![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/129765450/rectangle_large_type_2_653dc8e8b5eb5a200469a55a620119e3.jpeg?width=800)
連載小説「オボステルラ」 【第三章】9話「きっかけ」(3)
<<第三章 9話(2) || 話一覧 || 第三章 9話(4)>>
第一章 1話から読む
9話 きっかけ(3)
藁の上に腰掛けて、ボンヤリ考え事をしているゴナン。
そこに…。
「お、まだ起きてるな」
と一人の男が話しかけてきた。見ると、今日一緒にトロッコを押した30代くらいの男だ。
「…はい…」
「あーあ、今日も疲れたな」
そう言いながら、男はゴナンの隣に座ってきた。おしゃべりな男だとは思っていたが、こんな時間まで話し相手でも探しているのだろうか。しかし、それにはゴナンはまったく役不足のように思えるが…。
「…はい…」
「いつまで続くんだろうな。でも、逃げようとして殺されたくもねえしな」
「……はい…」
「……」
相変わらず言葉少ななゴナンを、じっと見る男。あまりものしゃべらなさに苛ついているのだろうか? 早く遠くに行って欲しいとゴナンは思って黙っているが、男はまだしゃべり続ける。
「そういえばお前、髭はどうしているんだ? ここでは剃れないだろう?」
刃物の所持が許されないため、坑夫達は皆、髭も髪も伸びっぱなしだ。たまに見張り兵の気まぐれで、長く伸びたのを切ってくれることはあるという。
「…俺、まだ、髭、そんなに生えないから…」
「へえ…。成人してるのに? 珍しいな」
「……」
もちろん、それは年齢を偽っているからであるが、このおしゃべり男にそのことを説明する義理はない。ゴナンはまた黙り込む。男は構わず話し続けた。
「でも、その方が都合がいいな。…お前は顔立ちも綺麗だし、まあ、この暗さじゃそれは関係ないか」
「……?」
「体の細さも、背も、肌も、ちょうど良さそうだ」
そう言っておしゃべり男は体を近づけ、ゴナンの太ももを撫でるように触ってきた。ゴナンの全身にゾワッと鳥肌が立つ。いつのまにか、男の背後にはもう2、3人、他の男達も近寄ってきている。
「…あの……?」
「お前は我慢強いもんな」
「……?」
「声は出すなよ」
おしゃべり男は、きょとんとするゴナンの首に、ゆらりと片手を伸ばす。
ーーーしかし、直後におしゃべり男は「うわあっ」と叫び、後ろに飛び退いた。ゴナンが振り返ると、そこには大きな影。月光を背負ったドズが立っていた。洞の闇の中でもそうと分かるくらい、ぎろりと目を剥き男をにらみつけている。
![](https://assets.st-note.com/img/1707016646749-8b8cX54Q9T.jpg?width=800)
「…ゴナン…。今日は俺の所で寝ろ」
低く押し込めた声でゴナンにそう呼びかけながら、全身で男を威圧する。
「お前等は向こうで相手を探せ。どうせ、持て余している奴ばかりだろう」
「ひ……、はい……!」
おしゃべり男は悲鳴に似た返事をして、他の連中と共に逃げるようにその場を去って行った。ドズはゴナンの二の腕を掴んで立たせ、自分の寝床の方へと引っ張っていく。腕を握る力が強い。
「……ドズさん?」
「……」
洞に戻ったゴナンの付近に妙な雰囲気を察知し、慌てて駆けつけたドズ。
(…獣の血のニオイが良くなかったか。いや、そもそもゴナンはこの中では一番若い上に弱々しいし、狙われやすいタイプだ。昼間に抵抗せずやられっぱなしだったから、悪目立ちして、目を付けられたのかもしれない…)
男しかいない隔離された、娯楽も何もない環境だ。どうしても、そういうことはある。互いに了承し発散し合うだけならば問題はないし、きっと普通に行われているだろう。これまで洞のことは気にも留めていなかったが…。
「…ドズさん…? 俺、今、何か危なかった? 殴られるところだった?」
「……」
不思議そうにしているゴナン。自分の身に何が起ころうとしていたのか、全く分かっていない。ドズの寝床まで着くと座らせ、自身も正面に座ってゴナンの目を見ながら尋ねる。
「…ゴナン…。18歳と聞いていたが、それは嘘だろう。お前の本当の年齢を教えてくれ」
「……!」
そう尋ねられて、ゴナンはうつむく。
「…俺は、18歳だよ……」
「安心しろ、本当の年齢が分かったからといって、ここで何か罰せられることも、働けなくなることもない。俺は漏らさないから。ただ、知っておきたいのだ」
「……」
ゴナンは再びドズを見る。茶色の髪の間からは、優しさを湛えた強い瞳がゴナンを捉えている。
「…ゴナン…?」
そう、優しく呼びかける声に、ゴナンは小さく答えた。
「…じゅ…、15……」
「15歳、か……」
やはり、まだ少年だった。ふう、と息を吐くドズ。
「ゴナン。これから毎晩、夜は俺の傍にいて、ここで寝るんだ。俺から離れるな。絶対だぞ」
「……? 俺は守ってもらわなくても、大丈夫だって…」
「ああ、昼間はな。だが夜はまた別だ。まだ15歳だというのなら、ことさらだ。これは俺からのお願いだ。頼む」
「……」
ドズの説得に、ゴナンは頷いた。なぜかはよく分かってはいないが…。
(…15歳の少年が、なぜこのようなところに辿り着くんだ? ますます、不思議だ…)
石を払って寝場所を整えるゴナンを見ながら、ドズは疑問を膨らませていた。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?