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ある使節の記録 第14話

「えー?カネチカくんがそんな事を?」
 ソファに寝っ転がっていた先輩は、眠そうにそう言った。顔の腫れは引いたようだが痕が酷い。
「はい、それで、どこにいるのか心当たりは?」
「………放っておけよ。君には関係ないだろ」
「でも、巻きこんでしまいましたし」
「今回は、俺たちの話だから」
「………はあ」
 私が困っていると、タナカがお茶を運んできた。
「主様の大事な殿方の行方ですよ」
 お茶を口に運んでいた先輩が吹き出した。
「ぶほっ!………何言ってるんだタナカくん。殿方じゃないし!」
「婚姻関係は結んでますよ」
「だから、それはカネチカくんが勝手に!」
「はいはい。で、居場所はもう分かってるんですよね、迎えに行かなくていいんですか?」
 タナカの言葉に、先輩は不機嫌そうにお茶を啜った。
「……今はまだ早い」
「そうですか」
 あっさり答えてタナカは去って行った。変わった主従関係だ。
「ま、そういう訳だから。俺たちのことは本当に気にするな」
「………はい」
 腑に落ちなかったが、当人がそう言うなら仕方がない。そう思ってお茶を口に運ぶと、思った以上に美味しくて思わず呟いてしまっていた。
「おいしい」
「タナカだからな」
 と、意味のわからない返答があった。タナカはお茶の心得があるのだろうか。

 それから数週間が経ったある日、突然転校生がやってきた。

 そう、彼の名は…………カネチカ。
 何故か高校生になっている。あの派手な髪は少し落ち着いていて、例のピアスはしている。見た目は少し変わったが、まごうことなきカネチカだった。
「どういうことですかカネチカさん」
「よろしくねー春樹さん」
 ニコニコとあのさわやかな笑顔を向ける。全然答えになってない。
 私は人が集まる前に、カネチカを人気のない場所へ連れて行った。

「何がよろしくですか、先輩はどうするんです?結婚してるんですよね」
「別居だって言ったよ」
「だからって、高校生になりすまして…」
「ちゃーんとひとりぐらししてる高校生です」
「はあ………高校生になる理由が分からないんですが」
「俺、反省してるんですよ。先輩に合わせる顔はないけど。君の力にはなれるかもって」
「僕の?」
「俺の方が人に詳しいからね。そういう異星人視点での意見とかって必要かなって」
「あ………そんな……」
 カネチカの心遣いに私は感動してしまった。どうしてここまでしてくれるんだろう。
「迷惑だったかな?」
 子犬のように見つめられ、私は首を大きく振った。
「本当?」
「はい。助かります。……僕はどうも鈍くて」
「よかった。じゃ、よろしくねー」
 そう言ってギュッと抱きしめられた。久しぶりの感覚に、私も思わず抱きしめてしまう。
 ———と。

「きゃああああ」

 いつの間にか、数人に囲まれ私達は誤解を受けた。私は転校生を初日でナンパした男として知れ渡ることになった。………違うのに。

 こんな状態で調査はできるのだろうか?


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