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「街の上で」の感想(ネタバレあり)

イオンシネマ京都桂川で初週の土曜に鑑賞したけど、翌日から緊急事態宣言の為に休館になった。

皮肉にもこういう「そこにある文化の肯定」みたいなテーマの映画が上映二日で潰されるというのが、本当に救いがないなあと思う。

最近はコロナ過で出来るだけ一番近いイオンシネマだけに絞っていたけど、もう我慢の限界なので出町座の方に行ってもう一回観てきた。

THE今泉力哉作品

個人的にはこないだ観た「あの頃」がちょっと今泉力哉監督テイストに合わないコメディシーンが多い気がしたのと、そもそも原作の内輪ノリの雰囲気が苦手だったのであんな良い話みたいにまとめられても知らないよ、って気持ちになり好きになれなかったのだけど、今作は今泉テイスト純度100%という感じでこれまでの作品の楽しくて感動する要素がギュッと凝縮した様な傑作になっていたと思う。

映画製作そのものを描いた場面が出てくるけど、作品として残る事以上にエンドロールには載らなくても、そこに集まってくる人が好きなんだろうなぁという今泉監督の優しい視線を感じた。

そして今泉作品はキャスティングが本当に毎度見事。
若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、主要キャストもそうだし、「暁闇」の中尾有伽、「あみこ」の春原愛良、「アボカドの固さ」の前原瑞樹、など、とにかくミニシアターで映画をよく観てる人にとって「あ、あの人見た事ある!」という感じで、ある意味オールスターキャスト映画。

恋愛コメディ演出の上手さ

今泉監督作品で僕が一番好きなのは本人達はいたって真剣なのに、というか真剣だからこそ傍から見ると面白い瞬間の切り取り方だと思う。

特に相手とこちらの気持ちの温度差がかみ合わずどんどんギクシャクしていく恋愛描写との組み合わせが面白いのだけど今作も素晴らしかった。

なんといっても1番盛り上がるラストの狭い道端でのやりとりは爆笑。
怒る青、不機嫌な雪、絶妙にニヤニヤしている店長、コンビニに行きたいイハ、帰ったと思ってたイハの元カレを交えての、別に誰も悪くないのに誤解が誤解を呼ぶ言い争いが最高。
雪が自転車で去った後、残ったメンバーどう解散したんだろ。

街の上にある文化と人

田辺さんの所で買った本、それを自分の古着屋で読む青、その姿を観た町子が映画に出演させ、イハと出会い意気投合し、それがきっかけになり雪との再会。

人と「文化」が合わさりながら回って、それぞれの人生が動いていく様子を優しく切り取っていくのがとても心地よい。

青の出演シーンは結局作品の中に残らなかったけど、小さな「文化」の流れの中で誰かの人生と交差した瞬間を全て肯定しているみたいで、こうやって映画を観に来たり、本を読んだり、音楽を聴いたりして、それをきっかけに人と繋がっている僕みたいな人間はそこにすごく感動した。

「エンドロールに名前がなかった、だから僕は旅を続けなくちゃ」と歌うGEZANの曲がこの映画の大事な部分を簡潔に表していると思う。

カフェに来た女性が、漫画に登場したいずれ消えてしまうかもしれない場所を確かめて胸に刻み込んでいるのが観ていて愛おしいし、やっぱりそこでも人との新たな出会いに繋がっているのがとても素敵。

そういう文化と人の営みが変わり続ける街そのものも主役で、常に外から聞こえる街の音の演出も素晴らしかった。

登場人物同士のしょうもないやり取りの合間に絶妙に車のクラクションが鳴ったりするギャグ的な要素もあるのだけど、入り口が開いてる青の古着屋の外から聞こえる生活音、外を歩けば工事中の音、どのシーンも人が生活している音がとても印象的に聴こえてくる。

