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ある使節の記録 第17話

「良かったねー!友だちができて」
 カネチカは自分の事のように喜んだ。
「ただ、僕の家で遊ぶ事になったのはいいんですが、どうしたらいいのか分からなくて」
「別に何でもいいんじゃないですか?」
 カネチカは鞄をあさってお菓子を取り出した。
「こうやってお菓子食べたり、お話ししたり。楽しいですよ」
 そう言って個包装になったお菓子を私へ差し出した。
「ありがとうございます。………それだけでいいんですか?」
「何でもいいんです。ゲームしてもいいし、漫画読んでもいいし。音楽かけて歌ったり踊ったり」
 カネチカは話ながら嬉しそうに笑った。
「へえ、カネチカさんはお詳しいですね」
「俺ヒトが好きだから、結構遊んでるし」
 なんとなく、遊んでいるのニュアンスに不穏な物を感じたが、あえて聞かなかった。

「……カネチカさん。ご協力して頂いて言うのも何ですが、そろそろ戻られては?先輩も心配してますよ」
 その問いに、カネチカは急に悲しい顔をした。まずいことを言ってしまっただろうか。
「そりゃ今すぐ先輩に会いたいけど、まだ駄目です」
「そうですか?」
「先輩は俺のこと好きじゃないから。………嫌われちゃったら終わりです」
「え?ご結婚されてるんですよね?」
 カネチカの告白に私はビックリした。
「俺が勝手に籍入れたんです」
「———勝手に?」
「やっと、結ばれたんですよ。先輩と!もう嬉しくって、勢いで入れました。後悔はしてません」
「結ばれたんなら、先輩はカネチカさんのこと好きなんじゃないですか」
「違いますよ。体が、結ばれたんです」

 ———聞かなければ良かった。

「先輩は、俺………というか、俺の種族そのものが嫌いなんですよ」
「……はあ」
 なんだか複雑そうだ。先輩は元奴隷だったみたいだし。
「それに、まだ半端じゃないですか。昨日友だちになったばっかりなんでしょ?」
「ええ。カネチカさんのおかげで」
「俺は何もしてないよ。まだこれからなんだからもう少し協力させてください」
 こちらとしてはありがたい申し出だが、本当に良いのだろうか?
 と、私が感じていると、カネチカは女子たちに誘われ楽しそうに教室を出て行った。
 ———なんだか、これはこれで楽しんでいるような?

「なあ、春樹」

 ハッと我に返り振り返ると正宗がいた。
「なに?」
「………学校帰りに直接寄ってもいい、のか?」
「うん。かまわないよ」
「そっか…なんか途中で買っていくよ」
「別にいいって。気を遣わないで………友だちだろ?」
 私はなんだか言ってて恥ずかしかった。気恥ずかしいというか。不思議な感覚だった。
「………ああ、うん」
 二人して押し黙ってしまう。友だちってこんな気持ちになるものなんだろうか。

 だが、こんな私の態度が周りに誤解を与え、複雑なものにしていることに、鈍感な私は気付かなかった。転校生と付き合っていながら、今度は正宗とイイ感じになっている………と。

 ヒトの誤解というのはよく分からず恐ろしいものだ。


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