【お題】13.今夜も眠れない
———また眠れそうにない。このところ俺は寝不足だった。
何度目かの寝返りを打つと、先輩が声をかけた。
「……眠れない?」
「あ、起こしちゃいました?」
先輩はごそごそ動いて、俺と向き合った。その目は不安そうだった。
「………俺の、所為?」
「違います」
俺は即座に断ったが、それが返事をしてるようで失敗だったかもしれない。
「——ごめん」
先輩はそう言うと、ベッドから抜け出した。
「頭冷やしてくる」
そう言うなり部屋を出て行く。………ああ、失敗だ。俺はため息をついた。
以前、俺は先輩の覚悟を知った。それは、先輩なりの戒めだった。先輩は俺に負い目をずっと感じていた。負い目なんて感じる必要はないと思うのに、俺のことを思うが故の行動らしい。
あの先輩が、俺の気持ちを受け入れてくれたのは嬉しかったけど、俺が付けてしまった傷跡を見るのはとても辛かった。………のちに先輩は、俺を苦しめてしまった件を謝り、傷も治してくれた。そして、改めて俺のことが好きだと、先輩の口から告白された。
以前に好きかもしれないとは聞いていたけど、こうしてハッキリ伝えられると、俺はあまりの嬉しさと信じられなさにしばらく固まったくらいだ。
今まで俺の思いは一方的で、先輩はソレに付き合っているだけだった。
それが今、俺たちは両想いになった。………願ってもない結果だ。
なのに、その日から俺は眠れなくなった。
俺たちは一緒のベッドで寝ている。告白された夜は、嬉しくて興奮してしまったから、眠れなかったのも分かるけど、こうも続くなんて………。
先輩は、自分が告白した所為だと誤解している。そうじゃない。いや、キッカケはそうかもしれないけど、これは俺自身の問題だ。
俺は、先輩を捜しに行くことにした。今頃、自分が告白したことを後悔しているのだろう。
「先輩」
先輩は、静まりかえった海辺を散歩していた。真っ黒な海に月明かりが反射している。
「……カネチカくん」
俺は先輩の隣を歩く。ゆっくり砂を踏みしめる先輩は落ち着いて見えた。
「先輩の所為じゃないです。俺の問題なんです」
「………そうかな」
先輩は歩みを止め月を見上げた。なんだか、そのまま消えてしまいそうで俺は急に不安になった。
「そうだとしたら、やっぱ俺の所為だ」
「え?……だから、先輩の所為じゃ…」
「そうじゃない」
そう言うと、先輩は俺に背後から抱きついた。俺の心臓が跳ねる。
「……先輩?」
先輩は俺の耳元に口を寄せた。熱い吐息がかかる。とたんゾクゾクと俺の肌が興奮と共に粟立ち体温が上がる。体の芯が熱くなっているのを感じた。………どうしたんだろう?と心配しながらも、体は、というかある部分が何故か違う反応をしている。ちょ、落ち着け、今はそんなことをしてる場合じゃない。俺は必死で冷静を努めるが、どうにも体は言うことをきかない。ああ、バレてる、これは絶対バレてる。
と、先輩は俺の前に回るとキスしてきた。
「!」
カチカチになった俺は、そのまま受け入れていたけど、俺から離れた先輩は笑顔だった。
「やっぱりカネチカくんは正直だな」
「え?え?」
動揺する俺の、一番知られたくない熱い部分に先輩は手を触れた。
「ひ!」
「しばらくしてなかったからね」
俺は慌てて離れる。先輩は何を言ってるんだろう。………いや、アッチの話だろうか?え?先輩からそんな……?!
「カネチカくん。………俺も同じ気持ちだ」
「え?………先輩?!」
月明かりを背にした先輩の表情は暗くてよく見えなかった。困惑する俺の手を先輩が握る。
「家に帰ろう。………それともここで砂だらけになってしたい?」
その言葉に、俺はゴクリと息を呑む。
ああ、先輩から俺に………!!
俺の頭はカーッと熱くなった。そうか、俺は欲求不満だったのか!
「うわ」
先輩は砂の上に倒れる。俺は馬乗りになっていた。頭の片隅では、外でするなんてはしたないな、なんて思っていたけど、もう止められなかった。他の奴らなんてどうでもいい。今は先輩だけを感じていたい。
気付けば空が白んでいる。俺たちは砂まみれだった。
「カネチカくん………落ち着いた?」
横で寝転んでいた先輩が話しかけてきた。
「………多分」
むくりと起きると、先輩は頭を振った。砂がパラパラとおちる音がした。辺りを見渡して、服を拾うと砂を叩く。
「家に帰ったら速攻風呂だな」
「はい」
俺はやっと体を起こした。思った以上に砂が纏わり付いていた。
「一緒に入りましょう」
砂まみれの俺たちは家に帰るとすぐにお風呂に入った。先に洗い終えて湯舟に入っていた先輩の横に入ると、
「せまいよ」
「ぴったりくっつけば大丈夫です」
お湯がざーっと流れたけど、俺たちは一緒に湯船に浸かった。先輩を背後から抱きしめる。首に顎を乗せると先輩はくすぐったそうだった。
「夏休みで良かった」
先輩の言った意味を本当に知ったのは、そのあと先輩から誘われてベッドへ行ったことだった。こんなに積極的なのは初めてだった。———おかげで俺はぐっすり眠ることが出来た。
先輩の知らなかった一面を知ることが出来て、俺は本当に幸せだ。
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