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ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスの感想(ネタバレあり)

MCU最新作。ドクターストレンジの2作目でありながら、こないだの「スパイダーマン・ノーウェイ・ホーム」や、ドラマ「ロキ」以上にマルチバース要素が前面に打ち出された作品。


縦軸(時間)と横軸(マルチバース)

「ドクター・ストレンジ」一作目は「あともう少し病院に着くのが早ければ手の神経が繋がっていた」とか「私たちは時を選べない」というセリフの数々でも分かるけど魔法という何でもありな要素を描きつつも「時間」には誰も勝てない事が作品のテーマになっていた。その鏡として悪役であるカエシリウスが時間の概念に打ち勝つ不老不死の方法を探求している。
そんな時間に翻弄され続けたストレンジが最期に失った時間と向き合い操る事で誰かを守るヒーローとしての自覚に目覚める話だった。

この「時間と向き合う事」が彼にとっての縦軸になっているとするなら、今回は別の選択で他の可能性が無限にあって、もっと幸せになる道への誘惑みたいなものがひしめく「マルチバース」がそのまま彼の横軸のお話になっていると思った。
そして誰かの為に自分が犠牲になる事を選べる強さを前作で手に入れた訳だけど、世界の命運が懸かった時に自らを犠牲にする事も含めて、他者に頼る事が出来ない事が今作の彼の問題点になっている。

どのユニバースのストレンジも「自分でメスを握らずにはいられない」人間なのだけど、そんな自分の生き方と改めて向き合い、他者を信じて持っているメスを委ねる事で再びヒーローとしての自覚を取り戻す展開が僕はしっかり感動的だったと思う。

この彼の成長の為に自分の事を客観的に見つめる「マルチバース」の設定を使う必然性があったと思うので、ドクターストレンジというヒーローの物語の二作目としてのテーマにしっかり合っていたと思う。

サム・ライミ監督

今回監督のサム・ライミ。
アメコミ映画史的には当然スパイダーマンを大成功へ導いた大監督なのだけど、今作を観た印象はどちらかというと「死霊のはらわた」シリーズなどのハイテンションホラー的な資質が存分に活かされている感じ。
ホラーなのだけどテンションが高すぎてもう怖い感覚とかを飛び越えて、アクション映画とかブラックコメディ映画みたいな色んなジャンルが混ざって、よく分からないけど面白い感覚が今作のマッドネスな作品に合っていると思った。

銅鑼からワンダが骨バキバキ状態でズルズル出てくる所や、善良なワンダを乗っ取る前の恐怖演出、それと死体は操ったらダメ!って死霊が湧いてきてゾンビ状態のストレンジに取り憑く展開など、めちゃくちゃサム・ライミとしか言いようが無くて笑っちゃう。

ブルース・キャンベルが自分の手と闘うシーンがまさか2022年に映画館の大きいスクリーンで観れるとは思わなかったので、そこも嬉しいサプライズ。

それとやたら上映時間が長いMCU作品が続いている中これだけ要素が多い作品をほぼ2時間でまとめているのはかなり凄い事だと思うし、職人監督的にも流石だと思う。

ストレンジ

ホワット・イフ?のストレンジとかを観ても思うけど、手の怪我と同じ位にクリスティーンとの関係悪化がドクターストレンジというヒーローの誕生に重要な存在なのがよく分かった。あと今回明らかになった妹の死というのも、どの世界のストレンジとも共通したトラウマになっているみたいだけどこの過去と向き合うのは今後の作品っぽい。

一作目のラストの対照的に壊れた時計を直して時間が進み出す演出がクリスティーンとの関係に自らケジメをつけているみたいで2作目映画として良い終わり方だった。

何気に「エンドゲーム」のトニーや「ノー・ウェイ・ホーム」でのピーターを犠牲にした事からの葛藤も続いてる感じがして、今回初めて誰かを犠牲にするのではなく信じて託す選択をしたのは彼にとっての大きな成長なのだと思う。

あと気になったドクターストレンジのせいで、そのユニバースと関係したユニバースが崩壊する理屈がこの作品ではちゃんと語られきってないけど、明らかになるのは3作目か今後の他の作品なのかな。

ワンダ

MCUのキャラクターの中でもトップクラスに気の毒な事しか起こらない幸薄キャラ。幼少期にスターク社製の爆弾で親を殺され、これまたスタークが作った殺人ロボットに弟を殺され、(改めて彼女目線で観るアイアンマンは最悪だなぁ)、その後もサノスに恋人を殺され心が壊れた事で、前作「ワンダヴィジョン」で魔術師として覚醒し街一つ丸ごと現実改変してしまう。

