見出し画像

"当たり前"を疑うことが、他者受容への第一歩 〜ドミナント・ストーリーとオルタナティヴ・ストーリー〜

わたしたちの"当たり前"を疑ったとき、新たなストーリーが発見される。
その瞬間が、他者受容への第一歩なのである。

***

あなたにとって、「リーダーシップ」とは?

これまでの人生の中で、「リーダーシップ」をもっとも発揮した経験を、ストーリーにしてグループで発表してください。


就活の面接で何度か聞かれたような問い。一瞬、全身にヒヤッとした冷たい感覚が走りました。

この問いに関する解は(就活からそんなに時間が経っていないこともあり)自分の中で用意されていたものの、いつだって自信がありませんでした。

自分の中に確立されていたリーダー像は、「大勢の人を巻き込み、ぐいぐい引っ張って、目に見える成果を残した」ひと。たとえば、「会社で上司・同僚を巻き込んで新たなプロジェクトを立ち上げ、部の売上を〜%増加させました」みたいなお話が"美しい"リーダーシップの形だと思っていたのです。

勝手に思い描いていた模範解答と、自分が今めいっぱい出せる解との乖離に恥ずかしささえ覚えていました。今思えば、就活のエントリーシート、面接対策でそういうイメージを叩き込まれていた節もあったんじゃないかと思うのですが……。

上記の問いについて、3人のグループで話し、聞き合う機会がありました。リーダーシップに関する各々のストーリーを語った結果見えたのは、3人がそれぞれ描く"リーダーシップ"の驚くほどの違い。

他の2人の話を聞いて、最初は「え?それってリーダーシップなの?」と、受け入れきれない自分がいました。

これまで生きてきたバックグラウンドが違うのだから、当たり前といえば当たり前なのですが。ここでやっと私は「ひとつの概念にずっと縛られていた自分」に気がつき、驚愕しました。同時に、「問いに対する答えはひとそれぞれなのだ」という安堵感が湧いてきたのでした。

***

自分を知り、相手を知る「ナラティヴ・アプローチ」

ここまでの体験は、「ナラティヴ・アプローチ」という方法を用いたワークショップの一場面でした。あるテーマについて語るとき、人それぞれ生きてきたバックグラウンドが反映されたストーリーが浮かび上がります。その独自のストーリーに迫っていく手法が、「ナラティヴ・アプローチ」です。

ナラティヴ・アプローチとは、ナラティヴ(語り・物語)という概念を手がかりに、なんらかの現象に迫る方法のことである。

冒頭の例では、私はリーダーシップという言葉に関して「大勢の人を巻き込みぐいぐい引っ張って、目に見える成果を残した」というイメージを持っており、そのイメージに沿ったストーリーを聞き手に語っていました。一方で、私は他者のストーリーから既存のリーダー像とは違う、新しいリーダーシップの概念を学びます。

上記のプロセスで大事なのは、「相手の話にアドバイスも、判断もしない」こと。「相手の話に異議を唱えてやろう」とか「私が考えが一番正しい!」とか思わずに、相手の話をただただ聞き、積極的な傾聴の姿勢を見せるのです。

そうすることで、話し手は「相手に受け入れられている」という安心感を覚えると同時に、聞き手は新しい概念の可能性に気づくことができるのです。

***

ドミナント・ストーリーとオルタナティヴ・ストーリー

自分が"当たり前"と感じているストーリーは、「ドミナント・ストーリー」と呼ばれます。ドミナントは「支配」という意味を持つ通り、ドミナント・ストーリーとは自分を取り巻く環境や時代背景など文脈によって規定される"自明の事実"のこと。
先の例でいえば、「大勢の人を巻き込みぐいぐい引っ張って、目に見える成果を残した」リーダー像です。

一方、ドミナント・ストーリーの対局にある概念は「オルタナティヴ・ストーリー」です。ドミナント・ストーリーに対して"疑い"を持ったとき現れる「代替案(オルタナティヴ)」であり、具体的な定義は個々のドミナント・ストーリーに依存します。また冒頭の例に戻ると、ナラティヴ・アプローチを通じた「リーダーシップの形はひとつではない」という気づきが、オルタナティヴ・ストーリーへの転換点となります。

ドミナント・ストーリーとオルタナティヴ・ストーリーはとても流動的で、時代や状況によって入れ替わっていくものです。自分の固定概念に気づいたのち、もともとオルタナティヴ・ストーリーがドミナント・ストーリーに取って代わる場合もあります。

さて、何が大事なのかと言うと、常に「正解はひとつではない」と知っておくこと。私の当たり前は、あなたの当たり前ではないわけです。「オルタナティヴ・ストーリー」に気がつくことが人間関係の改善、課題に対するひとつの解決策が出てくる可能性があるのです。

***

これまでの話は、恋人とのパートナーシップや仕事場での人間関係における良好な人間関係の構築にも役立つはずです。

常に"当たり前"を疑うこと、そして相手のストーリーに興味を持つことで、お互いに安心安全な信頼関係を築き、これまで見えていなかった新しいストールーにアクセスすることができるのではないでしょうか。

*参考文献*

『ナラティヴ・アプローチ』野口 裕二/2009


ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?