「つぎの著者につづく」/石川美南『体内飛行』
石川美南『体内飛行』評
吉田恭大
第四歌集。これまでの作品でも連作構成が巧な作者という印象があったが、今作はそれがさらに強固になっている。
歌集は「短歌研究」誌の三十首連載を中心に構成されており、改めて「あとがき」を確認すると、さらにいくつかのルールが設定されている。
ルールの中ではとりわけ、この作品群が時系列で編まれたことが重要になる。一首の次に然るべき一首があり、その繋がりが作者にとって、また読者にとっても不可逆であること。それは、一冊の歌集やひとつの連作を、人生や物語の時間軸に擬えて読むことを積極的に肯定する。
連作ごとにコンセプチュアルに配置された詞書も興味深く読んだ。作品が・作者が何から影響を受け、生成されたものなのか。それはある時期の
読書の記録であり、友人たちとの交友である。あるいは、妊娠・出産を機に変化してゆく身体や、自らの振り返る数十年分の過去かもしれない。
丁寧に順序だてて明かされる作品の素性は、作品が確かに作者に連なるものとしてあることを示す。それは方位磁針のように読み筋を先行し、私たちの作品体験を豊かに案内してくれることだろう。
(「うた新聞」2021年9月号から改稿)
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