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ある使節の記録 第18話

 私と正宗は連れだって歩いている。何故か二人とも無言だった。………友だちとは沈黙すら気にしない関係だと、勝手に思っていたが気まずいと思うのは、私が慣れていない所為だろうか?

「あ、ここだよ僕の家。上がって」
「………お邪魔します」
 親は丁度出かけていたので、ヘタに気を遣わずに済んだ。私は正宗を自室へ案内し、お菓子や飲み物をもって部屋へ戻った。正宗は困ったような顔をして座っている。
「落ち着かない?」
「………いや。なんか、普通だなって………お前の部屋」
「どんな部屋だと思ってたの?」
「化け物仲間が一杯いるかと思った」
「一杯って…」
 と、そこでノックの音と共に「春樹ー!」
 兄が空気を読まずに顔を出した。

「あ。」

 兄と正宗は同時に声を上げていた。

「出た!化け物!?」
「ごめん春樹!友だちもう来てたんだね!」
 同時にしゃべられると聞き取れない。が、兄は直ぐ部屋から出て行った。
「ごめん。訳あって兄はあんな感じに…」
「どういうことだ?元々化け物じゃないのか?」
「………事故、かなぁ」
 私が説明に困っていると、正宗はもういいと首を振った。
「なんかお前とは違う感じだな。カネチカとも違うし」
「うん、まあ。事情を知ってる別種族ってことで。………始めに言っておけば良かったね」
「化け物の世界にも色々あるんだな。………詳しく知りたくないけど」
 ともあれ兄のおかげ?で、少しだけ緊張が解れた。
「気になってたんだけど、僕はともかく君は何故友達がいなかったの?」
「お前…いきなり聞くか?そんなこと」
「えっ…ああ、いや、いないことは悪いことじゃないけど訳があるのかなって」
 正宗は、「化け物に気遣いなんて無理か」と呟いた。
「俺の家が胡散臭いからだよ。あの家見ただろ。普通じゃない」
「………はあ」
「それに、俺はお前みたいなの視えるからな。余計人が避けるんだ」
 普通のヒトには視えないものが視えるというのは、かなり辛かっただろう。訴えても視えないヒトには理解出来ず「変わった子」と思われ避けられたのかもしれない。
「辛かったね」
「化け物に慰められるとは……」
 といって、苦笑した。その顔は今まで見た正宗の笑顔の中で少しだけ柔らかかった。
「実は、こんなことをお願いしたのには訳があるんだ。僕は意識してなかったけど、人間不信になっていたみたい」
「ああ。俺の所為だな。殴ったり酷いこと言ったり…」
「それだけじゃなくて、殺され………かけたりとか」
 殺されたというと気味悪がられると思い、言い直した。
「え?そんなヤバイ目にあってたの?やっぱ退治するような奴とかいるの?」
「退治って………わかんないけど、違うと思うな」
 正宗みたいな能力を持ち、攻撃的な集団がいるとしたら有角種族が警戒するはずだが。そんな情報は今の所聞いていない。
「だから、人間の良さがイマイチ判ってなくて。それで友だち作ることにしたんだ」
「ふぅん。お前も苦労してたんだな」
 私も慰められてる?と思ったが、こんな風に思って貰えるのはちょっとくすぐったかった。
 私達は、このあとたわいもない話をして過ごした。ただ話をしているだけなのにとても楽しく過ごせた。なぜ私は今まで友だちを作らなかったんだろう。使節という立場が無意識に働き、馴れ合いを避けていたのかもしれない。

 そして、次の日。私が登校すると女子達にいきなり囲まれた。目が恐い。
「春樹くん。一体どういうつもりなの?」
「なにが?」
「カネチカくんと付き合っておいて、正宗くんとも付き合ってるよね」
「は?」
「自宅に連れ込んだの知ってるよ。二股かけてるの?」
「え?ち、違うよ。彼は友だちで」
「友だちぃ?………じゃあ、カネチカくんだけって事ね」
「だけ………」
 って、どういうこと?と混乱していると、女子達は恐ろしい形相で言い放った。
「いい?カネチカくんの一途な気持ちを踏みにじったら容赦しないからね」
「は、はい」
 余りの気迫に私は混乱しながらも返事をしていた。

「おっはよー」
 と、場違いにチャラいカネチカの声が聞こえたとたん、女子達は黄色い声を上げてそっちへ行ってしまった。私はそれを呆然と眺めていた。

「アホくさ」
 一部始終を見ていたらしい正宗がぼやいた。
「正宗くん、いたんなら止めてよ」
「お前も何で否定しないんだよ。………え?マジで付き合ってるの?」
「いやいやいや、ないから」
「誤解してるだけか。なんか面倒くさそうだな。俺を巻きこむなよ」
 そう言って席に着いた。………いや、なんでそんな誤解が生まれるんだろう。
 私は朝からドッと疲れてしまった。


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