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連載小説「オボステルラ」 【第三章】12話「1年前」(1)


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第三章の登場人物



12話 「1年前」(1)


 翌朝。

ナイフは1人、リカルドの拠点を訪れていた。玄関ドアをノックするも、返事がない。

「……」

 先日の発作の件があったため、念のためリカルドから合鍵を預かっている。鍵をカチャリと開けて入ると、リビングに人は居ない。まだ寝室で眠っている気配だ。

 そっと寝室の扉を開き、中を覗く。

「…あらあら、ふふっ。可愛らしいこと」

そこでは、リカルドとゴナンが身を寄せ合って眠っていた。ナイフはそおっと室内に入ると、まずゴナンの額に乗せてある濡れタオルをどけて、手を当てる。まだ熱がかなり高く、タオルはほとんど乾いていた。脇の洗面器でタオルを濡らして、またゴナンの額に乗せるナイフ。一方、その横でリカルドはゴナンが戻ってきて安心したのだろう。とても穏やかな寝顔だ。しかし…。

「……リカルド、ゴナンが寝苦しそうよ」

ナイフはリカルドの肩を揺らして声をかける。ゴナンの腕をギュッと両腕で抱えて眠っているのだ。これはこれで可愛い光景ではあるのだが、ゴナンが少し唸っている。

「……あ、ナイフちゃん、おはよう。あれ、もう夕方?」

「? いいえ、朝よ」

「え?」

リカルドは驚いて、ゴナンを起こさないようにゆっくりと体を起こす。

「そうか…。昨日の昼からずっと眠っていたようだ」

「まあ、いいことじゃない。あなたも今まで寝られてなかったんだから。それより何なのよ。ゴナンは熱もあるのに、そんなに腕をしっかり握って眠っちゃって…」

「……」

そう言われて、リカルドは隣で眠るゴナンをじっと見る。

「…だって、手を離すと、また寝ている間にいなくなってしまいそうで……」

「……ホント困った、大きなお坊ちゃんだこと」

呆れ顔のナイフに、リカルドは情けなさそうに笑う。しっかり寝たからか、かなり顔色が良くなっている。静かにベッドを降り、ナイフとリビングへと移動した。

「ナイフちゃん、どうしたの? 何かあった?」

「ええ、さっき宿にディルムッドの使いの人が来て、今日の午後にでも皆に例の話をしたいそうなのだけど。恐らく、とっても秘密なお話でしょうから、宿ではなくこの拠点で話してもらった方がいいかと思って」

「ああ、そうだね…」

詳細を知りたい好奇心もあるが、それ以上に聞いてしまうことの重さも感じる。ふう、とリカルドは頭を抱える。以前ミリアに聞いた、王家の影武者の選び方の情報などとは比較にならないほど、重大な内容だ。

「ここで構わないよ。ゴナンは寝込んだままだと思うけど。…ミリアの様子は、どう?」

「ええ、昨日はゆっくり休ませたから。今朝はもう、大丈夫な感じではあったわ」

「そう」

昨日、ひどく取り乱しパニックを起こしたミリア。あの様子を思い出すと、今日ディルムッドが話すであろうことの重さが、さらに身に染みてくる。

と、ナイフはリビングのテーブルにある大きな紙袋を指した。

「…あ、そういえば果物を買ってきてあるから。ゴナンの食欲がないとき用にね。あと、宿の食堂にファイアグラムがあったから譲ってもらってきたわよ。この家にウィンドリーフあったわよね。カーユが作れるでしょ。ここには氷室がないから、氷嚢用に氷も譲ってきてもらっているわ。融けないうちに使わなきゃね。それと、ゴナンの咳が出ているようだから、途中の薬屋で飴を買ってきたわ。小傷用に軟膏も…」

「……」

リカルドは、驚いた顔でナイフを見つめる。

「…何?」

「……いや…、今更なんだけどさ…」

リカルドは、いつもの微笑みを浮かべた。

「ナイフちゃんって、本当にいい女だよね」

「…何それ。嫌な笑顔ね」

はあ、とまた一つ、ナイフはため息をついた。




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