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連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】9話「きっかけ」(4)
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9話 きっかけ(4)
ゴナンが行方不明になって、もう半月が経っていた。もちろん、一行はまだツマルタに滞在している。
「…リカルド…」
朝、いつものように宿の前に集合する4人。日に日に痩せていくリカルドを、ナイフは心配げに見る。
「…あなた、いい加減、夜に歩き回るの止めなさい。御飯もちゃんと食べて」
「……でも…」
リカルドが夜の徘徊を止められないのには理由がある。件の排水溝での遺体の発見が続いているのだ。見つかるのはいつも深夜か早朝。流石に「街に殺人鬼がいる」と騒ぎになっており、警察も駐屯軍も夜警はしているのだが…。
「……もし、ゴナンが襲われていたら、僕が助けてあげられるから…」
「……」
リカルドの目は沈んで、覇気もない。無精髭も生えっぱなし。そして毎日、捜索に出てはいるものの、もう思い当たる場所は探し尽くしている。リカルドはうなだれて、ミリアとエレーネに提案する。
「………2人は巨大鳥を追って旅を進めた方がいいよ。もう、鳥はこの地域を飛び立ってしまったかもしれない。ナイフちゃんがいれば、護衛は大丈夫だし。僕は、ゴナンが見つかるまで、絶対にこの街を離れないから…」
「…リカルド…」
と、ミリアがうつむくリカルドの顔の真下にやって来て、ぐっと見上げて、無理矢理、視線を合わせた。
「リカルド。わたくしは何も諦めないわ、ゴナンも、巨大鳥も。だから、まだこの街に居続けるわ。そうしないとどちらも見つからないでしょう?」
「……」
「でも、わたくしがゴナンを探すとゴナンが見つからないから、わたくしは今日も巨大鳥を探すわ」
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相変わらず、よく分からない根拠もないことを、自信満々に突き通してしまう。その王族オーラに少したじろぐリカルド。ふふ、とナイフが微笑む。
「…ひとまず、2人は今日も西の水場に張ってくれるのだから、私達は街を隅々まで探しましょ。ね」
ツマルタ鉱山の管理人に教えてもらった数カ所の水場。ここをミリアとエレーネは周回している。巨大鳥探しも、しっかりと続けているのだ。
「うん…。2人とも、気をつけてね」
「…リカルドもね」
エレーネは心配そうな表情を残して、ミリアと共に乗馬し、駆けて行った。腕組みをして見送るナイフ。流石のナイフも、ここ数日は言葉少なになってしまっている。最悪の事態も考えねばならない時期に来ていた。
「…じゃあ、ナイフちゃん……。僕も行くから」
「え…、ええ。気をつけて」
最近はリカルドは、当てもなくフラフラと探し回ることが多い。その動きが挙動不審で、住宅街を回っているときは警察に通報されてしまったこともあるし、夜には夢遊病患者だと噂される程になってしまった。当初は無茶な探索を止めようとしていたが、リカルドの場合はひとまず、どれだけ体調を崩しても『死ぬことはない』。気が済むまで探させることにした。
(……とはいえ、本当に、どうすればいいのかしら……)
ふう、とため息をつき、ナイフは飲み屋街の方へと向かった。鳥の姿はとうと見えないが、卵男の目撃情報はまだ、チラホラと出ているのだ。
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西の荒れ地の中にある、とある泉。
そのほとりに、エレーネとミリアは座って張り込みをしている。
ちなみに、2人が座る折りたたみ式の椅子は、リカルドの拠点のガラクタ部屋に使われず保管してあったものを借りている。ツマルタの職人が作った折りたたみの仕掛けが素晴らしい云々かんぬんと、元気がないながらもリカルドが長々と説明していた。使いもしない椅子が何脚も備えられてあることも不思議だったが、あの部屋を見たときに「よくわからないわ…」と呟いたミリアの物憂げな表情も印象的だった。同じような嗜好を持つ父や兄のことを思い出したのだろう。
泉の周りには少し緑もあり、空は雲一つない晴天。風がここちよく、気温も暑くもなく寒くもない。のどかで美しい場所だ。
「…なんだか、エレーネとのんびりピクニックしているような心地ね…。そんな状況ではないのに…」
ミリアはぼそりと呟く。
「……そうね…。ゴナン、まだ生きているのかしら…」
「…エレーネ!」
エレーネがこぼした言葉を、ミリアが諫める。
「……ああ、ごめんなさい。でも、余りにも日にちが経ちすぎているから…」
「……いえ、あなたのその疑問は、誤りではないわ」
そう言って、ミリアはエレーネの目をまっすぐ見た。
「…エレーネ…。あなたは、もう別の土地へ巨大鳥を探しに行きたいと思っているのではなくて?」
「え? そんなことはないわよ?」
「遠慮しないでいいのよ。わたくしはあなたの常備薬のことも知らなかったし、無理矢理引っ張ってきてしまって申し訳なかったと思っているの」
あんなに問答無用で引っ張ってきて、今さら?とエレーネは面白く思いクスッと笑ったが、口には出さなかった。
「…それは気にしなくて大丈夫よ。今はあなた達から離れるつもりはないわ。正直、1人で回っていたときは巨大鳥に関して何の手がかりもなくて、博士の論文が最後の頼みの綱だったの。それに…」
「それに?」
「……それに、ゴナンがいないまま、リカルドを見限って旅をするのは仁義にもとる、というか、あまり意味がない気もするし」
「……」
仁義、という言葉がエレーネから出てくることを少し意外に感じつつ、ミリアは少し首を傾げる。
「…わたくしは…、それにリカルドやゴナンも同じだと思うけど、卵を得るために鳥を追っているわ。でも、あなたは少し違うみたい。あなたは巨大鳥だけを追っている感じがするわ」
「……ええ、そうね…。卵の伝承のことも気にはなるけど、正直、そこまで興味がない」
「巨大鳥は不幸を振りまくのよ。それなのに?」
「そう。だから、よ。ついでに言えば、あなたの不運の星とやらも、もし本当なら…」
「……?」
ミリアがさらに尋ねようとしたときである。
ブワァッ、と風が2人の髪を巻き上げた。
ハッとして風の方を振り向くと、茶色の巨大な鳥が2人の頭上を越え、そして羽ばたきながら、泉の縁へと降りてきた。
(……! 来た…!)
↓次の話↓
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