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読書記録

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#読書記録

初めて歴史の面白さを知る 『日本の歴史をよみなおす』

歴史の本にワクワクしたのは初めてです。 歴史といえば、高校の授業。出来事と人物が年号とともに羅列されるだけの時間が退屈で仕方ありませんでした。ただただ記憶しなければいけない科目という印象で、ほとんどが睡眠学習の時間として消化されていきました。教師との相性が科目の好き嫌いに直結してしまうとは、いま思えばもったいないことです。 大人になると本を読んだり人と話したり、ニュースを読んだり社会を考えるときに、歴史を知っておくことの重要性を感じるようになりました。歴史が分からないと今

就活についてあれこれ思う 『何者』

日本の大学にいた頃、中退した私は就活をする機会がありませんでした。それでも周りで就活する先輩や同級生たちを横目でみて、大変そうだと思ったものです。どうしてみんな揃いも揃って就活するんだろう?そう思って何度も疑問を投げかけました。 「どうして就活するの?」 「入社したらもう着られないようなリクルートスーツを買ったり、みんなと同じ髪型にするの嫌じゃない?」 「自分のやりたいことをどうして企業が募集している選択肢の中から選べるの?」 「その仕事本当にやりたいことなの?」 「やりた

怒りの読書の処方箋

ちょっと前に、とある人気作家によるとある小説を読んだとき、読みながら抑えきれない憤りの気持ちが沸き上がってきたことがありました。本を読んで大人気なくこんなにイライラしたことは初めてです。ツマラナイのではありません。憤りを覚えるのです。 その主人公の思考回路や行動がどうにも受け入れられません。まあそんなことはよくあることでしょう。主人公が嫌いなタイプ=ツマラナイ小説ではありません。逆に自分と全く異なる趣味嗜好思想の人物だからこそ気になることもあるし、実生活では決して関わり合い

『恥辱』転落する人生の痛みと可笑しみ

ジョン・マクスウェル・クッツェーは南アフリカ出身の小説家。2003年にノーベル賞を受賞しました。今回読んだ『恥辱』は1999年に発表された長編作でイギリスのブッカー賞を受賞しています。とても読み応えのある作品でした。 『恥辱』J・M・クッツェー 舞台はアパルトヘイト撤廃後の南アフリカ。主人公は52歳、離婚歴有り、最近は老いを感じ始めたもののこれまで女性に困ることはなかった大学教授のデヴィッド。週に1度女を買うことで満足していたが、ある日教え子の女学生と関係を持ったことで人

映画好きこそ読んでほしい!『蜘蛛女のキス』

マニュエル・プイグ著『蜘蛛女のキス』を初めて読んだのは、大阪の本屋さんで働いていたときのこと。海外文学専門の先輩書店員さんがオススメしてくれたことがきっかけです。彼女は映画や文学への造詣が深く、いつも知らない世界を教えてくれました。確かレイナルド・アレナスの『夜になるまえに』に感銘を受け、「原文で読んでみたい!」との想いでスペイン語を習得し、今ではスペイン語、フランス語、英語で原書を読み、書店の海外文学および洋書コーナーの選書をされています。 ラテンアメリカ文学をほとんど読

『風の歌を聴け』と、果てしない読書の話

久しぶりに村上春樹文学に触れたくなって、『風の歌を聴け』を再読。学生のころ読んだときには引っかからなかったけれど、今読むと思っていた以上にキザな文章で、ちょっと驚きます。それでもやっぱり群を抜いて独特で、良い塩梅に、良い意味で、軽薄。本書のどこをとっても、一文引用するだけで、彼が書いた文章と分かるのではないでしょうか。ストーリーというようりも独自の文体が作る世界があって、ときどきその中にぷっかり浮かんで漂いたくなる心地良さがあります。 文化系で気取りたい年頃の男の子特有な表

名作で繋がる縁と人生の幸福を問う『白い牙』

犬の血を引いた荒野に生きるオオカミの物語と聞いて、『ごんぎつね』みたいな感じかなあ?ちょっとこども向けかしら。それともオオカミが擬人化されて喋る『BEASTARS』みたいな感じかな?と思いつつ読み始めたのですが、みくびっていました!やはり名作と呼ばれている本は、食わず嫌いせずに一度は手に取ってみるものですね。 『白い牙』 ジャック・ロンドン 犬の血を1/4引く、北国の荒野で育ったオオカミ犬ホワイト・ファング。厳しい荒野を生き、そして人との出会いによって変わりゆく彼の瞳には

『映画もまた編集である』 突き詰めたのちに至る人生の真理

これは、本当に全力でおすすめしたい1冊です。 ページをめくるごとに知的好奇心を揺さぶられ、驚きや発見が尽きず、面白い箇所にドッグイヤーをしていたらドッグイヤーだらけになってしまいました。 原題は"Conversation with Walter Murch"。映画ゴッド・ファーザーシリーズや『地獄の黙示録』の映像・音響編集を担当した稀代の編集者ウォルター・マーチと、『イギリス人の患者』原作者のマイケル・オンダーチェが同書の映画化にあたって編集者として参加していたマーチと出

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリィ・ジャクスン

狂人の日記を読んでいるような、いままで疑うこともなかった常識が歪められ、めまいを感じる一冊、シャーリィ・ジャクスン著『ずっとお城で暮らしてる』。 あらすじ 家族が殺された屋敷に住むメアリ・キャサリンと姉のコンスタンス。外界との関わりを断ちふたりきりで過ごす楽園に、従兄のチャールズがやってくることで、閉ざされた美しくも病的な世界に変化が起こり始める。 解説の桜庭一樹さんが呼ぶ”本の形をした怪物”と言う異名に負けない、静かな衝撃作です。 ※本書の桜庭さんの解説に、後述する

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

知らぬ人はいない名作かと思いますが、いまごろ遅ればせながら読了。最近長編小説を読み切る体力がないなあ、と感じていたのですが、読み始めると止まらない。とても嬉しい。 読書を続けていると、次に読むべき本がわかり、それを読み始めると体にぴったりと合うような、心地よいあの肌感覚が得られる、最上の読書体験ができました。 最近ネットフリックスでアニメばっかり見ているけれど、たまにはじっくり本を読むことが自分にとって必要なことだと思い出します。アニメを見ていると、テンポよくどんどん話が

三島由紀夫入門

三島由紀夫は『金閣寺』を始めとして、何冊か挑戦したのですが 今まで一冊も最後まで読み切ることができていませんでした。 海外に住む日本人として、三島由紀夫の一冊も読んでいないようでは 恥ずかしくていたたまれない。 そんな私のような方、これ、おすすめです。 三島由紀夫がこんな軽いタッチのエンターテイメント小説を書いていたなんて! 『命売ります』 三島由紀夫 自殺に失敗した青年が、新聞に 「命売ります」と広告を出すところから始まる物語。 命を買いに来るお客さんたち