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油層ダイナミックモデルのヒストリーマッチングはモデルの予測精度を担保できるか

油田の将来の生産予測や開発計画を作るために油層ダイナミックモデル (シミュレーションモデル) を作成します。

モデルが十分な精度で生産予測ができるかどうか、どのように確かめればよいのでしょうか?

一つの方法として、生産予測の前に、生産履歴を再現できるかどうかテストを行います。特に生産の歴史の長い油田であれば、長い生産履歴があり、生産井や圧入井が沢山あれば、いろいろな井戸で実際の生産・圧入履歴とモデルの結果を比較することができます。

油、水、ガスそれぞれの生産量やそれぞれの生産割合、流体合計の生産量、油層圧力など、フィールドで測定された実際の様々なデータをモデルが再現できているか、まず確かめるのです。
もしモデルが実際の生産履歴を再現できなければ、なにかしらモデルに欠陥があり、そのモデルで将来の生産予測を立てることは危険があると言えます。

なので、もしモデルが生産履歴を再現できていない場合、ヒストリーマッチングと言って、モデルの修正を行いながら、生産履歴とシミュレーション結果の乖離が少なくなるようにしてあげます。

では、ヒストリーマッチングができたモデルは必ず将来の生産予測を正しくできると言えるのでしょうか?

残念ながらその保証はありません。ヒストリーマッチングのできていないモデルでは少なくとも生産予測に使うのは危険だということはわかりますが、ヒストリーマッチングができただけでは、そのモデルが正しく生産予測ができるとは言い切れないのです。

そもそも生産履歴も長く、井戸数が多いフィールドでは、100%完璧にモデルを生産履歴に合わせることは不可能です。そしてヒストリーマッチングの達成基準をある程度の幅で設ければ、それを満たす精度でヒストリーマッチングができるモデルはただ一つだけとは限りません。

様々なパラメータの組み合わせでできている油層モデルは、パラメータの組み合わせによっては、例えば全く違う油層性状分布のモデルでも、同様のヒストリーマッチングを達成できてしまう可能性があります。そしてそれらのモデルでそれぞれ生産予測を行うと、まったく違う結果となる場合もあり得ます。

仮にヒストリーマッチングを達成できたモデルが複数あっても、どのモデルがより信頼できそうか、まずは技術者の判断にゆだねられるべきだと思います。不自然で無理なヒストリーマッチングが行われていないか。あるいは、油層の堆積環境から考えて、このような油層性状分布がよりリーズナブルであるとか、このようなタイプの油層ではこのパラメータはこのぐらいの数値が自然であるとか。モデルは必ず、まずはこのようなスクリーニングを受けるべきだと思います。

スクリーニングを経た後、なおヒストリーマッチングを達成したモデルが複数残っていれば、それぞれのモデルで生産予測を行い、生産予測にどの程度振れ幅があるか評価する場合もあります。その振れ幅のなかで、高いほう、低いほう、どちらに振れても大損しないような対処を考えて計画を立てるわけです。

いずれにしろ、モデルは開発・生産が進むにつれ、増えていくデータや生産履歴によってどんどんアップデートされていきます。少しモデルの予測と生産量がずれてくれば、モデルの修正が行われます。

実際に開発生産が行われていくにつれて、井戸の数や位置、生産方法も、当初生産予測を行った時とはずいぶん変わっていくことでしょう。従って、実際の油田のパフォーマンスが、当初モデルを作ったときの予測の範囲内だったのかどうか、もはやだれにも検証できないことになります。

事例を集めて検証をしっかりと行えば、どのぐらいのデータや生産履歴でモデルがコントロールされていれば、将来のどのぐらいの期間の予測なら十分な精度でできそうだというような、ある程度定量的な評価もできるようになるかもしれません。

しかし、多くの石油会社ではそこまで過去をえぐるような評価は、なかなかしないのではないかと思います。投資決定時の正当化に使えればそれでよいということであれば、モデルの予測精度を過去にさかのぼって評価する必要もないし、むしろそんなことはしたくないかもしれません。

私自身は、技術的に、ある時点で限られた条件の中で作成されたモデルが、どの程度の予測精度を持っていたのか評価できたら面白いだろうなと思います。

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