見出し画像

連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】9話「きっかけ」(5)


<<第三章 9話(4)  || 話一覧 ||  第三章 9話(6)>>

第一章 1話から読む

第三章の登場人物



9話 きっかけ(5)


 目の前に降り立った、巨大鳥。

 二人はそのまま、息を潜め見守っている。確かにミリアが3ヵ月間、共にしてきた鳥だ。そして彼女が乗っていた鞍には、今は違う人物が乗っている。茶色い髪をポニーテールにくくった、少女…? ミリアと背格好がよく似ている。

(……あの服…)

エレーネはその少女の装いの特徴に気付いた。少女は鳥から降り、鳥は泉の水を飲み始めている。ミリアとエレーネは顔を見合わせて頷き、接触を図ることにした。そっと近づく。

が、2人が草を踏むわずかな足音に少女は気付き、ハッとこちらを見た。

「…あの、よろしいかしら?」

ミリアは思い切って声を掛けるが、少女は応じず鞍に飛び乗った。そして首にかけている笛をピィッと吹く。その笛の音に応えるように、巨大鳥は大きく羽ばたき、飛び立つ。

「…!ミリア。馬で追いかけるわよ、私の後ろに乗って」

「ええ……!」

2人は急ぎ馬に乗って、飛び立つ巨大鳥を追う。鳥は追われていることに気付いているようだ。馬を撒こうと、不規則な飛び方をしている。

「…馬を駆るかのように、巨大鳥を操っているわね…」

「……ええ…。やはり、『飼われている』鳥だわ」

「ミリア。とばすから、振り落とされない様に気をつけて」

エレーネの操馬の技もなかなかのようだ。鳥から離されず、ずっと追い続けている。ミリアもエレーネの腰にしっかり捉まりながら、巨大鳥を見失わないように目を凝らす。

十数分経っただろうか。荒れ地から岩山のエリアに入った。巨大鳥はその中を蛇行して飛び続けている。山が切り立ち、徐々に鳥の姿を捉えるのが難しくなってきた…、が…。

「エレーネ、あそこ!」

ミリアの指す先、岩山の上に鳥が止まっているのが見えた。鳥が疲れたのか、もしくは馬を撒ききったと思ったのか、羽を休めている様子だ。エレーネは手綱を操り、その鳥の元へと馬で登っていった。いただき付近まで上り、鳥まであと10数mまで近づく…。

が…。

2人の姿を認めて、鳥はまた飛び立った…。追おうとするも、エレーネは慌てて馬を止める。鳥が飛び立った方向は、切り立った崖だったのだ。

「……やられたわね…。追えない場所まで、誘い込まれていた」

舌打ちをするエレーネ。遠く小さくなっていく鳥の姿を、未練がましく見つめることしかできない。

「でも、これまでで一番大きな成果ね。鳥に乗っている人の顔も服装も覚えた。リカルドに良い報告ができるわ」

「……」

「ミリア?」

返事がないことを不思議に感じ、エレーネは背後のミリアを振り返った。ミリアは空ではなく、崖の下を見つめている。

「……エレーネ、あそこ、何かしら?」

「……?」

崖の遥か下方に、人が何人かいる様子が見える。レールのようなものが引かれ、トロッコを押している人間もいるようだ。何かを運んでいる…?

「……これは、鉱山かしら。こんなところに…?」

エレーネとミリアは馬から下りて、地図を開いた。今居る場所はツマルタ鉱山ではなく、もっと西に進んだエリアだ。地図には載っていない場所のようだ。

「新しい鉱山かしら。民営かしらね。町の人からも、こんな場所があるなんて聞いたことがないけど…」

「ええ…。ツマルタ鉱山よりは規模もとても小さく見えるわね……。ねえ、エレーネ…」

ミリアはじっと、下で働く人々を見ている。

「…あの、トロッコを押しているの、ゴナンに見えない?」

「え?」

聞かれてエレーネはじっと見てみる。が、遠すぎてよく分からない。




「…どうかしら…、そう、見えるような、見えないような…。バンダナを巻いているような、いないような…。ゴナンの視力があれば分かるかも。…ああ、そのゴナンを探しているんだったわ」

「……。ごめんなさい、気のせいかしら。希望的観測かもしれない」

「ハズレでもいいわよ。まだ探せていない場所が見つかったのよ。ひとまず、あそこに行ってみましょう」

2人は再び馬に乗り、来た道を下っていった。そして鉱山と思われる場所の入口を目指すが…。エレーネはその門構えに少し違和感を感じて、離れた場所で馬を止めた。

「…エレーネ?」

「……ちょっと変な感じね。まずは徒歩で近づいて、様子を見てみましょう」

エレーネのその判断で、そっと岩陰から入口の付近を窺う。鉱山には不要とも思われる堅牢で大きな木の扉がそびえ立ち、表には兵士らしき者が数人うろついている。門番、というよりも見張りのようだ。中の様子は全くうかがい知れない。

(……?)

「エレーネ。あの人達に、尋ねてみましょう?」

ミリアが小声でそう提案したが、エレーネは首を横に振った。

「…待って、ミリア。鉱山にしては、ここはちょっと様子がおかしいわ」

兵の身なりや振る舞いがまるで荒くれ者だし、外部を徹底して拒むような門構えは、ただの鉱山とは思えない。まだ犯罪人の流刑地と言われるほうが納得いく雰囲気だ。

「……ミリア…。ここは、きっと私達だけでは危ないわ。せめてナイフにも来てもらった方がいい。リカルドも…、まあ、今の状態で役に立つかは分からないけど…」

「……」

「今日往復しても、もう夜になってしまうから、明日、また来ましょう」

「……ええ、分かったわ。あなたの判断だから」

ミリアは深く頷いて、そっとその場を離れた。





↓次の話↓



#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?