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【試作品】25の夜

【試作品】25の夜

初出:2022年3月

明転

B、下手側の椅子に座って電子書籍を読んでいる。

A、上手から大きな荷物を背負って登場。
A「ごめん、遅くなった」
B「おう。大丈夫大丈夫。俺も今着いたところだから。」
A「はい、これ缶コーヒー(差し出す)」
B「ああ、ありがと(受け取る)。もしかしてこのコーヒーって、あ……
A「ワンダだよ」
B「そうだよね」
A「(椅子に座って荷物を降ろしながら)忙しいのに、夜中

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【試作品】葛餅

【試作品】葛餅

初出:2021年5月

追悼 つゆだくの尽虚許于天以架无

久しく会わないうちに死んでしまったとは。君も恵まれない人生だったね。僕は君が生き生きとしていた頃も知っているけど、そうじゃないときの方が圧倒的に多かった。故人にかける言葉ではないけど、結局生まれてくる場所を間違えてしまった感はあるよね。だって君の主人はいつでも僕でいっぱいで、すごく苦しそうに生きているから。楽しいことなんて全然なくて、いつ

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【試作品】才/自己死

【試作品】才/自己死

初出:2021年5月

「天才だ」いったいきみは何者だ?どうせ何にも知らないくせに
ふと聞いて目を輝かせて「すごいね」と分厚いレンズで僕を見るな
ほしかったほしかったんだ光るものいまはかけらをひろうことだけ
ひとからのこえしか聞けぬ存在でみちをひらけるはずはないのに
燃え尽きてそもそも燃えていたのかと聞けば聞くほど湿気てくのさ
涼風に日曜午後に流れゆく「大切なものは目には見えない」

泥沼にもがき

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【試作品】終バス

【試作品】終バス

初出:2020年12月(未完のまま打ち切り)

 僕は、青いベンチの上で目を覚ました。ハッとしてスマホを確認する。時刻は終バスの発車まであと1分であった。胸をなでおろして僕は立ち上がる。これで無事に旅館にたどり着くことが出来そうだ。

 僕は今日、一人旅で人里離れたこの山奥にやってきた。日中は、都会には決して存在しない大自然を心ゆくまで楽しむことが出来て大満足だったのだが、田舎過ぎるあまり夕飯の店

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【試作品】五十鈴

【試作品】五十鈴

ありのままで
生きたい
鬱々とするときも
笑顔のときも
同じようにありのままの自分で

重ね重ね
気にとまるのは
苦労の必要さ
計算だけじゃ
困ることになるんだろう

さしつかえなければ
静かに生きてもいいですか
素の自分で生きていける
世界なら
それほど素晴らしいものはない

立ちはだかるのは
「調律」
つまらないけれど
てんでばらばらよりはましか
と思わされているのかもしれない

泣きたいとき

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【試作品】大きな梅の木の下で

【試作品】大きな梅の木の下で

あーなたーとわーたしー

なーかーよーくー

*****

雨は空から降ってくる

そんなのは知っている

火は降ってくるかい?

そんなことはない

火が降ってくるかい?

そんなことあるわけない

火も降ってくるかい?

そんなことはあるはずがない

火と降ってくるかい?

そんなことあってたまるものか

そんなことあってたまるものか!!!!!

大きな梅の木の下で

I will be bone

「I was born」という詩。
「人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね」
でも「die」も受身の方がしっくりくるかも。

今年もまた死に1歩近づいてしまった、なんて考え方もできる。
でもそれと引き換えに、今年もまた安心できた。
僕の存在は認識されてるみたいだ。

大人数は居心地が悪い。
興味の無いことには興味を持てない。
これで20年間生きてきちゃったので。

「波長が合う」

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【試作品】鯨は大腿骨さえ楽にcan't stop

【試作品】鯨は大腿骨さえ楽にcan't stop

ある朝目覚めると、僕は(あばら骨から)人間だった。しょうがないので人間として生きることにした(むしゃむしゃ)。人間というものは不思議な生き物で、気長に落語も食べられないらしい。僕は川にサケを放流しながら、その残酷な運命を呪った。

「君は皿洗いセンターの梅雨前線だね」
そう話しかけてきたのは、母親役の動画だった。僕はため息混じりにその姿をアンインストールした。とにかく、この場から(卒業したくない)

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【試作品】こど7の日

【試作品】こど7の日

かまぼことなすを炒めてごぼう抜き
腹パンとねこはほとんど同じです
奈良盆地君と僕との歯磨き粉

頭から句読点なら知りません
やまびこの太郎悲しむヤモリ塚
枕元ミトコンドリア死んでるよ

ソクラテス焼肉くさいソクラテス
やかましい私今からお風呂なの
竹やぶにお隣さんのマーケット

【試作品】醒めたパイナップル

【試作品】醒めたパイナップル

心よりバナナワニ園
涅槃のアヒージョ
振り向いていなげや

願わくばビットコイン
サムギョプサル言い値
花魁道中膝栗毛

船酔いのグラニュー糖
意固地なロイロノート
せめてものオカメインコ

呪的な婚姻届
腹筋よりパプアニューギニア
話してもデリダ

この世をば次亜塩素酸
宇宙のレトリック
ザンビアの藤子・F・不二雄

時効成立の南蛮貿易
0点からのイムジン河
暗闇に浮かぶポロネーゼ

湯気の立つ

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ありがとうって、

ありがとうって、

久々のエッセイ的なものです。

「『ありがとう』を多用したくない」

ラジオでこんなことを言いました。その理由として、

「多用してると1回1回の価値が落ちる気がして、本当に感謝の気持ちを伝えたいときに気持ちが伝わらない気がする」
「『ありがとう』は(感謝の言葉の)最上級に置きたい」

みたいなことも言いました。「オオカミ少年みたいなことか」とも言われましたが、大体そんな感じです。結局ラジオでは、

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「面白い」人って何なんだよ

「面白い」人って何なんだよ

今回はエッセイ的なものです。

僕は昔から人前でボケるという行為が苦手です。なぜならスベって恥をかきたくないからです。なんてちっぽけなプライドなんでしょう。基本的に子供時代から「失敗したくないから挑戦したくない」という消極的な思考に囚われていて、今は大分改善されましたが、それでも嫌なものは嫌なのです。

日常会話でも常にボケを挟んでくる人は、時々話していてしんどいときがあります。本人は楽しませよう

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【試作品】第♠夜

【試作品】第♠夜

 こんな夢を見た。

 僕の名前は長田秀一郎。埼玉西武ライオンズや横浜DeNAベイスターズに投手として在籍していた。現役を引退した今は平凡な生活を送っている。

 今日は最寄りのA駅から用事があって池袋まで出かける。僕はA駅で「銀河鉄道 池袋行」に乗り込んだ。「銀河鉄道」はたしか一般的な鉄道の「快速」にあたるものだった気がする。

 僕は車両に乗り込み、席の前の吊り革につかまった。するといきなり、

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【試作品】Disability

【試作品】Disability

徐々明転

舞台中央に死体が一つ。

徐々暗転

盲導鈴の音が鳴っている。

明転

A、死体を担いで持ってくる。

A:すみません。
B:はい。
A:これ落ちてたんですけど。
B:あ、拾得物ですね。ではこちらでお預かりします。
A:はい。

A、死体を机の上に置く。B、バインダーを取り出す。

B:えーとこれは…男性の死体ですかね。
A:そうですね。
B:……どこで拾われました?
A:そこの、券

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