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【お題】19.夢のようなひととき

 先輩とこんな風に過ごせる日が来るなんて、夢のようだ。

 先輩の寝顔を見つめながら俺は、初めて会ったときのことを思い出す。正確には、初めてではなかったけど、あの時「初めて」会った日のことを。


 めけめけ王子という男がいる。特別な力を持つが、なぜかほぼ全員から忌み嫌われている。カネチカにはそれがどうしてなのか分からなかった。誰も教えてくれないし、言いたくなさそうだった。調べても詳しいことは出てこない。なんとなく「訳あり」な人物なのだろう。

 成長して行くにつれ、カネチカは力をメキメキつけていき、将来はあのめけめけ王子のようなレスキュー隊に就きたいと思っていた。彼は、ほぼ独りで危険な救助活動をしている。基本的に、レスキュー隊は単独では行わないが、他の誰にも手が出せない案件は、彼が担っている。素晴らしい人だとカネチカは尊敬していた。

 ようやく念願のレスキュー隊に入り、厳しい新人訓練を終えたある日、カネチカはようやくめけめけ王子に会えることになった。熱望していたとはいえ、こんなに早く憧れの人と組むことが決まったのだ。なぜか、仲間達は気の毒そうな顔をしていたが。

「初めまして、今日からお世話になります。カネチカです」
 めけめけ王子は、顔を隠すような仮面をしている。何故かは分からない。
「よろしくカネチカくん」
 見惚れるような力強い角を有した彼が、落ち着いた声で答えた。
「あの、めけめけ王子先輩は……」
俺の名前は言うな。先輩でいい」
 ピリッとした声色で制され、カネチカは驚いた。よほど嫌みたいだ。
「すみません。………先輩」
「早速だが、今から地球に向かう。君は地球には慣れているようだね」
 カネチカは幼いとき、地球で暮らしていた。その事を知っていたことに何故か心が躍った。憧れの人が、自分の事を知っていることが嬉しかったからだ。
「はい!………先輩は、地球は……」
「あまり好きじゃない。人間は特に」
「そう、ですか……」
 カネチカは人間は好きだった。もちろん嫌な人もいたが、気にならなかった。

 レスキュー船に向かう前に、対地球用の装備を装着した。カネチカの見た目と装備は一緒だが、先輩のほうは仮面で隠れていたため、装備の顔と一緒かは分からなかった。
「俺と組むということは、どういう現場か分かっているのか?」
 船に乗り込みながら先輩が問う。彼は最高ランクのレスキュー隊員だ。かなり危険度が高い救助を任されている。カネチカは頷いた。
「はい。危険なのは分かっています。先輩の足を引っぱらないので安心してください」
 この時のカネチカは、まだ自分の技量を見誤っていた。レスキュー隊の新人隊員にしては、そこそこの力を得ていたが、現場に出てみて先輩との力の差に圧倒された。手助けどころか、足を引っぱってばかりだった。そのため、カネチカはより一層努力を重ね、ランクを上げ、先輩に頼られる存在になるよう頑張った。………が、なかなか思うようにならない。
 落ち込んだりもしたが、絶対に彼の相棒でいたかった。そのための努力はし続けたし、勉強も訓練も欠かさなかった。ここまで熱中できたのは、憧れの人の側にいたかったのもあるが、次第に彼に惹かれていることに後に気付いたからだった。

 あれだけの力を得ていながら、彼はどこか達観していた。その力を誇示することはないし、遠巻きに酷い扱いをされてても、気にも留めない。(実際、彼に手を出す命知らずはいなかったが)
 たくさんの人を救助しても、表彰されない。その事に異を唱えない。明らかに彼は避けられていた。何かとてつもない事をしたのだろうか?
 彼を知れば知るほど、謎が深まる。彼は孤独だった。身内はいないようだし、誰ともつるまない。いや、誰にも心を開いていないように見えた。………相棒の自分にも。

 せめて、自分だけには心を開いてほしい。そう思いながら一緒の時間を過ごした。少しずつだったが、他者には見せない対応をしてくれるようになったが、だんだん分かってくると、深く傷ついてしまった。

 ——俺は、先輩が好きだけど、先輩は俺が好きじゃない。

 嫌っているわけではないが、好きじゃない。………カネチカだけじゃなく、先輩以外全員が好きじゃないのだろう。彼は、彼しか信用していない。相棒のカネチカも信用していない。それが辛かった。

 それなのに、どうして気持ちを諦められなかったのか。
 単なる相棒として、気持ちを止められたらどんなに楽だろう。
 命がけの仕事だからこそ、信頼していたし、敵ではないと分かってほしかった。
 何があったのかは分からないけど、せめて自分だけは………。

 好きじゃないのに、先輩はカネチカを見捨てなかった。明らかに足手まといなのに、ちゃんと助けてくれるし、ひどく落ち込んだときには、カネチカが好きな「じょもにゃん」を模したピアスを作ってくれた。基本的に優しい人物なのだろう。だけど、訳があって心を閉ざしている。周りからあんな扱いをされれば無理もない。 
 気付けばずっと先輩の事を考えていた。
 相棒として認められたいから?
 自分の気持ちが分からず、戸惑いながら、しっかり考えた時、最初に彼を知った時から惹かれていたんだと気付いた。最初は憧れ、一緒に仕事をしてから彼の人となりを知っていく内に、どんどん惹かれていった。…………恋に落ちていた。
 絶対に実らないと分かっていたが、自分の気持ちに気付いたカネチカは満足だった。

 そして今は———。彼は見た目は変わったけど、今は自分の隣で眠っている。安心しきった寝顔を見ると、愛おしくてキスをしてしまった。

 本当に、夢のようだ———。

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