見出し画像

地質屋もダイナミックモデルに深くかかわりたい! (相対浸透率のモデル化)

油層の地質モデルは「静的モデル (Static Model: スタティック・モデル)」とも呼ばれています。

地質モデルが、油を生産してもほとんど変化のない油層の形(油層構造)や、油層性状を示す孔隙率や絶対浸透率など、また、油やガスを生産する前の初期水飽和率など「静的な」パラメータから構成されているためです。

これらのパラメータを地質解釈とリンクさせて分布させることから、地質モデルと呼ばれたり静的モデルと呼ばれたりするわけです。

一方で油層シミュレーションモデルは油やガスの開発に伴って移動する流体や、圧力の変化など動的なパラメータをモデル化することから「動的モデル (Dynamic Model) 」とも呼ばれています。

動的モデルをコントロールするパラメータの一つとして、相対浸透率というものがあります。

通常「浸透率」と言えば絶対浸透率のことで、多孔質媒体中での流体の流れやすさを表すパラメータです。ある長さ(L) と断面積 (A) をもつ多孔質媒体を流れる流体の流量 (Q) は、多孔質媒体の入口と出口での圧力差 (ΔP) と断面積と浸透率 (K) に比例し、流体の粘性 (μ)と多孔質媒体の長さに反比例します。

Q = K × A / μ × △P / L

つまり同じ大きさ、長さの多孔質媒体の中を同一の粘性を持つ流体が入口と出口での圧力差が同一の状態で流れているとしたら、浸透率の大きい多孔質媒体ほど流量が大きい (流速が早い) ということです。

まあ、ここまでは私でも何となくわからなくもない気がします。

この浸透率 (絶対浸透率) は1種類の流体が流れる場合のパラメータです。絶対浸透率は空気や水などを使って測定し、孔隙率や岩石密度の測定などとともに「通常コア試験 (Conventional Core Analysis / Routine Core Analysis )」と呼ばれる分析項目の一つです。「通常」と呼ばれるぐらいですから、コアサンプルを地下から採集すると、まず普通に行われる分析です。

一方、通常、油やガスの生産を開始すると、油層の中では油と水、油とガスなどの二相流、あるいは油とガスと水の三相流になることがあります。

コア試験で二相流の浸透率を測定する場合、それぞれの相が安定して流れるようになる (定常状態: steady state) まで待つことになります。実際にこの試験を行うと時間がかかるので非常に高価です。このようなコア試験を「特殊コア試験 (Special Core Analysis)」 などと呼んでいます。お金と時間がかかることからおいそれとはこの試験を行うことはできません。

定常状態の二相流について、それぞれの流体に対する浸透率をその流体の有効浸透率といいます。この有効浸透率と絶対浸透率の比を相対浸透率と呼んでいます。相対浸透率は各相の流体の割合によって変化します。したがって流体の割合を変えて測定していかなければなりません。水と油の二相流で言えば、水の割合 (水飽和率) を変えては排出される水と油の量比が安定するのを待ってそれぞれの流体の相対浸透率が測定できるので、とにかく手間と時間がかかります。

相対浸透率カーブの例

数多くの試験はできないので、試験を行うコアサンプルを厳選して、少ないサンプルから油層全体の相対浸透率を推定しなければなりません。この相対浸透率をどうモデル化するかは、実は非常に重要だと感じています。せっかく地質モデルで絶対浸透率モデルを頑張って作っても、相対浸透率のモデル化が適切でないとすべてをぶち壊してしまうことにもなります。

油層シミュレーションモデルで扱われる相対浸透率は、かつては主に Reservoir Engineer の扱うパラメータでした。しかし相対浸透率は岩相や岩石の濡れ性、孔隙の形態などとも関連していると考えられ、油層の地質と関連付けてモデル化することが必要です。

今では地質モデルだけではなく、油層シミュレーションモデル作成の段階まで (少なくともヒストリー・マッチの段階まで)、地質屋が深くかかわり、Reservoir Engineer との共同作業が今の業界のスタンダードとなっています。とても良いことだと思います。

この他にも地質学と油層工学の協力で構築する油層モデルに関しては以下の記事でも扱っています。


この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,083件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?