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最近見た邦画たち

最近無限に時間があったので、毎日映画を観ていました。

いつも楽しく読ませてもらっているSmall Worldさんが「角川映画主題歌10年の軌跡」でご紹介されていた『犬神家の一族』。この主題歌が好きで時々聴いていたのですが、角川映画はほとんど観たことがありませんでした。

これは良い機会と『犬神家の一族』を観てみると、これが面白い!まだまだ見逃している大作があるんだなあと大変嬉しく、この一週間は邦画を中心に見ていました。その中から4本、感想です。


『犬神家の一族』 市川崑監督 (1976年)


冒頭、石坂浩二演じる金田一さんが走る時にキッチュな効果音が流れた時には、B級作品なのかなとヒヤッとしたけれど、非常に見応えのある作品でした。最近の作品だとこんな風に効果音を効果音らしく使うのはチープになりがちなのかあまりみかけない気がします。でも慣れてくるとおどろおどろしい死体には愛嬌があり、絵の具感満載の吹き出す血飛沫も面白いです。確かに細部を観ると時代の変化を感じるのですが、しかし話の筋や演技は一級。音楽のレベルも高いです。昔の言葉遣いは上品で聴き心地が良いのも好き。でも何より本当によくできた物語なんです。今日では珍しい、きちんと作られた作品だと感じます。ツッコミを入れずに集中して鑑賞できるしっかりとした構成、複雑だけど整合性の取れた人間関係、モダンで予想外の展開、最後まで誰が犯人なのか分かりませんでした。

ところで石坂浩二ってウルルン滞在期のイメージしかなく、あまり好きじゃなかったのですが、こんなに可愛い役者さんだったんですね。小汚くてとぼけた感じの金田一さんがとても良かったです。文句なしに面白い物語を観たい時におすすめの、安定感があって安心して観れる名作でした。



『うなぎ』 今村昌平監督 (1997年)

フランス人の映画好きから、今村昌平すごい良いよね!と言われたのに同監督の作品を一つも観たことがなくて、慌てて鑑賞しました。妻の不貞を目撃して殺してしまった男が8年の刑期を終え仮出所し、町で暮らし始めるのだが、という物語。人に心を開かない主人公が唯一会話する相手というのが飼っているうなぎです。


すごく良かったです。町の人たちがみんな優しくて、武者小路実篤の本に出てきそうな人たち。特に近所の大工のおじさんがいつも気にかけてくれていて、「よく見とけ!殴ってるのは俺だ!」のシーンは泣ける。普通の人たちの優しさ。個人的には、友達がいなくて宇宙人と友達になりたい男の子にシンパシーを感じました。しかしもちろん良い人ばっかりではなくて、主人公の刑務所仲間の男が本当に嫌ったらしい奴。でも説得力がある。彼の行動は全くもって正しくないけれどその行動原理に陥ってしまう心は理解できるのだ。

人間を描いているだけで教義を押し付けてこようとか、善悪を定義しようとはしてこない、ドライな作風の距離感がとても心地良く観れました。あんまり考えたことなかったけれど、人を殺して刑期を務めて市井で暮らしている人もいるんだよなあ。

調べてみると、『うなぎ』は第50回カンヌ映画祭でパルム・ドール賞を受賞した作品。さらに今村監督は1983年の『楢山節考』でもパルム・ドール賞受賞。同賞を2度受賞した監督はコッポラ監督やケン・ローチ監督、クストリッツァ監督など8人しかいないそうです。日本映画がパルム・ドールを受賞したのはこれまで5本。そのうち2本が今村監督とは、恐れ入りました。『楢山節考』も観なくては!


