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「オメラスを歩み去る人たち ー禁忌を破るのは」

さて、ル=グウィンが語るオメラスという国は、豊かで、平和で、文化的で、楽しく明るい、ユートピアのような国です。

このすばらしい国には、飢餓も戦争も差別も経済危機もなく、人々は親切で活気にあふれ、この世で考えうる最高に恵まれた国といえます。

しかし、実はこの国には、一つだけ、ある問題、ある欠落があります。


この国の、ある建物の地下に、一人の子供が、汚れきって鎖につながれ、放置されています。

その子は、知能があまり発達しておらず、自分の境遇がどういうものかさえ、おそらくはよく理解していません。

そして、神との契約なのか何なのかわかりませんが、実は、このオメラスの繁栄と人々の幸福は、このかわいそうな子供を、助けたりやさしくしたりせず、このまま閉じ込めて放置しておく、という絶対条件の下に、成り立っているのです。


この子を解放することはもちろん、やさしくいたわってやったり、きれいにしてやったり、あるいは抱きしめてやったりしただけで、この契約は破られます。

そしてオメラスには、地上で考えうるありとあらゆる災厄が降りかかり、この国の何十万・何百万という人々はただちに、疫病や戦争、災害や経済危機など、あらゆる不幸に苦しむことになります。


オメラスの若者たちは、十代の半ば、物事が理解できるようになった年ごろに、この事実を知らされます。
そしつ必ず一度は、このかわいそうな子を、地下室に見に来ます。


オメラスの人々はみな、思慮深く、思いやりと責任感を持っているので、この事実を知った当初は、誰もが苦しみます。

そして少なからぬ人々が、このかわいそうな子を助けたいと考えますが、そのために何百万という他の人々を不幸のどん底に引き落とすことができる人はおらず、この子は放置されたままです。

この事実を知り、それに対して自分にはどうすることもできないと理解したとき、オメラスの若者たちは、大きく変化します。

自分たちの得ているものが何を犠牲にして成り立っているか、知ってしまった彼ら/彼女たちは、それまでの子供時代のように、ただ能天気に日々を過ごすことは、もうできません。

そして、いままでより一層、いま享受している繁栄と幸福を、大切にするようになるのです。


この話には、もう少し続きがあります。

この、閉じ込められた子供のことを知らされ、この子の姿を見た後、まれに、オメラスから姿を消してしまう人々がいます。

その人々は、この子のことを知った直後、あるいは、それから何年も経ったある夜、身の回りのものだけを持って、静かに、オメラスから歩み去っていきます。

オメラスの国・オメラスの都の周りには、一面の荒野が続いていて、そこを去る人々がどこへ向かうのかはわかりません。

しかし、彼ら/彼女たちは、自分の行く先を知っているかのように、確かな足取りで、この国を去っていくのです。


しかしーーーーある時、その禁が破られたのです。

その者は、1人の少年を救いたかったわけではありませんでした。

多くの人たちに災難が訪れることを厭わなかったわけではありませんでした。

苦悶の末の行動でもありませんでした。

しかし、ある時、ある者が、禁を破ったのです。






Rugube Live配信 ××××/●/00 〜予定
■地下室に行ってさわっちゃいけない例の少年を触ってみた■



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