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【お題】27.秘密の恋

 カネチカの加護を受けてからと言うもの、何とも言えない体の不調はなくなった。めけには「加護」を与えたのはバレてしまったようだけど、カネチカからもう心配ないと連絡を貰い、二人の関係は修復したようだった。………だが、俺の心は晴れない。
 単にあのキスのような行為が忘れられないだけなのかと思ったが、気付くとカネチカのことを考えている自分に気付き、俺はハッとした。

 …………俺はカネチカを好きになってしまったのかもしれない。

 俺は、まともに恋愛なんてしたことない。当然キスだって………。加護を受けるためとはいえ、あんな刺激的な体験をしてしまった俺は、あの日からすっかりおかしくなってしまった。
 ———また、したい。
 それが正直な気持ちだ。それは、単なる欲求不満なんだろうと思う。年頃の高校生にあれは刺激的すぎた。だからといって、カネチカ以外としたいか?と考えると、それは違った。俺は、カネチカともう一度したいと思っている。
 だが、カネチカはめけと付き合っている。それに、あれはカネチカにとって「加護」を与えるための行動で「キス」ではない。分かっている。分かってはいるが、忘れられない。俺は、カネチカに囚われている。

 そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま、夏休みが終わりかけていた。
 涼しくなりはじめた夕方、俺はぶらりと家を出た。散歩がてら少し遠いコンビニまで行って何か買ってこようか?なんて思って歩いていると。

「正宗くん」

 その声に、俺は全身が硬直した。———今は会いたくない奴の声だった。
 俺が黙って固まっていると、そいつは俺の前へ近づいた。嫌でも視界に入る。
「この間は悪かった。………ごめん」
 一番会いたくない相手、めけに急に謝られて俺は焦った。「え?」
「俺の所為で酷い目に遭ってたのに。………俺が力を奪ったせいで大変だったんだろ?」
「———いや、まあ………俺も分からなかったから」
「カネチカくんが君を護るために加護を与えたのに。俺は………すげぇダサイことした」
「———めけが怒るのも仕方ない。あれは………」
 体液の交換………。あの行為を思いだして俺の背筋がゾクゾクした。ああ。情けない。
「正宗くん。顔が赤いけど大丈夫?」
「えっ………いや、うん、大丈夫……」
 やばいやばい。思った以上に俺は顔に出やすいようだ。
「と、とにかく、その、めけには嫌な思いをさせてしまったけど。俺の方は何とも思ってないし、むしろ助かったから問題ない」
 そう言って俺はめけから離れた。以前と違って、めけの見た目は大きく変わってしまった。今は、以前と全く違う、ふわりと柔らかい雰囲気の、優しい目をした少年になってしまった。ただ、口を開くと以前のままで、それが妙に大人びた口調だったけれど。元はおっさんなのだから仕方ないが。未だに俺は、この姿に慣れなかった。
「大丈夫じゃなさそうだけど」
 俺をのぞき込むめけの視線とまともに合う。俺は謎の後ろめたさでつい、突き放してしまった。
「!」
 めけが驚いた表情を浮かべた。俺はすぐに目線を外す。
「大丈夫、だから………」
「そう。———じゃあ」
 めけは流石に察したようで、俺の前から姿を消した。もっと冷静にならなきゃ。
 あんなに怒っていためけが、俺に謝ってくるなんて思わなかったけど。カネチカが「加護」をした理由が、俺の力を奪ったことだと気付いたからだろう。まさか、俺自身もあんなことになるなんて思いもしなかったんだけど。見た目は俺と同じ歳だけど、やっぱ大人だ。きちんと謝罪できるなんて、俺とは違う。———俺は、勝手にカネチカに欲情してるなんて、めちゃくちゃ情けない。こんな調子で、学校で彼らに会うのは正直辛い。

「くそ。………なんで好きになってるんだ」

 俺は悪態をついた。好きになりたくてなったわけじゃない。まるで呪いのようだ。
 俺のこの勝手な思いは、絶対に秘密にしないといけない。誰も幸せにならないから。俺も、カネチカも。———そして、めけも。

「正宗くん」

 その声に俺は悲鳴を上げた。と、相手もビックリして悲鳴を上げている。振り向くと、そこには春樹がいた。
「なんだ、春樹か」
「どうしたの?道ばたでぼうっとして」
「…………な、なんでもない。お前こそどうしてここに?」
「うん。ちょっとね」
 よく見ると制服を着ていた。学校に用事でもあったんだろうか?でも、春樹は帰宅部で、バイトもしてなかったか?
「ま、いいけど。今帰り?」
「うん。良かったら一緒に帰らない?」
 春樹の提案に頷き、俺たちは連れだって歩く。夕日が美しいグラデーションを彩り、心地よい風が俺たちを通り過ぎた。今までは一番怖かった時間が、今はこんなに美しく感じられるなんて。
「実は………僕、失恋したんだ」
 突然の告白に、俺は歩みを止めた。
「は?———なに、お前誰かに告ったの?」
 春樹は首を振った。「まさか」
 話を聞くと、好きになった相手には、すでに相手がいたらしい。春樹が好きになった相手が気になったが、俺はあえて聞かなかった。
「———俺もだよ」
 自然と、言葉が出ていた。春樹が驚いてこちらを見ている。
「いつか、出来ると良いな。お互い」
 俺は恥ずかしくなって、春樹の背中をポンと叩く。
 春樹は小さく笑って「そうだね」と言った。
 いつもは鈍い春樹だが、こういった時に気遣いは出来るようで、相手が誰かは聞かなかった。俺たちが、失恋仲間だと分かったからか、なんとなく学校が始まる憂鬱が少し薄らいだ気がした。

 



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