連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】4話「ゴナンが消えた」(4)
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4話 ゴナンが消えた(4)
そこから、手分けをしてゴナン探しが始まった。
エレーネとミリアは工場の方へ向かい、ナイフは飲み屋街に人が来はじめるまでは周辺への聞き込みに出かけた。少しだけ仮眠を取ったリカルドは、馬を駆けて街を出て、ストネからツマルタへと歩いてきた道を少しずつ遡る。
獲物が獲れそうな場所を予測してそこを中心に探そう…、とも思ったが、そもそもゴナンがいなければそんな場所は分からない。仕方なく、ひとまずは歩いてきた道の周辺を馬で周回しながら、「ゴナン、ゴナン!」と声を掛け続けるしかできなかった。
やがて、ツマルタに到着する前日に野営をした場所に辿り着く。ここにいたのは3日前のこと。焚き火の跡がまだ残っている。
リカルドは馬から降りて近くの木につなぎ、その焚き火跡の前に座った。まだ黒いすすが残る土に触れる。野営をしていたときの、ゴナンの楽しそうな顔が印象的だった。
(とはいっても、ゴナンは表情はほとんど変わらないんだけどね…)
焚き火を見る目がキラキラ輝いていた。北の村で、井戸の見張りで一緒に野営したときと同じ瞳だった。あのとき、ゴナンの中に初めて、何かをしたいという煌めきのような意志を感じたのだ。その目の光は、まだ本当にかすかで、健気なものだったけど…。
(そして今、そのときの彼の願いが、叶っているはずなのに…)
リカルドは膝を抱えて顔を埋め、ため息をつく。目を閉じると、こちらを振り返りもせずにドアから出ていった、その後ろ姿が何度も脳内で反芻される。
(せめてあのとき、大きな声でゴナンの名を呼べていれば…。でも、それで、彼は振り返って、立ち止まってくれただろうか…?)
「…くそ…」
ぐしゃぐしゃと黒髪をかきむしるリカルド。
誰かに執着して心乱される、それは、これまでの人生でリカルドがもっとも忌避していたことだった。だからこそ、ナイフなど数名の心許す人以外とは厚い心の壁を設けて接してきたし、普段もなるべく心穏やかに物事をやりすごしてきた。居場所を一箇所に留めず旅の中に身を置くのも、何かに情を持つことを避けるためでもあったのだ。ただ…。
(そんなことはどうでもいい、とにかくゴナン、ゴナンが…)
リカルドはバッと立ち上がり、この野営跡の周辺を徒歩で探し始めた。
あの日、彼はどっちの方向へ狩りに出ただろうか? 東…、いや、この日は西の方だった。ゴナンがウサギの獣道を探しながら狩りに進んで行った足跡を思い出しながら、リカルドは歩きゴナンを呼び続ける。
と、少し歩いたところで…。
ーーーバサッ。
リカルドの頭上で、背後の方から羽音が聞こえた。この状況は、覚えがある。
(まさか…)
バッと見上げると、そこには、茶色の羽に包まれた巨大な鳥の姿があった。
「…巨大鳥……!」
思わず声に出すリカルド。
そして引き寄せられるように、鳥が飛び行く方へと駆ける。馬をつないでいる場所からだいぶ離れてしまっているため、足で追いかけるしかない…。
「ま、待って…」
リカルドのすぐ頭上を羽ばたいていたが、すぐに高度を上げていく巨大鳥。
そのまま西の方へと飛んで行く。やはり、鳥の背には人影が見える気もするが、ちょうど夕暮れにさしかかり逆光ではっきりとは見えない。
(やはり、僕の予測は正しかったんだ。しかも、巨大鳥を先回りできていた。今までよりも、かなり近づけている…!)
そのまま走って追いかけようとして、いや、一旦引き返して馬に乗って追いかける方が早い、と逆方向に走りだそうとしたが…。
(…あ…、僕は、今…)
すぐにリカルドは足を止めた。そして、振り返ってまた、巨大鳥を目線だけで追うリカルド。肩が少し、震えた。
(…今…、一瞬、僕は、ゴナンのことを忘れてしまっていた…)
みるみる小さくなる巨大鳥を睨むように見つめる。つい反射的に鳥を追ってしまった自分に、リカルドは愕然とした。つい先ほどまであんなに、ゴナンのことばかりを考えていたのに。
と、さらに、リカルドの頭上に気配を感じた。真上を見ると、もう一羽の鳥の姿。飛翔高度が高く、こちらも巨大な鳥なのかの判断は難しいが、先の巨大鳥を追う様に飛んでいっている。
一帯に草原が広がる平地、夕日の方に向かって、巨大鳥は飛んで行く。その姿を追うのに遮るものはない。2つのシルエットが徐々に小さくなり、点となり、消えゆくまで、リカルドは呆然と立ち尽くし眺めていた。
↓次の話↓
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