📕初恋〜プロローグの前〜

今、夢みたいな時間を過ごしている。

今日の仕事帰り、彼と約束をしていた。
3日前から楽しみだった。
いや、6日前から楽しみだった。

手と手を重ねた時、顔を見合わせた。

通ったビルの窓に自分の姿が映った。
私の笑顔は固かった。
それに、上がった口角と身体が震えていた。

せっかくお化粧を直したのに、
緊張の方が勝っている。
こんなに心が乱れるなんて…。

ずっと大事な存在だと思っていた。
けれど違った。

自分が思っている以上に
ずっとずっとずっと…、
大切なのだと分かった。
こんなに自分が別人みたいになってしまうなんて。

この日この時間、特別な気持ちを知った。
今までで一番幸せで、何よりも…生きていた。

全てを身体で感じていた。

想っていることの証拠だ。

新しく頬に乗せた紅も、直した口紅も。
少しでも近づきたくて。
だから、どうしても可愛くいたくて。
なんだかそんな自分が愛おしい。

彼のことを大切な自分が、愛おしくてしょうがない。


あ…。
駅が視界に入ってきた。
時間にすると、あと3分あるかどうか…。
もう少し一緒にいたい。
彼のベールに包まれたこの時間。
まだまだ、この先もずっと包まれていたい。

「少し遠回りしちゃダメですか？」

聞こえてしまいそうな鼓動と闘いながら問いかけた。

「いいけど時間、大丈夫？」　

幸せだった。

「大丈夫です、あの…腕を掴んでも良いですか？」

近づきたい。
上手く呼吸ができないほど、緊張した。

「良いけど、手を繋ぐよりそっち方が良いの？」

頷いた私を見て、左腕を出し空間をつくってくれた。
私の右腕が入る空間を。

「緊張しちゃって。許してもらえるなら腕を掴みたくて…ありがとうございます」

私は肩に近いところに手を預けた。
もっと緊張した。
きっと世界一幸せだった。

「ずっと震えているよね？大丈夫？」

ドキッとした。


彼が見てない隙に自分の左手を胸に当てた。
左側を歩いていて良かった。
呼吸の速さもどうにか誤魔化したい。

けれど、今の自分は本当の自分ということ。
だから緊張して震えていようが、
そのおかげで近づけたこと、大切にしよう。

決して叶わないこの気持ちを、いつまで胸に閉じ込めておけば良いのだろう。

苦しくて、でも楽しくて。
切なくて、泣きたかった。

なのに、一生この時間が続いてほしかった。

彼に隠し事はできない。
いつも全てお見通しだから。

私が
「仕事頑張ります！」と言ったから。

心に寄り添ってくれたんだよね？

Amazon.co.jp: 素敵な体調の崩し方 eBook : 月葉月: Japanese Books