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「エンジョイ」って高度。

我が家には使ってはいけない英単語がある。言えばたちまち娘の機嫌が悪くなり、口もきいてもらえない。

それはコロナ禍の終わりが見え始めた頃。

夫のアメリカ駐在が決まった。2回目の海外赴任だけど、その間に世の中が一変し、海外がすっかり遠い存在になっていたから、感慨深さもひとしおだ。家族がぎゅっとひとつになって暮らし、ちょっと特別な体験もできる、そんな駐在帯同に子供達もいいイメージを持ってくれていた。

さあ、はりきっていってみよ〜

ところがどっこいだ。
赴任地も変わり、前回、幼児と小学校低学年だった二人の娘も、今回はともにがっつりの学齢期。さらにそのうち一人は思春期とあって、楽しいばかりではない。

毎日が「全編英語、字幕無し」

娘達は現地校に編入し、ふうふう言いながら通っている。特に長女は高学年のため、勉強も友達とのコミニケーションもそれなりのレベルが要求される。現在進行形で苦労している。

ネイティブ達に囲まれて、拙い英語でも自分の意見を言わなければいけない授業。休み時間もおしゃべりが楽しいお年頃。ついていくのに必死で休まらない。本当によくやっていると思う。私だったら?・・・いや、ムリ。

あのさ〜簡単に言うけど、「エンジョイ」ってすごい高度なんだよ。

そんなある日、娘から言われてハッとした。

娘の顔が暗い時、良かれと思ってつい安易に声がけしていた。
「エンジョイするだけでいいんだよ。」

アメリカにいると会話や街中のポスターなどで散見される。
「Enjoy〜!」「Enjoy, FRYDAY〜!(など曜日やイベント名を入れるパターン)」

気休めのつもりだったり、特に意味がないのに、娘にとってはとても重くのしかかってくるという。楽しむ余裕なんかないと。

ストップ、「エンジョイ」ハラスメント

子どもは親の期待に応えたいと思うというから、私の何気ない一言にそんなに悩んでいたのかと反省した。けっこう便利に使っていたな、エンジョイ。

それから私は心をフラットにして、ただ見送り、ただ迎えることにしている。娘の表情にも一喜一憂しない。声かけだっていつも同じ。ただの「いってらっしゃい」と「おかえり」だ。

1年経って、娘は少しずつこの環境に慣れたようだ。仲の良い友達もできてきた。子どもは強いけど、その強さに甘えずに、繊細に見守っていこう。

明日からまた新学期が始まる。

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