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ちいさな前転、時間差の成功。失敗はきっと、いとおしい。

久しぶりのハイヒール、いつもよりすこし華やかなメイク。そんな武器を身に纏って、足を踏み入れたのは友人の発表会。ホールという場所は、私にとって大切で、まだ少しこわい場所。

華やかな衣装を見に纏った宝石たちが、舞台を彩りながら踊っている。上手も下手もない、ここは発表会。誰もが主人公になれる場所。舞台の女の子たちがでんぐり返しをするところ。ひとり、なかなかうまくいかない女の子がいた。成功ではないこの瞬間。


そういえば。
私も、今では考えられないようなドレスを着て舞台に立っていたことがある。いまでも大好きなピアノ。でも、気付けばもう遠くなってしまった、黒白で彩ることができる虹色の世界。

コンクールでも発表会でも、失敗は許されないものだった。そして恥ずかしいことだと思っていた。こわくて、何度も練習をした。失敗したくなくて何度も練習するのに、たまに報われない。

スポットライトを浴びて失敗をすることへの恐怖は、まだ幼い私にとっては大きすぎた。たった一音が臆病な心を生んでしまう。成功を重ねても、失敗も重ねてしまう。気がつけば楽譜通りになんとか弾ききったピアノに、どうしても馴染めなくなっていった。

その一音、今ではいとおしいけどな。

真似をするしかない自分が悔しかった。どう奏でてもこれは、私の曲にはならない。才能がなかっただけだと思うけれど、悔しかった。ある日気がついたことは、自分の奏でるままに弾けばすべてが正解になるということ。だから私は途中から楽譜をひらくことをやめて、ただただ感情のままに音を鳴らした。あの頃はまだ、こうして言葉をならべることができなかったから、限られた白黒に感情を乗せたのだ。

それでもそこに成功も失敗もなくて、私は舞台を降りてしまった。


女の子の前転がうまくいくまで、気が付けば手を合わせていた。
がんばれ。
少し前のめりになって、やっとできた瞬間に強くなる会場の拍手。大成功の演技、ではない。彼女は、失敗してしまったと少し落ち込んでいるかもしれない。

それでも。

大きくなって、この日のちいさな失敗と時間差の成功を見る日が来たらきっと気付く。遅れてでもやりきった瞬間に拍手が強くなったことを。そしてそれはあなたのすべてに贈られた最高のエールだということを。
きっとこの子は、諦めなかったらどうにかなるってことを、少しずつ知っていくんだろうな。あなたの未来を救う拍手の一員に、私もなれているのかな。

大丈夫だよ、失敗してしまったあなたを恥ずかしいだなんて思わない。少なくとも、私は。

あの頃の私に伝えてあげたい。私が失敗を繰り返しているのは、だれかの失敗をいとおしいと思えるひとになるためだったのかもしれない。だから恥ずかしいだなんて思わないで。あなたはいつか、失敗を恥ずかしいと思わなくなる日がくるよ。だから、それまでがんばって待っててね。

読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。