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「イムリ」が完結したので、ネタバレしない範囲で私なりのオススメポイントを紹介したい。

三宅乱丈さんのSFファンタジー漫画「イムリ」の最終巻が先月発売されました。記念に全巻通して読み返してみたので私なりのオススメポイントを書いてみようと思います。

私にとって「イムリ」は壮大な思考実験の上に成り立っているSFファンタジーだと言えます。まず、1巻の冒頭で書かれている物語の下敷きは以下のような感じです。

昔ー
戦争によってひとつの星が凍結した。星の名はルーン。凍らせたのは「カーマ」の民だった。戦後「カーマ」の民はルーンの隣星であるマージへ移り住み「賢者」と呼ばれる最高権力者を頂点とし奴隷民「イコル」を最下層とする階級社会のもとで4千年もの歴史を積み重ねていた。
(中略)
ようやく星(ルーン)の氷が溶け始めた現在、「カーマ」の民は故郷であるルーンへの帰還を始めていた。かつての「カーマ」の敵であり、そしてそれを忘却した「イムリ」の民の住むルーンへとー

初見の単語ばかりだと思いますが、ちょっと待ってくださいね、この文章は重要な内容ばかりです。ここで抑えておきたいのは

・惑星ルーンは戦争で凍ったけど、近年溶け始めている
・戦争から4000年たった
・「」内は民族の名前
・「カーマ」はマージに移住し階級社会を築いている
・「イコル」は「カーマ」に隷属させられている
・「カーマ」はルーンに戻ろうとしている
・「イムリ」は戦争を忘れている

何がとは言わないですが、戦争から4000年後の世界を舞台とした漫画があったとして大抵の場合、歴史の蓄積を感じられないです、戦争のことは全く忘れられているとか、祖父母の世代が戦争してたかのように憎しみあってるとか。「イムリ」はその4000年の歴史の蓄積を感じることができます。

現実の世界で4000年も続いた社会というのは存在しないです、どの社会でもある程度階層が決まったあとにくるのは汚職や腐敗で、その後に革命が起こって社会構造自体崩壊するというのがお決まりの流れです。
ただイムリに出てくる民族「カーマ」の場合は4000年も同じ階級社会が続いています、これに納得感を出すのは難しいと思うんですが、大丈夫です。作者の三宅さんはそれに納得のいく理由を用意しています。
また、その4000年続いた社会が大きな変革を迎えるときの動揺や、文字を持つ民族「カーマ」と持たない民族「イムリ」で歴史の伝承がどう違っているかなど社会構造だけ注目しても非常に面白いです。

もちろん、それ以上にそういった社会構造の上で足掻く人の意志の力や、愛を問うストーリーが非常に魅力的であることは間違いないのですが、この辺りはネタバレになるのと、多くの方が既にレビューされているので、今回は触れないことにします。

とにかく「イムリ」は稀代の傑作です。

興味の出た方は是非読んでみていただければと思います。



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