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ある使節の記録 第5話

 まるで迷路のようだった。
 どこをどう歩いたのか分からなくなってきた頃、やっと目的の場所に着いたようだった。
「客はこの部屋に案内される」
 そこは落ち着いた和室で、占いとは無縁な雰囲気だった。
「どうやって未来を占うの?」
 私が聞くと、彼は黙ってふすまを開けた。そこは寝室になっていた。
「これで分かるだろ。未来を視るのはVIPの客だけ。口の硬い奴な」
「———………ううん…」
 何となくしか察せられないが、深い接触で相手を占うという事なんだろう。
「あんな事、まだガキの弟にやらせるわけにはいかねぇだろ」
「……君もだろ?」
「俺はいいんだよ。弟は…キツイ」
 どうやら、彼は弟思いのようだ。そんなに嫌なら占い自体止めたら良いと思うが、そう簡単にもいかないのだろう。
 ふすまを閉めて彼は席に促す。良いタイミングでお茶が運ばれ、私達は向かい合った。二人きりになると、彼は口を開いた。どこか自虐的な笑みを口元に浮かべている。

「これで分かっただろ。未来予知の占い」

 私は頷いた。色々な方法があるようだ。
「こんなことが、お前にとって大事な事ってどういうことだ?」
「君の懸念を解決できたらと思ったんだけど…」
 私は寝室へのふすまを見た。
「未来が視えるのならどんな方法でもいいの?」
「え?なんだよ。お前も予知出来んの?」
「未来は変化するものだから、変わらないところだけは視えると思う」
「お、おう。まあ、そうなんだな……」
 あくまで予測で、必然ではないが、先読みの力を分け与えればいいだろう。私にはその能力は持ち合わせていないが、有角種族のあの人なら……。

「心当たりがある。うまくいけば、だけど」

「どんな方法かわかんねえけど、なんでそこまで?」
 戸惑う正宗に、私は小さく笑った。
「これは僕のためでもあるんだ」
 そう言って部屋を辞することにした。彼の細かいデータは後ほど聞くとして、まずは例の有角種族のあのヒトを訪ねよう。

 有角種族最高の力を持つ、「特別」な男。———確か名前はカネチカだったような。
 私はまだ会ったことがないが、一体どんなヒトなんだろう。ここらの有角種族に聞けば居場所は分かるだろう。彼はレスキュー隊で、よく地球で活動しているという話だった。


「………ここ?」
 さすが徹底管理されている種族だけあって居場所は直ぐに分かった。が、そこは都心を離れた山の中の一軒家だった。
 場所が場所だけに、致し方なく私は能力を使って移動した。レスキュー隊の本拠地なのだろうか?彼らは地球上空のレスキュー船を拠点にしていると思ったが。
 よく分からないが、この家に間違いないようなので、もう夕方になっていたが家のベルを鳴らすことにした。
「はい。どちら様ですか?」
 抑揚のない声がインターホンから聞こえた。
「僕は大神といいます。…こちらにカネチカさんがいると聞いたのですが」
「………少しお待ちください」
 と、直ぐ背後で声が聞こえた。

「あれー?前に会った使節のヒト?」

 そこには、殺された夜に会ったレスキュー隊の男がいた。…………まさか。
「あなたが………カネチカさん?」
「そうです🎵」
 ニコニコとあの時の笑顔を浮かべる。片耳にネコのピアスが踊っていた。

 あの時のチャラ男があの、「特別」なカネチカだったとは!
 私はそのまま固まってしまっていた。


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