結婚して変わらなかったもの/夫婦別姓
昨年フランス人と結婚するまで知らなかったのですが、外国国籍のパートナーと結婚する場合、夫婦別姓にすることができます。特に何もしなければ夫婦ともお互いの名字のままとなり、我が家は夫婦別姓です。
最近は日本でも選択的夫婦別姓を認めるかどうか、議論が盛んになってきているようですね。結婚の際には深く考えていなかったのですが、夫婦別姓についての記事を読んでいると、今になって名字について日本とフランスでの仕組みが気になってきました。
国際結婚すると外国人パートナーは日本の姓へ変更できるのか?夫婦別姓の場合子どもができたらどうなるんだろう?そしてフランスでは結婚に際して同姓にするのか、別姓にするのか、男性が女性の姓に変更することもできるのか?調べてみることにしました。
まず国際結婚における婚姻後の姓名について、在仏日本大使館HPを見てみると、
婚姻後の姓名
フランスにおいては、婚姻後も旧姓を維持する習慣があります。このため、フランス人と婚姻しても日本の姓は変える必要はありません。
もし戸籍上の姓を変更すると滞在許可証申請時など、諸手続の際に不都合が生じることがあります。
※ 婚姻後、戸籍上姓の変更をしなければ、日本国旅券もそのまま使用することができます。また、希望すれば括弧書きにて、外国人配偶者の姓を別名併記することができます。
※ 日本の法律では、戸籍上の姓を外国人配偶者の姓に変更する場合には、婚姻後6ヶ月以内に「氏の変更届」を提出しなければなりません。
とのこと。婚姻手続きの際にこのページを読み、滞在許可証やパスポートの名義変更大変そうだしやりたくない!名字を変えないでいいならその方がいいなと思ったのを覚えています。
日本政府のHPの情報も探してみたのですが、国際結婚と名字についてわかりやすい記載が見つからなかったので、一番簡潔にまとまっていたこちらのページを参考にしました。
日本人が外国人と結婚しても、特別な手続きをしない限り名字は変更されず夫婦別姓となるそうです。日本人は外国人の姓へ変更可能ですが、戸籍の関係で外国人が日本人の姓へ変更することはできません。日本国籍を取得した場合に限り日本の名字を持つことができるとのこと。ただし外国人でも、住民票や運転免許証に記載可能で法律上有効な名称としての通称名を申請することは可能です。子どもの名字は、夫婦別姓の場合は日本人側の名字、夫婦同姓(外国人は日本の姓を持てないのでこの場合夫婦とも外国姓)の場合はそのまま子どもも外国姓になります。
なるほど。てっきりフランス人のパートナーも私の名字になれると思っていました。外国人は日本の姓を名乗れないのですね。
さて、フランスでは結婚すると名字はどうなるのでしょうか?フランス政府のHPで調べてみました。日本とは仕組みが全く違い、選択肢が多く複雑です。
まずフランスにはnom de familleとnom d'usageという二つの名字のシステムがあります。
nom de familleとは出生証明書に書かれた名字で、多くの場合自分の父親か母親の名字。nom de familleはnom de naissanceとも呼ばれ、出生時の名字のことです。これは結婚しても性別に関わらず、出生証明書にそのまま残ります。養子縁組や正当な理由による法的手続きによっての変更を除き、nom de familleは生涯変わりません。
参考にいくつかフランスのサイトを読んでみたのですがフランス人でも、結婚するとnom de familleが変更になると思っている人が多いそうです。結婚してもnom de familleは変わりませんが、その代わり結婚するとnom d'usageの使用が認められるようになります。
婚姻に際し双方の性別に関わらず、相手の名字、または相手の名字と自分の名字を組み合わせたdouble-nomを使えるようになり、これをnom d'usageを呼びます。nom d'usageには申請期限がなく、いつでも申請可能です。
例えば、マダムDupontがムッシューDurant-Martin(分けることのできない複合した名字)と結婚した場合、マダムDupontはDurant-Martin、Dupont Durant-Martin、Durant-Martin Dupontの中からnom d'usageを選択することができます。ムッシューDurant-Martinにも同等にnom d’usageの選択肢があります。
マダムDupontがムッシューDurant Martin(分けられる複合した名字)と結婚した場合、マダムDupontはDurant Martin、Dupont Durant、Dupont Martin、Durant Dupont、Martin Dupontの中からnom d'usageを選択することができます。ムッシューDurant Martinにも同等にnom d’usageの選択肢があります。
さすが自由の国、フランス。選択肢が多い!
