"楠城"という難読名字の家庭に生まれた男の話。


僕の本名は「ナンジョウコウタ」


漢字だと"楠城滉太"と書く。


この楠城(ナンジョウ)という名字、ほとんどの人が初見で読めない名字なのだ。

漢字も難しいし珍しい、僕自身同じ漢字の名字の人を見たことがない。


それもあって芸名をカタカナにしているところもある。


学生の頃も、新学期になったらお決まりのパターンがあった。

新クラスで出席を取り始める時に必ずこのやりとりがある。


「えー中野さん、えー中村さん、……えーっと…ええ……くすのき…」

「あ、ナンジョウです。」


毎回見違えられる名字の訂正をしなければいけない。

この時僕はいつも思っていた。


いや、事前に名前ぐらい調べてこいよ。

ほんで、中野、中村ときてその次"くすのき"がくるわけないやろ。
あれ、あいうえお順なっとんねん。


そう、ほとんどの先生が僕の名前の所で少し戸惑うのだ。

僕自身も中野、中村辺りで、「あーまたこの不毛なやりとりせなあかんのか〜」という虚しさが漂い始める。


名前の読み間違いは、何も学校だけの話ではない。


小学生の頃、僕は空手を習っていた。

その初めての大会での出来事、審判が対戦選手の名前を順番に発表する。


「選手番号○○番、〇〇‼︎」

「はい‼︎」


それに続いて、次は僕の名前が呼ばれる。


「選手番号〇〇番、くすのきぃーーーー‼︎」


僕はその呼びかけを無視した。

だって名前が違うから。

すると審判から思わず


「……あれっ⁇」


という声が漏れる。

ここでもまたお決まりの訂正が入る。


「あの、ナンジョウです。」

「あら、あ…失礼いたしました。選手番号〇〇番、ナンジョウーー‼︎」

「はい‼︎」


いやこの流れで試合できるかあ。

まあその試合は勝ったけど。


だから何故事前に確認しないのだ。

名前を呼び間違えて恥をかくのはそちら側なのに。


電話でも、名前の呼び間違えは日常茶飯事だ。


プルルルルル、ガチャ

「もしもし?」

「あ、もしもしーくすのき様のお宅でしょうかーー?」

「いえ、ナンジョウです。」

「え?」

「あのーナンジョウと読むんですー」

「あ、あーー失礼いたしましたーー!ナンジョウ様なんですね。」


よくもまあ名前も知らずに電話んかけてこられるものだ。

セールスマンとして人の心に入り込んで行かなあかんのに、初っ端で突き放されとるがな。

だから何故名前を事前に調べてこない?


まだ"山本"、"田中"という名前なら分かる。

読み方は"ヤマモト"、"タナカ"のほぼ一択ととっていいだろう。

"山﨑"という名前なら"ヤマザキ"が"ヤマサキ"の可能性があるが、その間違いはまだまだ許容範囲である。


だが、"楠城"というこの漢字。己の勘を信じるには少々無理がある名前だろう。

何故"クスノキ"一択と思ってかけてくるのだ?


今までで一番酷かった電話セールスはこれだ。


プルルルル、ガチャ

「もしもし?」

「あーもしもし……クスノジョウ様のお宅でしょうか?」

「んんんーーーーっ違いますううぅぅぅ‼︎」

ガチャ、プツン


あまりの間違いっぷりに勢いで思わず切ってしまった。

名前をえらく鋭利な角度で間違ってくるような奴だ、どうせ大した内容の電話じゃないだろう。

なんて失礼な奴だ。

もう失礼通り越して笑い者だ。

こういった案件があると、必ず家族内の食卓の話題になる。


「今日電話でクスノジョウ様のお宅でしょうか?ってかけてきた奴おったでー?」

食卓がドッと笑いに包まれる。


"クスノジョウ"様、この間違いだけは今まで一度だけしかされてこなかった。

大概の人は読み方を"クスノキ"と間違うのだから。

"クスノジョウ"なんて呼び名、aikoのカブトムシ程に生涯忘れることはないでしょう。


そんな間違えられやすい僕の名前だが、人生でたった一度だけノーミスで「ナンジョウ」と呼んでくれたことがある。

それは、中学2年生の頃、新任の国語の先生が初めの授業で「ナンジョウくん」と呼んでくれたのだ。


その時には心の底から感動した‼︎

今まで訂正が入らないと"ナンジョウ"という呼び名は通らないことを身をもって知っていたから!

もはや、手前のな行さんの時点で訂正入れる準備してたのに!

この国語の先生はすごい‼︎

元から読み方を知らなくて、事前に調べてくれていたとしてもすごい‼︎

初対面で呼んでくれたことに感動なのだ‼︎

向こうは絶対に覚えていないだろうが、僕はずっと覚えている。

この新任の国語の先生には、僕オリジナルのグッド出欠賞を送って差し上げたい!




そんな僕の名前の話。


これで皆さんもこれからは"楠城"を「ナンジョウ」と読めるようになりますね‼︎

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