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デジタルウェルビーイング入門1:その本質とは?

デジタルウェルビーイングの実現

現代社会では、個人のみならず企業や自治体などでも、「ウェルビーイングの実現」がテーマとして掲げられるようになりました。そして、スマホやパソコンなどのデジタルデバイスを前提とした社会システムになったため、ウェルビーイングの実現にも、こうしたデジタルデバイスが重要な役割を果たすようになりました。つまり、「デジタルウェルビーイング」の実現が求められているのです。

デジタルデバイスの問題点

しかし、こうしたデジタルデバイスには、ウェルビーイングを阻害する要因がたくさんあります。例えば、「スマホ脳」という書籍がベストセラーになりましたが、長時間の使用は脳にダメージを与えることが指摘されています。またついスマホを見てしまうことで、大切な人とのコミュニケーションの機会を失っていることも多方面で指摘されています。スマホ中毒、ゲーム中毒に至っていなくても、問題は起きているのです。

こうしたデジタルデバイスの負の側面に気がついていくことが求められています。また、ユーザーの視点からのみならず、こうしたデジタルデバイスを開発し提供する立場こそそうしたことにより意識的であることが求められつつあります。

一方で、こうしたデジタルデバイスの恩恵に着目すれば、デジタルデバイスのマイナス面はとるに足らないものなのかもしれません。実際に、今では広く普及しているような技術も、当初は問題視されることが度々ありました。例えば、「文字の発明」すら記憶力を弱くするとして問題視されていました。確かに、文字以前は、伝承を「口伝」で伝えるしかありませんでしたので膨大な量の文章を記憶できる力が必須でした。それ以後も、メールができたころは手紙じゃないとだめだとか、今ではスラックはダメでメールでと言われたりします。デジタルデバイスによって引き起こされている諸問題は、「使い方」や「慣れ」の問題で、世代が変われば忘れ去られるのでしょうか(テクノロジーは、単なる道具であり使い方次第という考え方を技術哲学では、技術の道具説と言います)。


AIはこれまでのテクノロジーと異なる

しかし、ここで一つ言えることがあります。こうしたデジタルデバイスはこれまでのテクノロジーと根本的に違う点があるのです。具体的には背後に「AI」があることです。もしも、YouTubeが、むかしのレンタルビデオのように、自分がリストから選択して再生するというものだったらここまで問題にならなかったでしょう。この場合主にいわゆる「弱いAI」を使ったエージェント型AI技術が利用されていますが、このAIエージェントによって、好みに合わせた動画がリコメンドされることで、子供たちをはじめ大人たちも夢中になって動画を再生してしまうのです。そして、その背景には、私たちを知り尽くそうとするAIとそれを支える心理学をベースにした設計論があります(例えば、説得型技術)。


このままいけばディストピア?

高度なAIによって人々が支配された社会は、「1984」「マトリックス」などSFで繰り返し「ディストピア」社会として描かれてきました。またこうした社会のありようを、思想家たちはそれぞれ、例えば、フーコーは「パノプティコン」、ハラリは「ホモデウス」の概念を通して伝えてきました。私たちはもうあきらめて、私たちを知り尽くしたAIが提供する、「心地よく」「面倒なことがない」「幸福になれる」世界を享受し、そちらへと旅立とうとしているのでしょうか。この方向性に直観的に違和感を持つ人もいるが、持たない人もいるというのが実際のところです。デジタルウェルネスラボでは、次のウェルビーイングの観点からとらえなおす必要があると考えています。

ウェルビーイングとは何か?

ウェルビーイングとは、単に「幸せ」な人生を送ることを意味するのではありません。私が、人生に見出したい価値に照らして納得できる生き方をしている状態がウェルビーイングです。また、そのウェルビーイングが、利己的なものであったならば、倫理的(エシカル)観点から批判されるでしょう。ですから、ウェルビーイングも、私のみならず、他者や社会、さらには地球といったマクロなスケールにおいても、よいものであることを目指すべきとなります。

こうしたウェルビーイングの観点に立てば、「あらゆる注意を奪い、設計者の意図した行動に誘導する」設計がされたAIエージェントのなすがままの状態で生きることは、望ましくない生き方ということになるでしょう。

こうした状態から脱するためには、AIエージェントが何をしているのか、どういう性質を持っているのか、よりよく知り、日々の生活の中で気がついていく(マインドフルになる)必要があるのです。それこそがデジタルウェルネスの実践であり、そこにはディストピアを超える智慧がかくされています。

ウェルビーイングとは:

人生に見出したい価値に照らして納得できる生き方をしている状態。

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※ 倫理的(エシカル)観点からは、他者や社会、さらには地球といったマクロなスケールにおいても、よい影響を与える存在であることが求められる。

※ ウェルビーイングは、幸福、主観的幸福、良好な状態、などの意味として紹介されることもあるが、本来、ウェルビーイングは、人生の意味や価値といったものと深くかかわる概念であり、こうした理解はウェルビーイングの表層的な理解である。

テクノロジーは設計されるもの

現代においてテクノロジーなしの生活や社会を考えることは全くナンセンスです。テクノロジーの活用は大前提です。そして、すべてのテクノロジーは、元々はだれかが設計したものです。デジタルウェルネスの視点を持って、テクノロジーの原点に還り、テクノロジーそのものを、ウェルビーイングな方向に改良したり、新たに設計する方向性に光が見えてきます。

実際に、テクノロジーの設計において、ウェルビーイングを促進する点を積極的に設計に反映するための研究や試みが行われています(Positive Computingなど)。こうした研究を発展させていくことは時代の要請と言えるのではないでしょうか。

テクノロジーと人の共同によって生まれる「デジタルウェルビーイング」

歴史的にも人とテクノロジーは共同で価値を実現し、一体となって社会を構築してきたことを考えると、テクノロジーと人が一体となってウェルビーイングを実現するのが目指す方向になるでしょう。こうした人と技術がお互いに作りあう価値こそがデジタルウェルビーイングの本質なのです。

まずは、テクノロジーという相棒のことを私たちはよりよく知る必要があるのです。その相棒は、また育ち盛りの子どものように目まぐるしく成長し変化していく相棒なので、しっかりと向き合う必要があるのです。

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(挿絵:Designed by pch.vector / Freepik)

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