今まで名字とは生まれながらに与えられたもので、自分で選択することができるものだとは思っていませんでした。国が変わると名前の概念も変わります。
nom d'usageというのが日本人からするとちょっとわかりにくのですが、nom d'usageの使用は義務ではなく任意。申請が必要です。
nom de familleは出生証明書、結婚証明書、家族手帳に記入される名前で、nom d'usageがnom de familleにとって代わることはありません。nom de familleにプラスしてnom d'usageも持つことができるという認識です。
一方nom d'usageも公的に使用を認められた名字で、仕事やプライベートだけでなく、公的手続きでも使用されます。パスポートや身分証明証ではnom de familleの後ろに記載されます。nom d’usageを使用することにすると、銀行や年金事務所などなど諸々での名義変更手続きが必要となります。
結婚4年目の同僚夫婦の場合、元々nom d'usageは申請していなかったのですが、子どもができたときにみんな同じ名字が入っている方がわかりやすいかな、ということで奥さんが彼の名字と自分の名字を合わせたdouble-nomをnom d'usageとして結婚記念日に申請したそうです。
ちなみに子どもは両親どちらかの名字、またはふたりの名字を複合した名字になります。一方の親が外国人の場合でも、複合した名字にできると書いてあるので、例えばDupont Yamadaも可能ということでしょう。
我が家に子どもができた場合、日本では子どもの名字は私の日本姓になり、フランスでは複数の選択肢から名字を選べるということ。日本とフランスで違う名字になる可能性もあるというのが興味深いです。
ところで先程のDupont Durant-Martinさんが息子の名前をJean-Philippe、セカンドネームをSebastienとすると、彼の名前はJean-Philippe Sebastien Dupont Durant-Martinということ。さらに彼が分けることができない複合した名字の子と結婚するとどうなるのか、、?ちょっと想像を超えてきます。でも複合した名字にできると、夫婦どちらも自分の名字に愛着があったり、高貴な名字で後世へ遺していきたいとか特別な家族の想いがある場合には便利ですね。
日本では婚姻手続きに際し96%女性が名字を変えるそうです。
誰でも少なからず自分の名前に愛着や思い入れがあるものだと思います。だから名字を変えたかったり変えたくなかったり、一緒にしたかったりしたくなかったり。
夫婦別姓反対の意見で、家族の絆が無くなるとか、子どもが可愛そうだからというのを見ると、なんだかなあ。夫婦同姓でも別姓でも家族の絆も子どもへの愛情も変わらないでしょう。感情論は好きではありません。でも伝統を大切にしたいという気持ちはわかります。
一方で、自分の姓を変えたくないという人の気持ちもわかりますし、女性が姓を変えるのが当たり前という風潮、その圧力への反発は十分に理解できます。夫婦別姓でもいいですし、夫婦同姓でも男性側が女性側の姓になることがもっと一般的になってもいいのではと感じます。
名前は今まで自分のアイデンティティと結びついた唯一無二のもののように盲信していたけれど、そんな確固たるものでもなかったのかもしれません。国が変われば仕組みも変わる。名字は複数持てる場合もあるし、自分で使う名字を選べたり、パートナーの名字と合体させたり。名前って思っていたよりも弾力性のあるもののようです。
夫婦同姓か別姓か。守るべき伝統だったのか、廃止すべき悪しき慣習だったのか、すぐには分からず、それがわかるのは何年も先に振り返ったときのこと。しかし、もしも日本で選択的夫婦別姓を導入することになっても、実際に夫婦別姓を選択する人は少ないのではないかと思います。でも選択できる仕組みがあるのとないのとでは大きな違いです。その大きな違いも男女平等という果てしなく遠い目標と比べると、わずかな変化かもしれません。しかし小さな変化の積み重ねが、私たちの当たり前や常識を少しづつ変えていきます。
日本とフランスの名字の仕組みを調べているうちに、男女の平等についても考えさせられました。そして、そもそも名前とは?アイデンティティとは?と、考えることはまだまだありそうです。
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