彼に対する怒りから来ている訳だしあんないじめで何か解決するわけではないにしろ、仕事をする人間として共感出来るバランスになっていたりする。
主要登場人物も感じの悪い演技では最近の日本映画だとトップクラスに上手い北村有起哉や六角精児など、「あぁ、また嫌な気持ちになる演技を見せつけてくるんだろうなぁ、、、(誉め言葉)」と思っていたら登場する度にどんどん印象が変わり予想を裏切られるし、それだけにこんだけ良い人がそばにいても三上の人生がなかなか好転していかないのが切ない。
誰の事も完全にいい人としては描かないけど、決して見捨てないフラットな西川監督の目線が素晴らしかった。
正直に生きるという事
三上は暴力的になった時に明らかに生き生きしているのだけど、それは娑婆で生きていく為には抑えていかないといけない。
なんとなく僕はこの本質的に当たり前に暴力がある人が蓋をして生きていくしかなくて、でもそれはこちらが想像が及ばない位本人にとっては苦痛で、、、みたいな人物像って全然トーンは違うけど「ランボー」とかと重ねて観てしまう。
なんといっても最後の介護施設での三上が我慢する表情の凄まじさ。
介護師の若者の憎たらしい演技も嫌な気持ちにさせてくるし、同時に自分の激情に飲まれるだけだった彼がこれまで支えてくれた人達の期待を裏切らなかった感動もある、そして自分らしさを抑え込む事の心の痛みもガンガン伝わってきて、このシーンは観ていて自分でもどういう感情なのか分からなくなった。
しかもこういう不本意な悪意みたいなモノを飲み込まなければいけないシュチュエーションって誰でも経験があると思うし、彼の様な痛みもなく当たり前の様に流してきた自分に対する居心地の悪さもあって頭がグラグラした。
登場人物
三上
冒頭の刑務所のシーンで人物像が既に垣間見える。
刑務官とのやりとりから気の良さそうなおじさんに見えるんだけど、出所手続きの問答の所で殺人を犯した事に対する罪の意識が全くない事が分かる。
結局刑務所にこれだけいても反省していないし、罪を償ったと言えるのか既に疑問が浮かんでくる。
基本的に話が分かる人に対してはめちゃくちゃ優しいし、態度の激変ぶりが不穏ではあるけど素直になれるのはやっぱこの人のいい所だと思う。でもやっぱり激情が抑えられず優しくしてくれた人にすらキツく当たってしまい、その後後悔してたりする感じがなんとも生き辛そう。
途中の津乃田との電話シーン、母親を探して泣きじゃくる子供を挟みながら、彼の心が壊れている事の根本に母親からの愛情を受けられなかった事が分かってくる。
途中の風俗で働く女性に対して優しい視線を送っているのも自分のこうあって欲しい母親像と重ねているみたいで切ない。
だからこそ自分がいた施設を訪ねて同じ様な境遇の子供達と遊び泣き崩れる所で、人生の終盤でやっと僕には「母親離れ」が出来た様に見えて凄く感動してしまった。
共感できる人懐っこさと共感出来ない暴力性と、演じている役所広司本人の隠し切れない凄みみたいな部分が全部合わさって圧倒的な華があったと思う。
最近観た映画の中でもこれだけ「主役の存在感」で引っ張る映画ってあんまりなかったのではないかと思う。
主演男優賞の演技ってこういうのを言うんだと思った。改めて「役所広司ってやっぱスゲー」という馬鹿みたいな感想しか出ない位凄い。
津乃田
その圧倒的な主役に対して普通の青年として映画を観ている僕らの目線でそばで見ている仲野太賀演じる津乃田の味わい深さ。
最近は「仲野太賀が出てたらとりあえず観なきゃなぁ」という感じで日本映画を観ている気がするのだけど、今回の津乃田はめちゃくちゃいい仲野太賀だった。
他人から依頼を受けカメラを通して三上を観察していた彼が最終的に被写体ではなく、三上のルーツに触れる事で一人の人間として向き合い小説という「物語」であなたの人生を残していくと約束する所は泣けてしょうがなかった。
そんな感じで作品として巧さもあるけど、それ以上にこの三上というキャラが思い出す度に切なくなる位好きになってしまった。
役所広司史上一番好きかもしれない。
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