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連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】8話「石を運ぶ」(4)


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第三章の登場人物



8話 石を運ぶ(4)


 さらに数日が経った。今日も変わらず石運びだ。

毎日へとへとになるが、ここでの作業に大分慣れてきたゴナン。ふと、自身が運んでいる石のことが気になった。

 ドズ達が岩壁から掘り出したたくさんの石の中に、時折、黒い石が混じっている。ゴナンが運んだ先では、数人の男達が石の仕分けをしている。黒い石とそうではない石だ。別々のトロッコに乗せられ、それぞれ外に運び出されていく…。この石は、何に使う物なのだろう…。

「…あの……」

ゴナンは、広場に石を届ける際、仕分けをしている男に尋ねた。

「あ?」
「あの…。この石は、なんの石、ですか……?」
「は? 知らねーよ」

男は吐き出すようにそう答える男性。ゴナンはしゅんとして、また違う男性に聞いてみる。

「……あの、この石は、何に使う石ですか? なんで黒いのを、分けてるんですか…」
「俺が知るわけねーだろう。うるせえよ。邪魔だ!」
「……」

そう冷たく言われ、ゴナンは押し黙ってペコリと頭を下げる。

(…自分が分けている石が何なのか、気にならないのかな……)

広場と岩壁の往復も、ドズに習ったように、少し大股で腰を低めにして歩いてみる。太ももに効く気がする。ザルに石を多めに積んで、腕も鍛えながら、腿に効く歩き方を…。

「おい、お前、なんでそんなおかしな歩き方なんだ?」

ゴナンのその様子を見て、見張りの私兵が声を掛けてくる。

「……この方が…、…力が入って、たくさん運べると、思って……」
「………」

私兵は鼻で笑い、アゴで先に進むよう促す。ゴナンは脚をプルプルと震わせながら進もうとしたが、ふと、止まった。見張りの人なら、分かるかも知れない。

「…あの……」

「ん?」

「…この石は、何の石ですか?」

「はあ…?」

「黒い石は、なんで分けるんですか……? 黒くないものも、黒いのも、どっちも何かに、使うんですか?」

「……?」

私兵は少し苛ついた顔になった。そのまま、ゴナンの腹をガッと蹴る。ゴナンはズサッと倒れ、ザルに積んでいた石が散らばる。

「……!」

「お前等はそんな余計なこと知らねえでいいんだよ。そんなこと聞く暇があったら、とっとと運べ!」

そう叫んで、尻餅をついたままのゴナンをもう一度、力任せに蹴る。体が飛ばされて転がり、苦しさにゲホッと咳き込むゴナン。

(…ゴナン……!)

ドズは岩壁からその様子を察知し、助けに入ろうかと一瞬動いた。が、起き上がるゴナンの面持ちを見て、すぐに止めた。心が折れていない。むしろ、望む答えが得られなくてただ不満そうな様子だ。声も上げずにペコリとお辞儀をすると、黙って石を拾い始める。私兵はその石を3、4個蹴り出して、ようやく溜飲を下げたようだ。周りの坑夫達は、「お前、随分、遠くまで飛んだなあ」などとゴナンをヘラヘラ笑っている。

「おら、よそ見してんじゃねえ、働け!」

私兵は周りにも当たり散らし、大仰に剣を振り回した。男共は肩をすくめて、作業に戻る。

ゴナンは石を拾いながら、手にした黒い石をじっと見てみた。よくよく見てみると石肌に少し艶があるように感じる。そういえば、この黒い石も、黒くない石も、普通の石より重い。同じくらいの大きさで比べてみると、黒い石の方が、より重いようだ。何か特別な石なのだろうか…。

(リカルドは知ってるかな? リカルドは何でも知ってるし、聞けば何でも教えてくれるのに……)

ザルに全て拾いきり、広場で作業場にざっと落とす。そして、また岩壁の方に戻ろうとすると、坑夫の一人が足を引っかけてきた。

「……!」
「おいおい、簡単に転ぶなあ…」

坑夫がそう面白そうに笑い、立ち上がろうとしたゴナンを小突いてまた転ばせた。反抗せず声も上げず、簡単に転がってしまうゴナンの反応が面白く、鬱憤うっぷんが溜まった坑夫達のよいおもちゃになってしまっている。立ち上がって歩くと、また別の坑夫がちょっかいを出す。先ほどはよそ見を咎めた見張りの私兵も、「おいおい」と言いながらもニヤニヤと傍観しているだけだ。

 ドズはその様子をもどかしく見ている。自分がかばいに行くのは簡単だが、恐らくゴナンがここで働き続ける上でよくないほうに働いてしまう。土まみれになりながらドズの元に戻ってきたゴナンに、ドズは小声で声をかける。

「……大丈夫か?」

ゴナンは表情を変えないまま無言で頷く。目の力は弱っていない、大丈夫そうだ。そうして、拾う石を時折じっと見つめたりしながら、いつもの鍛錬を兼ねた姿勢で、淡々と仕事を続けていた。


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