今回のメインヴィランにはなるのだけど、「ワンダヴィジョン」を観てるか観ていないかで、今作の彼女に対する印象はかなり変わると思う。「ワンダヴィジョン」で如何に彼女が傷付いてこうなったかを知ってると観ていてかなり辛い。

同じマルチバースを扱った「スパイダーマンノーウェイホーム」で他に同じ苦悩を分かってくれる自分がいる事自体が救いになっていくのと少し近いのだけど、他の自分も自分と同じ様に息子たちを愛しているという事に納得して改心する展開になっていて切ない。子供たちを魔法でしか作り出せなかった彼女に別世界のワンダが言う「幸せにするから」という言葉がとても重く響く。

今回でワンダが退場してしまうのはあまりに可哀想なのでもうちょっと救いのある終わりを用意してあげて欲しいなぁ、、、。

アメリカ・チャベス

今回のもう一人の主人公。彼女の目線で大体映画は進んでいく。幼少期から1人ぼっちで生きてきた彼女と文字通り過去を見せ合う事でストレンジとの絆を深めていく展開とかは、都合の良い記憶装置がいきなり出てきてかなり強引だけど演者2人がしっかり魅力的なのでちゃんと感情移入出来た。
だからラストに彼女がストレンジの信頼に応える形でスーパーパワーに目覚めるシーンのやったれ!感はとてもカタルシスがあった。
演じたソーチー・ゴメスも初登場だけど愛らしくて凄く良かった。

しかしすごい名前だけどそこには誰も突っ込まないのか。チャベスの方を愛称にするのかと思いきや「アメリカをここに連れてきて」っていうセリフとか一瞬アメリカンジョーク的ななにかかと思った。

モルド

予告でいるのを確認し、前作でストレンジとは別の道を行く事を誓った彼が今回どういう役割で再登場するのか楽しみにしてたのだけど、まさかの別世界のモルドだったというマルチバース詐欺。
結局MCU世界のモルドは今どこで何をしてるのか全く分からないまま終わってしまった。
前作でエンシェント・ワンが言ってた「考え方の違うストレンジと2人なら良いコンビになれる」みたいな発言が今回回収されるのかと思ったら全然そんな事無かった。

三作目があるならちゃんとストレンジとの関係の決着を描いて欲しい所。

イルミナティ


MCUと違うスーパーヒーローチーム、キャスト的には豪華だしMCUとは違う可能性が観れて面白いのだけど、どことなくメンバーの偉そうな感じとかがザ・ボーイズみたいな胡散臭さがあってちょっと笑った。

もちろん初実写登場のキャプテンカーターや、パトリック・スチュワート演じるプロフェッサーXや、ドラマ版のブラックボルトのサプライズ登場でテンションは上がるんだけど、結局映画の内容的には顔も能力も一緒だけど全然違う人な訳だし、よく考えたらどうでも良いですよ感が強い。あとジョン・クラシンスキーのミスターファンタスティックがMCU初登場なのにアレは可哀想。

でもまあスカーレットウィッチ戦はおそらくブラックボルトがいれば私達は出る幕ないでしょっていう慢心がある感じで、ブラックボルトがあまりにあっさり殺されて焦り出す感じがかっこ悪くて笑っちゃう。
ドクターストレンジに「お前に比べたらスカーレットウィッチなど可愛いものよ」って発言してたのがギャグになっちゃってた。

ただその中でもMCUの世界では超人パワーを授からなかった女性キャラ達のアクションは結構良くて他のマルチバース世界での活躍がもっと観たいと思った。

あとスパイダーマンと同時期にヒットしてたX-MENのプロフェッサーXをサム・ライミが演出するというのがめちゃくちゃ味わい深いと思ってたけど、気がついたら殺されてかなり気の毒な気持ちになった。まあでもよく思い返すとプロフェッサーXって昔からあんま役に立ってた印象ないし、あれくらいの活躍で正解な気もする。

後、おまけ映像に付いてたシャーリーズ・セロンの登場にはびっくり。どういう作品に繋がるのか分からないけど、まだまだマルチバース要素の作品は続くっぽい。
心配事として今作のドクターストレンジの物語とは相性が良かったけど、安易にマルチバース要素を使うと今までMCUで積み上げてきたものが台無しになりかねないので作品選びは慎重にして欲しい所。もちろんケヴィン・ファイギはそんな事百も承知だとは思うけど。

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