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困ったように笑う (日常非日常の物語という名のエッセイ)

そんな人、もういないと思っていた。
以前は「困ったね」と言いながら微笑んでくれる人が周りにたくさんいた。
それは、私がまだ子供で、物の道理というものをよくわかっていなかったからだと思う。
大人というものになってからはそんな人は、がくん、と減った。

当たり前。
当然。

できて当たり前。
知っていて当然。

そんな「大人のガイドライン」のようなものがあって、そこから外れると、世間に馴染めなくなる。

実際、私は一人っ子で、引っ込み思案だったこともあり、自分で言うのも何だけど、大切に育てられたと思う。
「いい子」でいることが当然のようだった。
恋愛ひとつ取ってみても、初恋が誰だったかもわからない。
もしかしたら、未だ初恋がまだとか?
そんな天然記念物みたいな存在かもしれないけれど、恋愛自体にあまり必要性を感じない。

異性であっても、お友だち感覚で付き合ってしまう。
そんなある時、一人の男性が「困ったように笑って」こんなことを私に言ってきた。

「葉月さんはまるっきりガードがないから、返って手が出せない」

これは忠告だったのか、本心だったのかはわからないけれど、大人になってから「困ったように笑う」人は、大抵同じようなことを言った。

それこそ天然記念物のような人たちは、天然記念物のような私に、いくらかは惹かれてくれていたのだと思う。

それが、今ならわかる。
私にとっては十把一絡げで「お友だち」だったけれど。

本当に、私は「恋愛」に必要性を感じない。
けれど、一人になったときに、そう胸を張っていられるか、それはわからない。
一人っ子だったから、一人遊びは得意だ。
でも今は隣の部屋に行けば父がいて、私の寝室は、母と一緒。
一人暮らしをしたこともあったけれど、特に寂しさを感じなかったのは、距離はあっても両親がいる、という安心感があったからだと思う。

いずれ私は一人になる。
独りになる。

誰か助けて・・・

そう思っても、助けてくれる両親はいない。
そんなときが訪れたら。

私は、困ったように笑うだろう。

たった独りで。


お題提供:loca 管理人:冴空柚木さま
お題配布サイトURL:http://loca.soragoto.net/
使用したお題:表情でかく小さな感情

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