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連載小説「オボステルラ」 【第三章】10話「扉の向こう」(5)


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第三章の登場人物



10話 扉の向こう(5)


 ドズはゴナンを背負ったまま、抗から出て、扉へと向かう。

しかし、そこにはドズの雄叫びに何事かと驚いた私兵たちが集まっていた。構わず出口へ進もうとするドズを、グレイが止める。

「…おいおい、ドズさん…。さっきの今で、これはねえんじゃないか? 一体何がしたいんだよ」

「大人しくしていようと思ったが、気が変わった。やはり、この子の命が大事だ。出ていく」

「ギャングの親玉が、そんなおきれいなことを言うなんてな」

「……人攫いや人身売買を生業にしているとは知らなかった。そのような場所には、私は居られない」

グレイをジロリと睨む。グレイは、嫌な笑顔を浮かべながら反論した。

「…お前さん、何ヵ月ここにいるんだよ。今更そんなことを言われてもねえ…。そもそも、お前さんが来てから見事な統率力でここの組織の仕組みを変えて、鉱石の収量がとんでもなく上がったから、人が足りなくなって追加で攫ってきてもらったんだ。そのガキもそうだよ」

「……!」

(つい『いつもの習慣』で、よかれと思ってやってしまっていたが…。まさか、ゴナンが攫われたのがそのせいだったとは…)

心の中では少し反省しつつも、ドズはグレイに続ける。

「そんなのは言いがかりだな。とにかく。私はここを出る」

「…ここから出すわけにはいかねえ」

グレイは舌打ちをし、私兵達に合図をした。抜剣し一斉に斬りかかる。しかし、ドズはその内の一人の腕を打ち据えて武器を奪うと、瞬く間に私兵たちを斬り倒していく。目にも止まらぬ、とは、まさにこのことだ。

(速い、強い……)

ゴナンは、高熱で意識を失いそうになりながらも、ドズの背からその戦いの様子を必死に見ていた。背中のゴナンを護りながら、そして敵を斬りつつも殺さないように戦っていることが分かる。返り血すら浴びない。

「…大人しくしてくれれば、痛い目に合わずに済むのだがな」




グレイをぎろりと睨むドズ。

「さもないと、兵が全滅してしまうぞ。お前も無事で済むかな?」

そう語る言葉は、決して脅し文句ではない。一人相手にここまで歯が立たないものかとグレイは憤るが、状況を冷静に判断した。

「……わかった。とても適わなそうだ。俺たちは知らず、とんでもねえ怪物を引き入れていたようだ」

「……世話になったな…」

「ただ、お前さんが出ていくのは仕方ねえが、今後、商売ができなくなるのは避けたい」

グレイは嫌な光を帯びた瞳を、ドズに向ける。ドズはふう、と息をつく。

「……ああ、分かっている。俺も随分世話になったからな。外に出ても、ここのことは漏らさない」

「…助かるよ」

もちろん嘘である。ゴナンを無事に送り届けたら、その足で警察に報告に行くつもりだ。

 私兵によって外側の閂が外され、堅牢な木の扉が開けられる。そこを悠々と歩いて出るドズ。結局、彼はその気になればいつだって、この扉の向こうへと出られたということだろう。

(…馬は、ないか…。ツマルタは、ここから真東の方角……)

ドズは夜空を見上げる。南に光る彼方星を右手に見ながら進んで行けばよい。月明かりもある。雲のない夜で良かった。

「ゴナン、起きているか?」

ドズは背中に声を掛けた。

「……うん……」

「…ああ、辛そうだな、すまない。これから街まで走る。揺れるが、辛抱してくれ。もし眠れそうだったら眠るといい」

(走る?)

ゴナンは、ここがツマルタからどのくらい離れているのかを知らなかった。尋ねようとしたが、熱で頭が上がらない。すぐにぐったりと、顔をドズの肩にもたれさせ、気を失った。

「……さて……、東…。一晩駆ければ、朝には着けるか……」

そう呟いてドズは、片手でゴナンの頭を優しく支えながら、その二本の脚で走り始める。馬で数時間の距離を人の足で一晩で走破するとは、とても尋常ではないのだが、その超人じみたすごさにまだゴナンは気付いていない。




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