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ある使節の記録 第16話

 カネチカに、ああは言われたけれどいざとなると勇気が出ない。そんな事を思っている内に授業は終わり、帰宅時間になっていた。席を立って出て行こうとする正宗を私は追いかけた。
「あの、正宗くん…」
「なに?」
「ちょっといいかな」
 断られるかと思ったが、
「………少しなら」
 正宗は意外な反応をした。しばらく並んで歩きながら、私は言葉のきっかけに悩んでいた。
 沈黙する私に正宗は何も聞かない。気付くと正宗の家に着いていた。
「上がれよ」
「……ありがとう」
 相変わらず広くて迷う家だ。私は知らない部屋へ案内された。
「何か変だぞ?」
「え?」
 席に落ち着くなり正宗は言った。私はまたドキリと心臓が跳ねる。
「カネチカ…だっけ?アイツに何か唆されたんだろ」
「違うよ」
「じゃあ何だよ」
 もう腹をくくるしかない。多分失敗しそうだけど。
「あの………と、友だちになってほしい」
「え」
「だめ、かな?」
 正宗は口をポカンと開けていた。そんなに驚かなくても。
「………何を企んでる?」
「前にも言ったけど、これはヒトを知るためなんだ」
「………そう、なのか?」
 私は頷いた。正宗は困った顔をしていた。
「俺………友だちいないから」
「え?」
「初めての友だちが化け物って複雑だ」
 その言葉に私の方が困惑した。
「じゃあ………お互い初めて、なんだね」
「うん………」
 そう言ってまた沈黙が続いた。そのタイミングでお茶が運ばれ、少しだけ気まずさが薄らいだ気がした。また二人きりになるが、お互い口を噤んでいる。
 やっぱり、駄目なんだろうか?と、私が感じていると

「いいけど、変な事するなよ」
「えっ」
 まさかの結果に、私は固まってしまっていた。
「なんで驚いてるんだよ。言い出したのはお前だろ」
「いや……駄目だと思ってたから。………すごく、嬉しい」
「つか、なんで俺なの?他にもいるだろ」
「いないよ。………僕のことちゃんとわかってるヒトはいない」
「ああ。そういう事か。………でも、俺はお前に散々酷い事したのに」
「ちゃんと謝ってくれたから、いい」
「…………。」
 正宗は、居心地悪そうにお茶を飲んだ。
「じゃあ、早速だけど。友だちがすることをしてみていい?」
「変な聞き方するな。何がしたいんだ?」
 私は先日見た映画を思い出していた。なので、同じ事をしてみようと決めた。

「肝試し。……ちょっとした冒険って、友情を育むって言うし」

「はあ?」
「ちゃんと勉強してきたから。夜中に抜け出すってところも背徳感があっていいらしいよ」
 私が自信満々に言うと、正宗はため息をついた。
「俺があんなことをいった所為で………変な影響与えちまったな」
「じゃあ、どこに行こうか?心霊スポットって言うんだよね」
 私は鞄からタブレットを取り出す。正宗はがっくり肩を落としている。
「もしかして、怖いの駄目?」
「普段から化け物目にしてる俺が、なんでわざわざそんなとこに…」
「じゃあ、正宗くんはどこに行きたい?」
 私が聞くと正宗はうーんと考え込んだ。
「………お前ん家。行ってみたい」
「………あ。」
 私は寄生された兄を思い出した。正宗はどう思うだろう?
「何?マズイならいいけど」
「ううん。いいよ。………まあ、その時説明するから」
「ん?」
「じゃあ、次は僕の家で遊ぼう」

 とてもぎこちないが、私的には上々の出来だと思う。それにしても、なぜ正宗には友だちがいないんだろう?暴力的だからか?………ヒトに暴力を振るっていたのだろうか?
 分からないが、お互い初めての友だちができたのは良いことだと思う。

 さて、家で遊ぶって何をしたらいいんだろう?


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