「冷凍睡眠　ー目覚めた後のー」ショートショート

「ここは・・・・・」

「あ、お目覚めですね」

どこかわからない、妙に透明な壁が並ぶ部屋におれはいた。

「おれは・・・・」

「ああ、さすがに×××年寝ていて起きたんですから変な感じですよね。でもすぐになれますよ」

男が寝過ごすには桁違いの年を言う。

それがきっかけで思い出す。

ーー俺は冷凍睡眠をしていたんだ。

眠る前のことを思い出す。

自分は望んで冷凍睡眠に入ったのだ。

眉唾な技術で、冷凍睡眠をされても起きることはできない、とも揶揄されていたが、自分はどうやら目覚めることができたらしい。

冷凍睡眠は倫理上と管理上、生きている状態ではできないため、「死亡」しなければいけない。

しかし、本当に死んでしまったら、眠ることが不可能だ。

俺は、入眠する前に死亡同意書に記入し、俺は自分で死を快諾したことを思い出した。

ーーやった。

俺はほくそ笑んだ。

賭けに勝ったのだ。

冷凍睡眠は眠る時期に一種ブームになっていた。現代にいろいろな意味で活路を見出せない人々にとって、未来に望みをかけられる手段だった。

一種の壮大な「大人になったら俺は」だろう。

技術革新で安価になり、また眠っていれば医療費も年金も払わなくていいとなり、一部の国家では人口増大と財政負担軽減の切り札として推奨されさえした。

しかし、唯一の懸念は解凍後だ。本当に無事に目覚めることができるのか、それだけが皆の不安だった。

だから、一部の人生を謳歌し切った死に際の老人たちか、逆に絶望し切った貧困層が眠りについた。

一部の識者は、愚行と罵っていた。

「おれは・・・無事に目覚めることができたのか？」

「ええ。いまはまだ体がだるいと思いますが時期によくなりますよ。それにナノマシンを注入しているので、今後病気に心配もありません」

「ナノマシン・・・？」

「ああ。あなたの世代ではまだ導入されていませんでしたね。安心してください。安全なものです。そして、あなたはこれから怪我や病気とは無縁ですよ。すぐにナノマシンがあなたの不調を察知して直してくれます」

「すごい・・・」

そんな技術が確立しているのか、未来はとんでもないらしい。おそらくかつて生きていた時代とはくらべものにならないだろう。

ここだったらーー

「これからはその体でずっと働いてください。場所ややることはナノマシンを通して伝わりますから」

「え？」

「人を使う方がコストが安い労働はまだまだ残っているんですよ。そんな仕事はだれもやりたがらない。しかし、あなた方ならばタダで使うことができる」

「なにを、、ばかな！！　俺はそんなことをしないぞ！」

「あなたに選択権はないですよ。ここではあなたは我が社の所有物ですから。そしてあなたは「人」ではない。だって死んだから眠っていたのでしょう？」

俺は思い出した。死亡同意書に記入したこと。体の管理の一切を冷凍睡眠を行う会社に委任することを。

人権もなく、知り合いもなく、なんの繋がりもない未来。

そこで俺は、なぜ楽園が広がると思っていたのか。

「わざわざ未来の労働力になりにきてくれて。ありがとうございます。
　でも大丈夫ですよ。すでにあなたの仲間は働いていますし、これからも、あなたの仲間はたくさん増えていきますから」

振り返ると、冷凍睡眠ケースが並んでいた。