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「英雄伝説 黎の軌跡」クリア感想(ネタバレ有)

次作の感想↓

2021/11/11 加筆&修正

はじめに

"軌跡シリーズ"11作目、公式によれば物語は後半戦に突入した『英雄伝説 黎の軌跡』を早速クリアしたので、感想を書き殴りたいと思う。

なお、ファンの方ならご存知の通りこの"軌跡シリーズ"は2004年発売のシリーズ最初の作品『空の軌跡』から最新作『黎の軌跡』に至るまで、同一の世界観・時間軸で物語が進められることを特徴としたシリーズであり、新作をプレイするにあたっては前作までの伏線や設定、事件やキャラクター相関の知識があった方が理解しやすい。わたしも空の軌跡FC〜創の軌跡まで既にプレイ済みである一ファンであり、設定や残された伏線などが頭に入っている上でプレイしたことを先に明記しておきたい。


結論から言うと、とても良かった。わたしは今まで軌跡シリーズで一番好きな作品は『碧の軌跡』だが、『黎の軌跡』はそれに次ぐと思えるくらいには好きな作品だった。ありがとうファルコム。

大人になった『零の軌跡』プレイヤーに贈る新しい軌跡

『黎の軌跡』の発売前情報から感じていたことだが、この作品は『零の軌跡』に雰囲気が近い。

『英雄伝説 零の軌跡』は2010年に発売された軌跡シリーズ4作目の作品だ。物語の舞台は古風な王道RPGらしいリベール王国から人々の服装も街並みも現代的なクロスベル自治州へと移り、プラットフォームもPCからPSPに変え、BGMもジャズやオーケストラ系の曲からロック系の曲の割合が多くなった転換点的な作品でもある。
コンシューマー機に移ったことで中高生などにも認知されるようになり、元々の軌跡シリーズの魅力も相まって知名度を上げ、今の軌跡シリーズのスタイルを形作ったといっても過言ではない。かくいうわたしも零の軌跡でこのシリーズの存在を知った人間で、とても思い入れがある作品だ。

『黎の軌跡』の舞台となるカルバード共和国の首都イーディスは『零の軌跡』の舞台であるクロスベルと同じくかなり現代的な街並みで、地理的な事情で様々な文化・人種が入り混じる国として描かれている。また恋愛色の強いリベール編、リィン・シュバルツァーの成長物語である帝国編に対して、歪な社会と向き合うことがテーマになっているのもクロスベル編との共通点だ。そもそも、公式イラストにクロスベル編以来となるエナミカツミ氏を起用している点で、ファルコムとしてもかなり意識しているのではないかと思う。

しかし零の軌跡とはっきり違うと言えるのはシナリオである。「クサい」とまで言われる真っ直ぐな正義感と情熱で社会の闇を暴く『零の軌跡』とは対称的に、本作は警察や遊撃士のような正義の味方でもなく、かと言って結社やマフィア、シンジゲートのような悪党の側でもない立ち位置から自分たちなりの流儀で社会と付き合い、時に拗らせた人間関係を持っていたり、時に人がバタバタ死んだり、今までより高度な(?)性的表現が詰め込まれた大人向けのシナリオとなっている。

零の軌跡を中高生の時にプレイした人はもう20代後半で、この作品において描写される"素直に前を向いて歩けないめんどくさい大人たち"の感情を理解できる年齢だろう。その意味でも、この作品は中高生の時に零の軌跡をプレイした人に贈る、新しい軌跡だと言えると思う。若年層向けで英雄譚の王道を往く前作までの"帝国編"ともまた違った新しいスタイルだ。

良かった点

・NPC含めたテキスト量

今作は前作までと比較してかなりテキスト量が増えているように感じた。固有名があり物語の進行毎に発言が変わるNPCが沢山いて、街の人それぞれにも物語があるのは軌跡シリーズの魅力だが、今作はその魅力を更に強化したように見える。
更に、そこそこ大事な伏線や設定をNPCやゲーム内書籍明らかにしているパターンが今作では多く見られ、NPCのテキストを読む事で展開や設定を考察する事が出来て街巡りもやりがいを感じられた。過去作キャラのエピソードもNPCの会話から見えてくるなどもシリーズファンには嬉しい要素だった(クレイユ村に新生帝国ピクニック隊の面々が来ていたことや、アラミスの生徒ユリアンがトールズⅦ組からの留学生であること、オラシオンの後片付けに匣使い殿が来ていたことなど…)

