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井上靖さんの自伝的小説三部作

中学生の頃に読みふけった本の中に、井上靖さんの自伝のような小説、「しろばんば」「夏草冬濤」「北の海」の三部作があります。

「しろばんば」は主人公の「洪作」が伊豆湯ヶ島で過ごした幼少期の話で、「夏草冬濤」は洪作が下宿しながら旧制沼津中学に通っていた頃の話です。そして「北の海」は沼津中学を卒業して、浪人しながら金沢の第四高等学校の柔道部に通うストイックな青春のひとときの話です。

私は「しろばんば」の、凛とした決意とか孤独感を感じる雰囲気、そして洪作がある時期から勉強に打ち込む姿に非常に影響を受けました。この小説になんとなく流れる「凛とした孤独感」にすごく憧れました。私もこの小説を読んで「勉強しなければ」と強く思ったことを思い出します。

「夏草冬濤」で描かれる旧制沼津中学時代の洪作を取り巻く友人たちは、今までになく自由奔放で、大人びていて、それでいて子供っぽい、魅力にあふれた人たちです。このような友人たちに刺激を受けながら過ごす青春は楽しいだろうなと思わせるものでした。わたしも高校は男子校に進学し、まわりには今まで見たことないような、個性的な友人が多かったこともあり、小説の雰囲気が何となくわかります。青春のなんとなく自制の効かない危うさやドキドキ感を感じていました。

そして「北の海」では第四高校で柔道に打ち込む、すごく勉強はできたのでしょうが、高校ではストイックに柔道にのめりこむ友人・先輩たちが出てきます。中学時代の友人たちがすこし幼く見えるような、学問の道にも通じるような、目指すべき大人の世界にもつながるような、めざす生き方の一端を感じさせる話です。

とにかく最初に読んだ中学生の頃の私には衝撃的な小説三部作でした。いまでもたまに読み返して、自分の小・中・高校ぐらいの頃を思い出します。そして憧れでもある「凛とした孤独感」を少しはもって生きてこれたかどうか振り返っています。

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