『復讐するは我にあり』 今村昌平監督 (1979)

『楢山節考』が見つからないので、タイトルだけは聞いたことのあった『復讐するは我にあり』を鑑賞。これまた超重量系の作品でした。殺人と詐欺を重ね、日本中を逃亡した極悪犯を描く逃亡劇です。1963年に日本で実際に起きた連続殺人事件が元になっています。


役者達の演技が圧巻でした。画面の奥に生きた人間がいるのです。ちょっと目をそらしたくなるくらいに辛く痛く生々しいです。特に緒形拳がすごい。理解できないサイコパスの存在感にリアリティと狂気と魅力を与える。こんな人のこと普通好きにならないだろうと思うのですが、しかし人生とは得てして常時に考える”普通”の通りには運ばないもの。旅館の女将が彼を捨てておけない心境は息苦しくも、両者の演技力の高さに組み敷かれるかのような、そういう説得力がありました。

主人公も極悪人ですが、信仰心が強いだけにねじ曲がった父親も怖かった。人間の嫌な面を突きつけられるし、物語も非常に濃密で息が詰まりそうになります。全く気分の良い作品ではないですが、流石にこれが名監督の作品かと納得の素晴らしい演出やシークエンスには目を奪われます。最初の殺人のあと、手を洗って柿を食べるシーン。こんなの観たことがありませんでした。

緒形拳といえば、『ナニワ金融道』。子供の頃にこれを観てネズミ講は下っ端では儲からないとか、保証人になったら危険だとか、たい焼きでハンコを写せるなど大事なことを学びました。配信されたらぜひまた観たい、お気に入りのドラマの一つです。


『桐島、部活やめるってよ』 吉田大八監督 (2012年)

スクールカースト最上位、スポーツ万能の桐島くんが誰にも相談せず部活を辞めたというニュースが学校中を駆け巡ったことから巻き起こる、群像劇。


冒頭、廊下を歩く学生の後ろ姿を追うシークエンスで、ガス・ヴァン・サント監督『エレファント』へのオマージュで始まるのかな?と思ったら、編集構成まるまる『エレファント』でした。真似したくなる気持ちはよく分かります。『エレファント』は本当に美しい作品です。同じ1日の様子を多視点で何度も繰り返し映し出すことで徐々に全体が分かっていくという構成は目新しいだけでなく、学校という閉鎖的な空間に渦巻く人間関係を客観的な距離を置いて炙り出すのに非常に効果的でした。紛れもない名作です。しかし、その名作の手法を、学校という同じ舞台で、学生たちという同じ主題を描くのに使ってしまうと、どうしても『エレファント』の良さが脳裏にチラついてしまい『桐島、部活やめるってよ』の世界に集中できません。普通に撮ってもそれはそれで良い作品に仕上がっただろうと思えるだけに、自ら本家の引き立て役に徹してしまっているように感じられ残念でした。

初めは高校生の演技がいかにも演技くさくて鼻につくのですが、でもそう言えば高校生って現実でも素じゃなくて、いつも何かの役を演じてるみたいなところがある。誰もが自意識過剰だったあの頃の感覚が懐かしく思い出されます。高校時代、同級生を見て、この人たちは一体いつ誰と本気で話すんだろうと思ったなあ。

しかしなぜ桐島くんが部活を辞めることでみんなが動揺するのかが最後まで分かりませんでした。辞めたいのだから、そっとしておいてあげたらいいのに。あと女子がよく泣く。桐島くんが部活辞めて泣くバレー部マネージャーの子、なぜ?特に誰にも共感を覚えなかったので、私はあんまりスクールカーストの仕組みや重要性が分かっていないのかもしれません。自分はカーストのどこに属していたのかな。

朝井リョウの『何者』は今時の人間描写がリアルで面白かったので、こちらも原作を読んでみようかと思います。

ちなみにスクールカースト最下位層の物語なら『ナポレオン・ダイナマイト』が好き。社会に迎合しないスタイルが良いです。日本の高校生青春ものなら『リンダ・リンダ・リンダ』。これを観て中学生の時文化祭でバンドを組んでリンダ・リンダやりました。当日の演奏は大失敗だったのですが、それも含めて今でもその時の友達に合うと笑い合える良い思い出です。



しかし最近のamazonの映画配信はすごいですね。メジャーな作品もあれば、聞いたことも見たこともないコアな作品もたくさんあって、ウォッチリストがどんどん長くなっていきます。毎日楽しいです。


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