・戦闘システム、戦術オーブメント周りのシステム

クロスベル編まで採用されていたものの閃シリーズ以降無くなった「クォーツの属性値」関連のシステムが復活した。碧までは属性値で使用可能アーツが変化したが、今作では代わりにシャードスキルが変化するようになった。オーブメントのラインは全てのキャラがウェポン・シールド・ドライブ・EXTRAの4本になり、それぞれ属性値毎にスキルが変化する。クォーツの構成を考える楽しみ、ゲーム性が復活したのは良かった。
また、戦闘システム、特にSCLMシステムは閃シリーズの戦術リンクシステムの欠点を改善した形だ。戦術リンクシステムでは2人1組の連携しか取れず、リンクスキルや友好度の兼ね合いもあって頻繁にリンクを変える事を想定していなかったが、SCLMシステムはリンクを結ぶ手間が無く近くにいる味方と連携できる。アークライド解決事務所メンバーの団結力をきちんと表現できている。
「頼むぜアニエス!」など、前に行動したキャラがターンが回って来たキャラに対して声掛けするのもチームの絆を感じられて良かった。
(余談だが、アーロンのヴァン、アニエスの呼び方は3章までは「オッサン」、「小娘」だが、4章になると名前呼びになる。そういうさりげない心理的な距離感の描写は我々オタクの趣味をよく把握していると思う。ありがとうファルコム。)

・アニエスちゃんマジヒロイン

男主人公の作品だとヒロインは世間知らずだったり感情的すぎるように描写され、結局は主人公の添え物となっている事が多々ある。今作のヒロインであるアニエスは空の軌跡のエステルのように自分で戦って解決する事が出来るわけでもなく、大人しそうな見た目からそういうタイプのヒロインだと思っていたが、いい意味で裏切られた。
メンタルが強く洞察力に優れるため、裏社会の汚い人間の有様を目にしても頭ごなしに否定する事もなく、曽祖父の形見を巡って人が死んでいるのを見ても挫けない。さすがあのパパの娘だ。
かと言ってドライな性格というわけでもなく表の人間としての倫理観も持ち合わせていて、時に年相応の表情を見せる時もある。
そんなアニエスが、直接目の前で人殺しをするヴァンに対して拒否するのではなく、「一緒に痛みを背負う」と言い切っているシーンがとても良かった。
ルネの「7年前にその言葉が言えたら」という発言もアニエスの強さをよく表していると思う。

あとモデリングがとても可愛い。ありがとうファルコム。


わたし「ぐっ……(かわいい」


・シナリオが良い

シナリオはシリーズ通してもかなり良かったように思う。各キャラの掘り下げがしっかり出来ていたし、閃シリーズで散々言われていた「シナリオがワンパターン」問題はかなり改善されていた。グレンデル戦の導入「悪夢を纏う?」についても、閃の軌跡シリーズの「来い!灰の騎神、ヴァリマール!」「応!」と同じお決まりの流れかと思いきや、物語中盤から「グレンデル化するためにわざと被弾している」というギャグに置き換えていて退屈しなかった。この台詞は更に終章の「夢から醒める?醒めない?」の名シーンに繋がるようになっていて、いわゆる「お決まりパターン」にも演出上の意味が持たせられていた事に、閃の軌跡シリーズをプレイしてきたファンにとってはより嬉しく感じられた。


また、同じく閃の軌跡シリーズで散々言われていた「完結しない」問題も解決され、しっかり完結する結末になったのも良かった。本作の終盤の展開はある意味「どうせまた完結しないだろう」とタカを括っていた古株のファンを裏切る展開で、アルマータ首領を倒したはずなのに突入する終章、「いつか還るあなたのために」という章題、妙にスッキリしすぎる空気感、ヴァンの違和感のある発言など、これでもかというくらい「これからどん底に落として続編に続きます」という雰囲気を醸し出していた。「また行っちゃったのね…」のシーンでED曲が流れ始めてTo be contenued...という展開になると思ったプレイヤーは多数いたことだろう。その意味でも、「ファンを良い意味で裏切る展開」が多く用意されていたのは本作の大きな魅力だと思う。

それと今作のシナリオは過去作に比較するとかなり大人向けの重い話とされているが、元々軌跡シリーズではゼムリア世界内の各国の経済や政治情勢、軍事やテクノロジーまでしっかり描いている作品で、"空"シリーズでは泰斗流の使い手達の三角関係、壊れてしまっているヨシュアや《楽園》とレンの重いエピソードなどあった。そういう意味ではあまり違和感は無く、原点回帰と言った方が適切だと思った(強いて言うなら、規制音が入るようなストレートな下ネタ、際どい表現が多々ある事に驚いた)

