現代美術の静謐な納涼お化け屋敷 〜 「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」 新国立美術館
新国立美術館 「クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime」展に行ってきた
実話怪談 モダンホラー 廃墟好きな人は必見といえる 展示室もよく冷えていて現代美術の納涼お化け屋敷である
しかしお化け屋敷と言ったが通俗的な外連味はなく ひたすら静謐な世界
「死んだスイス人の資料」古びた金属箱が何十個も重なって壁面を覆っている その箱の前には誰か分からないそれぞれ違う人の顔写真が一つひとつ貼ってある まるで納骨堂の箱のようだ
「アニミタス(白)」雪原に何本も竿のような棒が差されており、その先端にはそれぞれ風鈴が下がっているという動画が投影されている 風が吹いて風鈴はめいめい鳴りつづける スクリーン手前の平面には白い紙くずのような塊が乱雑に敷き詰められている まるで恐山の賽の河原のような 寺山修司の映像にでも出てきそうな情景
「D家のアルバム」「青春時代の記憶」など多数のポートレイトやスナップ写真を使ったインスタレーション いずれも少しぼやけていて時間的・空間的・その他の関係性において距離感を感じさせる 向こう側にはたしかに生活があったのだが いまこちらの観客には手が届かない 関係もなく遠い 彼らは幽霊のような存在 廃墟で見かけた、もうそこにはいない住人の古い家族写真のように遠い
恐山のようなイメージや納骨堂のイメージは、寺社などの日本の追悼施設にも共通する要素があった しかし日本にはあまりない ヨーロッパ的なイメージを受ける部分もかなり大きい
「ぼた山」 古いコートが数メートル以上の高さの山積みになっている これはナチスドイツの強制収容所に残された靴やメガネなど遺品山を思い出さざるをえない コートだけが木枠にかぶせられたダミーが十個ほど その山の周囲に散在して立ち 訥々と問いかけの音声を発している 「光を見ましたか」「苦しみましたか」・・・
「モニュメント」シリーズも 誰か知らない人のぼやけたポートレイトを壁にいくつも展示した作品 祭壇のように階段状の配置がなされていることが多い またそれぞれ電球によってライトアップされている なんとなくユダヤ教教会(シナゴーグ)のような雰囲気も受ける おごそかではあるが、ろうそくによる自然光ではなく電球によるライトアップであるため 無機的なイメージを受ける
日本の場合、たとえば恐山の寺にはたくさんの人形と遺影が奉納されていた お寺といえば仏像がつきものである ここでは立体的ではなく 灯りによって投影される人形の揺れる影が動いている(「影」など)
ボルタンスキーは90年に日本で展示があったとのこと 当時の資料本を持っていたが数ヶ月前に売り払ってしまった しかし写真だけでは十分に分からないたぐいの作品なのでそれでよかったのだと思う