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「ギャング・オブ・ラゴス」の感想(ネタバレあり)

Amazonプライム・ビデオオリジナル配信作品。

タイトルの通りギャング映画なのだけど、映画冒頭から「倉庫から物を盗んでいる奴」「不当にみかじめ料を取っている奴」「子供が子供をナイフで脅して親から金を奪いとろうとする」等、ラゴスという街のヤバさを示すシーンの数々で映画に引き込まれる。
それでいてこの行為に及んでいるのが映画の主要人物達で、彼等が行う犯罪がそのキャラクターの紹介として印象付けられるのとか何気に上手い。

ナイジェリアのラゴスが舞台のギャング映画は今回初めて観た。
こういうあまり日本人的に馴染みのない国のギャングモノを観る上で楽しみにしているのが、その土地柄が出る暴力描写なのだけど、今作はその期待に応えるフレッシュな暴力描写が沢山あって面白かった。

悪役であるカジームなどがまさにそうなのだけど、民族衣装っぽいゆったりした服を着てあまりシルエットを見せないからこそ、そこからいきなりデカい銃が出てくるシーンの迫力とかはオリジナリティを感じるし、貧富の差もあり銃がない若者とかは鉈とかバットとか斧とか即死できない武器での抗争になるので観ていてとても痛々しくて、アメリカ映画とかでは観ないバランス感だと思う。
内臓は飛び出すし、しっかり痛そうなバイオレンス描写の本気度が高くて、ギャング映画としてしっかり暴力の怖さを描こうとする姿勢に好感を持った。

あと印象に残った暴力描写は、過去編でロンドンのクラブにニノがも銃を持って乗り込むシーンがあるのだけど、ここでの他のお客の反応が良い。
普通のギャング映画だと、殴り込みシーンではお客が「キャー!」と騒ぐのが普通だと思うのだけど、全然騒がないですぐに地面に伏せて嵐が去るのを静かにみんな待っていて、いかに日常的に暴力に晒されて生きているのかが示されている細かいけどめちゃくちゃ良いディティールだと思った。

そしてその暴力描写を映し出す撮影も素晴らしかった。画にパキッと陰影が効いていて常に緊張感がある様な渋さが漂っていて、ギャング映画としての強い迫力があった。

それでいて暴力的なアクションシーン自体は生々しい感じではなく現代のエンターテイメント映画的なテンポの良いスタイリッシュな肉弾アクションシーンが多くて、血みどろさとエンタメ性のバランスが何とも独特だなぁと思う。

オバロラ

子供時代は母親がアラクバラという神様の除霊みたいなものを強要してくるのだけど、ほぼ虐待的な体罰を繰り返してきてオバロラは精神をすり減らしている。
それに対して手を差し伸べてくれるのが彼の父親代わりになってくれるニノなのだけど、このヒステリックな母親から逃げてタフな世界に生きる男に憧れそちらの世界にどんどん足を踏み入れていく感じはバリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」の前半部とかに近い印象。

街から出ていく事を夢見ているのだけど、親友であるイフィを失う事で闘う事を選び、逃げるのではなく自分が生きる場所を良くしていく生き方を選び映画が終わっていくのが感動的だった。

イフィ

チームのムードメーカー的な存在なのだけど、カジームの命令との板挟みになっていくのが観ていて辛い。
本来暴力的な世界にいるべきじゃなく歌手としての活動に集中したいのだけど結局最も残酷な形で命を落としてしまう。彼の殺され方がやり過ぎな位、残酷で観ながらちょっと引いてしまう位だった。
音楽家志望の若者が搾取されてしまう話としても面白かったので彼の物語の分量がもっと多くても良かった気もする。歌普通に良かったのでもっと聴きたかった。

ニノ
少年時代の主人公を父親代わりに面倒を見てくれる。この辺のやりとりも「ムーンライト」っぽい雰囲気。
最初の方のシーンで「ゴッド・ファーザー」のドン・コルレオーネ的に相談に来た人たちの相談に乗ってあげているのが彼のギャングとしての人柄をよく示していた。
演じた役者さんが良い存在感でカジームとの対比のバランスが見事だったと思う。

ギフト

女性なのにこの映画でトップクラスの戦闘能力を持っているのが、あんまり普通のギャング映画で見ないバランス。女性が闘いの場にいるくらいは最近のギャング映画でも見る気がするけどここまで強いというのは珍しい気がする。
ラスト主人公が敗れたタイミングでカジームを撃ち殺す所はカタルシスがあって良かった。

カジーム

今作の一番の悪役になるのだけど、それ故にギャング映画として一番華がある。
普段は陽気なおじさんみたいな雰囲気でさほど怖くないのだけど、その陽気さのままで驚く様な暴力性を発揮してくる感じがめちゃくちゃ怖い。
特に舞台が現在になってからのお金を盗んだ部下を見せしめに痛めつけるシーンがあるのだけど、異常性が際立つ名暴力シーンだったと思う。
デンゼル・ワシントンみたいな雰囲気で怖い。

その娘テニも重要な存在。
この子供時代の時演じていた子役から、大人を演じた女優さんの若干感じの悪い雰囲気が微妙に噛み合わなくて、それが役柄として絶妙だと思う。
子供時代は同じ目線の子だったけど、大人になってから権力者の娘として、オバスコ達とは住む世界が違うというのが明確に線引きされている感じがする。
ラストのオバスコを見上げる表情とか今後の関係を考えるとゾクッとする。

オープニングのアニメとかはモロに最近のアメコミ映画的な雰囲気で、今回の緊迫感のある映画に合っているのかというと微妙な気もするのだけど、この辺はやりたい事をやっている無邪気さを感じてあんまり嫌いにはなれない感じで笑っちゃった。

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