・モーション、カメラワーク、表情表現の進化

前作の創の軌跡から一部シーンで導入されていたモーションキャプチャーが本格的に導入されたようで、キャラクターの動き、それとカメラワークが見違えるように良くなった。クラフトの動きも迫力満点になり、イベントシーンもよりドラマティックになった(特にカシムとの戦闘シーンなど)
また、キャラクターの表情も豊かになり、会話シーンにおいて非言語的表現が増えた。後述するがテキストがあまり良いとは言えないので、この辺りは人間ドラマを自然に表現するのにとても有効活用されていたと思う。

そしてOPムービーはそれらの技術をフル活用してかなりクオリティが上げられていて、過去一番と言っても良い仕上がりだったと思う。
ありがとうファルコム。

悪かった点

・お馴染みのテキスト、台詞回し

「はは、軌跡のテキストは相変わらずというか。」
閃の軌跡Ⅲ・Ⅳでお馴染みの「軌跡語録」「閃構文」と呼ばれる独特の台詞回しがまだ存在している。当時よりはだいぶ改善されていて、良くしようとする意思は見られるものの、後半になってキャラクターが増えるとちょっとした会話に各キャラクターが一言ずつコメントする事が多くなり、特に「ハン」ばかり言うアーロンや「息吹」ばかり言うフェリが気になった。「・・・・ぁ・・・」「腹を括る」や「胸を借りさせてもらう」などの当時槍玉に挙げられていた語句もまだ多く見られた。

3Dゲームの開発は大変に労力がかかる事は素人ながら知っているつもりなので、他のJRPGのように美麗なグラフィックのゲームをイースや他作品も併せて年一というスパンで発売するのはファルコムのような大規模ではないスタジオには難しいのは理解できる。故に軌跡シリーズには特にグラフィックのクオリティはそこまで求めていない。しかしだからこそテキスト・演出・シナリオ・音楽だけは他の
作品に劣らない、という仕上がりにして欲しいと一人のファンとして願う。

本作はテキストさえ良ければ軌跡シリーズ最高傑作の評価もあったかもしれない。

・ロード時間、フレームレートの低下

今作から建物に入ってもロードを挟むことがなくなったが、その代わり街のエリアに入るときのロード時間がとても長くなった。きちんと測っている訳ではないが30秒近くかかっていると思う。また特定のSクラフト使用時やイベントシーンなどでフレームレートの低下も見られ、確実に30fpsを割っているように見える。特にゲネシスタワーの周りの柱を壊す辺りのフレームレートの低下が酷かった。PS4用タイトルとして発売されているが、実際にはPS4pro、PS5向けと言ってもいい。せっかくモーションやカメラワークが進化しているのにもったいないと感じた。

バージョン1.10アップデートでかなり良くなりました。ありがとうファルコム。

・軌跡初心者向けではない

ゲーム系メディア各所や公式で「軌跡シリーズ初心者にもおすすめできる」と書かれていたが、とても初心者向けではない。確かに閃・創の軌跡シリーズの途中から入るよりは幾らかマシだが、3・4章はそのまんま創の軌跡で取り上げられた現象を再現しているし、5章に至っては過去登場した勢力のオンパレードだ(だからこそ、ファンにとっては満足できる内容だが)
そもそも物語の核心に関わる教団は零の軌跡で黒幕として登場した勢力で、教団の目的や壊滅した理由なども零の軌跡・碧の軌跡で語られている内容である。
また「◯年前の〜」という表記は数多く見られたが、これはファンの中でも年表が頭に入っているより熱心な人間じゃないと理解が追いつかないと思われる。

初心者向けを謳うなら閃の軌跡シリーズでいう黒の史書や図書館にあった本のように、ある程度年表が解るようになっていても良かったと思う。
ファンからするとその辺りの考察が面白いので、個人的には特に不満は感じなかったが、もう軌跡シリーズをプレイしてない人が新規で入り込むのは難しいだろうなと感じた。

まとめ  軌跡シリーズの良さを再確認する一作

本作は各勢力や国の思惑が入り乱れるカオスな展開、増強されたテキスト量など、軌跡シリーズの良さを再確認、ブラッシュアップした作品になったように感じた。特にオラシオンでの各勢力によるバトロワの展開などはゲームという媒体では軌跡シリーズにしか出来ないと言っても過言ではなく、とても楽しむことができた。
個人的に、閃の軌跡シリーズのシナリオはあまり好みではなく、軌跡シリーズも完結を見たくて惰性でプレイしているような状態だったが、今作でファルコムを見直した。ローディングや処理落ちの問題などあったが続編が楽しみだと自信を持って言えるようになった。ヴァン自身の物語としてはしっかり完結したもののまだ多くの謎や伏線が残されている状態であり、共和国編の次回作にも期待したい。ありがとうファルコム。

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