ある使節の記録 第12話
何がどうなったらこうなるのだろうか。
私には理解が追いつかないが、抜け殻のようなった兄と、何故か顔がボコボコに腫れ上がり、ずぶ濡れの先輩?ようなヒトがそこに居た。外はまだ雨が降っている。
「えっと———これは一体」
ぽいっとゴミを捨てるように、先輩?は兄を放り出した。
「ちょっと…遅かった…みたい」
口も腫れていて上手く話せないようだった。声が掠れているが、先輩のようだ。
「どういうことですか?」
「うーん………見たとおり…だ」
兄はゴム人形のようにクタクタしている。生きてはいるようだが。
先輩は、タナカから受け取ったタオルで頭を拭いている。頭も怪我をしたのか「いたた…」と声を漏らしていた。今頃気付いたが、服もボロボロで血が滲んでいる。一体何があったんだろう。
「カネチカくん…は、知らなかった…んだよ…君がされた…こと」
あの夜、私はカネチカに会った。が、その時のカネチカには殺されたことしか言わなかった。とてもじゃないが、今でも何をされたかは言いたくはない。
兄を見つけたカネチカは、どういう経緯があったかは分からないが、兄が私にしたことを知って暴走したらしい。それを止めるために、兄に化けた先輩が怒りが落ち着くまでボコボコにされたようだった。
「それで、カネチカさんは?」
「相手が…俺だと気付いて…どこか…行った…」
「一人にして大丈夫なんですか?」
「うん…ひとり…になり…たいんだろ…」
タナカが甲斐甲斐しく先輩の手当てをしている。ヒトの体だからか、痛々しかった。
「すみません、なんか、巻きこんでしまって」
「勝手に…したこと…だから…いてて!」
タナカが無理矢理服を脱がしたので、先輩は痛がっていた。
痛々しい先輩の傷跡を見ながら、ふとクタクタになった兄が気になった。
「兄さん?」
しかし、何の反応もない。本当に抜け殻のようだ。どうなったんだろう?
「もう…だめだ…それ…」
「え?」
先輩の言葉の意味がわからなかった。
「魂が…くだかれて…ただ…生きてる…だけ」
意識がないと言うことだろうか。まさに抜け殻のように。
「罪…つぐなう…どころじゃ…」
「もう、話さなくて大丈夫ですよ。色々ありがとうございました」
私はクタクタになった兄を抱えた。………さて、どうしようか。
「春樹さん」
タナカがこちらへやってきた。
「あとはこちらに任せてください。あなたは部屋でお休み下さい」
「でも…」
「晴明のことはこちらの落ち度ですから」
タナカはそう言って、私を部屋へ押し込んだ。今は、彼らに任せて体を休めることにした。それにしても、どうしてこうなってしまったんだろう。
これからどうしたら………。
そう考えている内に私は眠りについていた。
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