登場人物

なかなか駄目な人ではあるのだけど、雪の事をズルズル引きずっている感じは結構共感してしまった。というか20代前半位の時行きつけのバーで愚痴愚痴言いながらマスターに窘められる感じは身に覚えがあり過ぎてあんまり笑えなかったり。隣で人の恋愛話を聞いてニコニコしてる俳優さんの視線がすげぇリアルだ。あの視線知ってる。
「キムチチャーハン」「まだ食うの?」のつっかかり方最高。

つい余計な事言ってしまう所も観ていて笑いながらもちょっと分かるし、でもちゃんと後で謝ることができる素直さがあるのが観ていて愛らしい。撮影に関しては「緊張してガチガチになる」と自ら先に言ってたのであれはお前は悪くないと言ってあげたい。でも演技の練習して自分でカメラでも撮って見返してるはずなのにあれでいけると思ったのか。

不倫並みに後ろめたい音楽をやっていた過去をもう一度抱きしめる様に弾き語る「チーズの歌」がとても素敵だった。自ら生み出した小さな「文化」を肯定し直しているみたい。

最初の言い争いのシーンで既に青がどんな言葉を浴びせても全く効かない感じが面白い。

変なお巡りさんとのやりとりが凄く好き。
彼が姪に「でも気持ちを伝えようと思うんだよね」と話す所の結果がどうとかではなく好意を伝える事の尊さみたいなものを見守る視線は僕が今泉作品で一番好きな「メロウ」とも通じる要素で、それが彼女の背中を押す所は少し感動してしまった。

演じた穂志もえか「少女邂逅」の時に衝撃的な可愛さで印象に残っていたけど、やっぱり今泉監督がほっとくわけなかった。今後ももっと組んで欲しい。

イハ

登場から最後までずっとスーパーかわいい。

友達がいないと言ってたけど、二回目観ると確かに青の様に心を許している人は映画のクルーの中にはいなくて、町子に対して敬語で話しながらも本人のいない所で「えー、モテそうか?」と言ってる雰囲気で、あんまり人間的に好きじゃなそう。
それに対し、学生時代友達もなく一人で音楽に打ち込んでいた青とはとても気が合う感じ。

彼氏とのドアを挟んでの視線のやりとりの緊張感。これまでフワフワした印象だった彼女の表情の温度が明らかに変わり、青に「ありがとう」という所は思わずゾクッとしてしまう名シーンだった。

演じていた中田青渚、去年の「君が世界のはじまり」が圧倒的な存在感で度肝を抜かれたけど今回も素晴らしかった。そちらはコテコテの関西弁という感じだったけど、今作は軽く素っ気ない感じでとても可愛らしい。
「ミスミソウ」で最悪ないじめっ子役の印象とかも強かったけど、毎回全然違う人にしか見えなくて本当上手い俳優さんだなぁと、改めてファンになった。

町子
この人だけ青にほぼ興味がない。
でも彼が本を読む姿に魅力を感じたのは確かで、普段の青の静かな佇まいとかを見ていると使いたくなった彼女の気持ちも、分からなくもない気もしないこともないかも、、、

最初に古着屋に入ってきた可愛らしい印象から観る度に少しずつ変わっていき本質的な気の強さがどんどんにじみ出ていく感じが凄く良かった。萩原みのりはやっぱ凄い。

田辺さん

青の酷い発言も許してあげ、よく分からない撮影練習にも付き合ってあげる良い人。

彼女が好きだった店長との関係性が切なくて、もういなくなった人の想いと折り合いをつけていく中で青が留守電の声を聴かせてあげる場面がすごく優しい。どうしようもない奴だと思っていた青に対して初めて「お前実は良い奴だな、、、」と思う瞬間。

演じた古川琴⾳の演技が凄く良かった。あんまり泣いたりする人がいない映画のなかでその電話の声を聴く彼女の表情の変化が凄くグッとくる。

そんな感じでやっぱり今泉監督作品は改めてめちゃくちゃ面白い。あと書くまでもなく成田凌は最高、出ている間ずっと面白い。

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